「2強」がITを駆使した新警備手法を開発。「見守り」など新事業に乗り出す動きも活発だ
下で紹介しているように、警備業務は「1号業務」から「4号業務」までの4つに大別できる。このうち、需要が最も大きいのが、オフィスや商業施設、住宅などの警備を行う1号業務だ。これらはさらに、「常駐警備」と「機械警備」とに分けられる。
警察庁生活安全局生活安全企画課の「平成26年における警備業の概況」によると、2014年末の警備業者数は9240。前年(9133)より1.2パーセント増、10年(9010)より2.6パーセント増で、警備業界における企業数は増加傾向だ。うち、警備員数100人未満の警備業者は8351で、全体の90.4パーセントを占めている。これらの小規模な事業者は常駐警備を手がけているケースが多く、労働集約型産業(資本や機械ではなく、人間の労働力に対する依存度が高い産業のこと)の側面が大きい。そのため、利益率は低く、他社との価格競争に陥りがちだ。
警備業者のうち、機械警備業者数は662で、前年(689)より3.9パーセント減、10年(750)より11.7パーセントも減った。機械警備の分野では、機器やインフラの整備に多額の資金が必要。そのため、経営基盤の強化を目指した合従連衡が進んでいるのだ。その中心となっているのが、セコム(15年3月期売上高8407億円)と綜合警備保障(ALSOK。同売上高3657億円)。この「2強」は、業界3位のセントラル警備保障(15年2月期売上高428億円)以下を大きく引き離しており、豊富な資金力を生かして新たな試みに取り組んでいる。今後、大企業が中小企業を買収してさらなる経営拡大を目指したり、逆に小規模な企業が大企業に対抗するために連携したりするケースは大いにあり得るだろう。
現在、焦点になっているのが、20年に開催される東京オリンピック・パラリンピックへの対応だ。世界中から多くの観光客が訪れ、会場や周辺の観光地などで多くの警備需要が発生すると予測されている。そこで大手各社は、少ない人手で高度な警備を実現するため、ITを積極的に導入。例えば、綜合警備保障は15年、警備の効率アップを目指して、警備員向けのモバイル端末を携帯電話型からスマートフォン型に切り替えた。また、新たな警備手法を研究する取り組みも盛ん。例えば、カメラを搭載したドローン(小型の無人飛行機)を使って施設の様子を遠い場所からモニタリングする、たくさんの人々を画像認証技術によって自動的に見分けるなどが、近い将来実用化されそうだ。また、SNSの書き込みや、各地の防犯カメラ・センサーから集められた情報などのビッグデータ(「膨大なデータ」という意味)を分析し、早い段階で警備体制を整えるなどの活用法も模索されている。
人の安全を守ったり、施設を管理するノウハウを強みとして、新規事業への進出を目指す動きもある。習い事などのため一人で移動している子どもや、体調に不安のある高齢者などを対象とした「見守りサービス」は、今後の成長が期待できる分野。また、火災検知や自動消火システムなどの防災ビジネス、電気自動車用の急速充電器や燃料電池車用の水素ステーションなどを展開する次世代自動車ビジネスも有望だ。日本で培ったノウハウを生かし、海外展開を目指すケースも増えるだろう。
警備業務は4つのカテゴリーに分かれている
オフィスや商業施設、住宅などの警備を行う業務。警備員を配置して出入管理や巡回などを行う「常駐警備」と、テレビモニターや各種のセンサーを使って遠隔監視し、必要に応じて警備員を派遣する「機械警備」とに細分される。
多くの人が集まる場所で、車や人の誘導や交通整理を行う業務。イベント会場などで行われる「雑踏警備」と、道路工事現場や駐車場などで車両や人の安全を確保する「交通誘導警備」に細分される。
現金、貴金属、有価証券、美術品などを輸送する際に、車両などを警備して盗難などを防ぐ業務。「輸送警備業務」とも呼ばれる。警備だけを手がける場合と、輸送業務まで担当する場合とがある。
著名人や企業経営者などを守る業務。いわゆる「ボディーガード」だ。また、センサーなどを使って子どもや高齢者を見守るサービスも、このカテゴリーに含まれる。
このニュースだけは要チェック <大手企業がITを活用した新警備手法を開発中>
・セコムが、防犯用の自律型飛行監視ロボット「セコムドローン」のサービス提供を開始した。ドローンには監視カメラとLEDライトが搭載されており、不審車のナンバーや車種、不審車の顔や身なりなどを上空から撮影することで、追跡・確保に役立てる。(2015年12月11日)
・綜合警備保障が日本電気と共同で、東京湾岸エリアで開催されたスポーツ大会「ザ・コーポレートゲームズ」においてITを活用した警備の実証実験を行った。顔認証による入場管理や、カメラ映像のリアルタイム解析による車いすの参加者・混雑状況の早期検知などに取り組んでいる。(2015年11月14日、15日)
この業界とも深いつながりが<IT業界とのつながりが密接になりそうだ>
工作機械・産業用ロボット
ドローンを使って不審者・車の警備に役立てる動きはさらに加速しそうだ
携帯電話キャリア
子どもや高齢者向けの「見守りサービス」は、携帯電話を利用するケースが多い
電子部品メーカー
センサーやカメラといった機器を活用して警備の効率化を図る企業が増加
この業界の指南役
日本総合研究所 シニアマネジャー 吉田賢哉氏
東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。専門は、新規事業戦略やマーケティング戦略、企業のビジョンづくり・組織戦略など。製造・情報通信分野などの業界動向調査や商品需要予測も手がける。
取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか