地方銀行編・2016年【業界トレンド】

人口減やマイナス金利で本業は伸び悩み。投資先開拓のため地域経済の盛り上げに注力

地方銀行(地銀)とは、特定の地域を中心に営業活動を行う銀行のこと。一般社団法人地方銀行協会に加盟する64行と、旧相互銀行から普通銀行に転換し、一般社団法人第二地方銀行協会に加盟している41行(「第二地銀」と呼ばれることもある)からなる。横浜銀行、千葉銀行、静岡銀行、福岡銀行などはそれぞれ総資産額が10兆円前後に達しており、地域経済の中で大きな役割を果たしている。

地方銀行協会加盟64行の2015年度上半期決算における純利益は5443億円。昨年同期(4532億円)に比べ20.1パーセント増えた。また、第二地方銀行協会加盟41行の2015年上半期決算における純利益は1122億円で、前年同期(1112億円)比0.9パーセント増だった。このところ、大規模な金融緩和や銀行同士の競争激化によって貸し出し時の利回りは低下する傾向。そのため、銀行にとって本業の「貸出金利息」も右肩下がりとなっている。しかし、投資信託や株式の配当金、保険商品の販売手数料が増え、さらに不良債権の処理額が減ったことで多くの地銀が増益を果たした。

しかし、不安材料は少なくない。多くの地方では人口減少が進んでおり、いずれは顧客からの預金額が縮小したり、貸出先が減ったりするのではないかと懸念されている。そして地銀の経営に深刻な影響を及ぼしそうなのが、日本銀行(日銀)が導入した「マイナス金利」だ。金融機関が日銀にお金を預けると、通常は利息をもらえる。しかしマイナス金利になると、逆に金融機関が日銀に利息を支払わなければならない。そのため、日銀に預けられていた金融機関の資金が企業や個人に貸し出され、景気浮揚につながるというのがマイナス金利の狙いだ。だが金融機関の立場から見れば、貸し出し時の利回りが下がってさらなる貸出金利息の減少につながる危険性が大きい。

そこで各行には、収益源の多様化、新たな貸出先の発掘、経営体力の強化、フィンテック(ファイナンスとテクノロジーを合わせた造語で、ITを活用した金融サービスのこと)への取り組みなどが強く迫られている。その一環として盛んになっているのが、「ファンドを通じた大学発ベンチャーへの支援」だ。例えば、山陰合同銀行は15年1月、「とっとり大学発・産学連携ファンド」「しまね大学発・産学連携ファンド」を設立。また、伊予銀行は16年2月、愛媛大学と共同で「いよぎん愛媛大学発ベンチャー応援ファンド」を設立した。各行は大学などで芽生えつつある新ビジネスに投資し、地域の有力産業に育てることを目指している。

地方自治体や商工会議所、大学、地域の企業などと連携し、「地方創生」に取り組む動きも活発だ。例えば、中国銀行、広島銀行、山口銀行、阿波銀行、百十四銀行、伊予銀行、みなと銀行は日本政策投資銀行と共に、瀬戸内地域の観光産業活性化に向けた新法人設立に関する「基本合意書」を締結。また、福岡銀行、熊本銀行、親和銀行、大分銀行、宮崎銀行は共同で「九州観光活性化ファンド」を設立するなど地域の活性化にも注力する方針だ。ほかにも、太陽光・地熱といった再生可能エネルギー事業へ投資を行うファンドもある。このように、地方銀行が中心となって地域経済の活性化を目指すケースは、今後さらに増えていきそうだ。

合併・提携によって経営基盤の強化を目指す地銀も多い。下で紹介しているように、15~16年にかけて多くの地銀が経営統合を行った。また、北海道銀行が北海道新幹線の開業などを見据えて東北の地銀各行とATM手数料の相互無料化を行うなど、緩やかな提携を模索するところもある。

地銀経営統合の一例

肥後銀行と鹿児島銀行
熊本県を地盤とする肥後銀行と、鹿児島県を地盤とする鹿児島銀行が2015年10月に経営統合し、持ち株会社として九州フィナンシャルグループを設立。県内でトップシェアを獲得している地銀同士が経営統合するのは初のケースと話題になった。

横浜銀行と東日本銀行
日本最大級の地銀である横浜銀行と、東京を地盤とする東日本銀行が16年4月に経営統合。持ち株会社としてコンコルディア・フィナンシャルグループを設立した。両行合わせた総資産は17兆円を超え、「最大の地銀グループ誕生」と報道された。

ふくおかフィナンシャルグループと第十八銀行
福岡銀行、親和銀行、熊本銀行を傘下に置くふくおかフィナンシャルグループと、長崎県を地盤とする十八銀行が17年4月に経営統合する方針を発表。4行の総資産額は合計で18兆円以上となり、地銀グループとして最大級の規模となる。

このニュースだけは要チェック <有力地銀の連携に注目が必要>

・北洋銀行、第四銀行、東邦銀行、千葉銀行、中国銀行、伊予銀行の6行が共同出資し、フィンテック関連の研究開発会社を設立すると発表。互いに協力することで、基幹システムやスマートフォンを活用した新サービスの開発などを効率化・スピードアップ化するのが狙い。(2016年3月16日)

・地方銀行と日本郵政グループが、提携の拡大を目指していると一部で報道された。地銀の預金を郵便局で出し入れできるようにする、共同で地域活性化ファンドを設立するなどの方向性が模索されているという。今後には不透明な部分もあり、続報に注目しておきたい。(2015年12月31日)

この業界とも深いつながりが <フィンテック推進のためIT系企業と協力>

IT(情報システム系)
人工知能やビッグデータなどを活用した金融サービスは非常にホットな話題

地方自治体
地域経済を活性化するため、地方自治体とタッグを組むケースは増えそう

食品
銀行が培ってきたネットワークを活用し、地域の特産品を各地に売り込む

この業界の指南役

日本総合研究所 シニアマネジャー 高津輝章氏

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一橋大学大学院商学研究科経営学修士課程修了。事業戦略策定支援、事業性・市場性評価、グループ経営改革支援、財務機能強化支援などのコンサルティングを中心に活動。公認会計士。

取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか

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