地方自治体編

人口減少と高齢化は深刻な課題。住民や企業を巻き込み地域を盛り上げる工夫が不可欠だ

地方自治体は「基礎自治体」(日本の場合、市町村と特別区が該当)と、いくつかの基礎自治体が集まった「広域自治体」(日本の場合、都道府県が該当)とに分かれる。どちらも、その地域に住む人々に対して福祉・保健、教育、警察、消防などのサービスを提供するのが役割。中でも基礎自治体は、住民にとって非常に身近な存在だ。

 

日本では1999年から2010年にかけ、財政基盤の強化などを目指して市町村の合併が進められた(いわゆる「平成の大合併」)。これにより、1999年3月末時点で3232あった市町村は、2010年3月末時点で1727まで減少(16年2月時点では1718)。これと並行し、1999年時点で323.2万人いた地方公務員も、2015年には273.8万人となっている。

 

都市部以外の地方自治体は、人口減少と高齢化という共通の課題を抱えている。東京などへの人口集中が進む一方、それ以外の地域では若い人々が転出して人口減に歯止めがかからない状況。そうして働き手となる現役世代が減り、税収が落ち込んで公共サービスの質が下がったり地域の活力が失われたりした結果、さらなる人口流出を招くという悪循環に陥っているのだ。

 

日本政府も、この問題を重く見ている。そこで地方が成長への活力を取り戻し、人口減を克服できるよう「地方創生」を掲げた動きが進行中だ。まず取り組まれているのは雇用の創出である。例えば、地域の農産品や観光資源の魅力を再発見し、それをほかの地域や世界に向けて発信。そうすることで、特産品の販売を活性化させたり観光客の呼び込みにつなげたりすることが期待されている。また、産業と金融が一体となって地域を盛り上げ、「稼ぐ力」を高めることも重要なポイント。地方の経済活動を活性化すれば、働き口を増やし人口減少を抑制できるだろう。

 

地方自治体が政府や企業などと協力し、都市から地方へと人の流れを変えようとする動きもある。例えば、人口減で増えた空き家を都市圏の住人に貸し出して休暇を楽しんでもらったり、空きビルを企業のサテライトオフィス(キーワード参照)やテレワーク(キーワード参照)の拠点として活用したりする試みが代表的。また、官公庁や公的研究機関の一部を地方に移転させる計画も検討されている。さらに、退職したシニア世代に介護・医療体制が整った地方への移住を促し、健康なうちは地方で再就職してもらったり地域活動の担い手として活動してもらったりする「日本版CCRC構想」(キーワード参照)にも注目が必要だ。

 

結婚・出産・子育てを支援し人口を増やすことも、地方自治体にとって大切なこと。また、住みやすい街づくりを進めるため、「コンパクトシティー」(キーワード参照)を目指すところもある。そして今後は、財政問題などを抱え単独で住民向けサービスを提供できなくなる地方自治体が増えそう。近隣の地方自治体が、道路・河川の管理、病院や学校の運営、ゴミ処分などを共同処理する「広域連携」の動きが活発化するかもしれない。

 

地方自治体の財政事情は厳しくなる一方。これからは限られた予算と人手の中で地域が抱える課題を解決し、新たな行政サービスを作り出す工夫がさらに求められるだろう。そのため、ほかの自治体、住民や民間企業などを巻き込み、協働する機会が増えそうだ。また、地方の特産品を全国に売り込むなど、提案・発信・営業力が問われる場面も増えると考えられる。

 

地方自治体志望者が知っておきたいキーワード

サテライトオフィス
satellite(衛星)のように、本社などから離れたオフィスのこと。都市部ではなく郊外に設置されることが多く、ネットワークを通じて本社や取引先とやりとりする仕組みだ。従業員側からみれば、通勤ラッシュがなく自然に囲まれた地方で働けるのがメリット。企業側にも、オフィスの維持費などが安く済むなどの利点がある。

テレワーク
teleとは、「遠く」という意味の接頭辞。tele+workで、「遠く離れた場所で働くこと」という意味になる。ITを活用し、自宅や外出先、サテライトオフィスなどで場所や時間にとらわれず働くスタイルを指す。パソコンやスマートフォン、インターネットが普及したことで、オフィス外でも仕事をする環境が整いつつある。

日本版CCRC構想
CCRCとはContinuing Care Retirement Community(継続的なケア付きの退職者向け共同体)の略。東京圏など都市部に住むシニア層が、健康なうちから地方に移住し、介護や医療が必要となる時期まで継続的なケアや生活支援サービスなどを受けたり、生涯学習や社会活動などに参加できたりする地域のこと。

コンパクトシティー
公共施設や商業施設といった都市機能を、徒歩や自転車で移動できる狭い範囲に集約した街のこと。コンパクトビレッジと呼ばれることもある。高齢者など車の運転ができない「交通弱者」でも生活しやすい、道路や上下水道の効率が高まるなどのメリットがある。

このニュースだけは要チェック <「地方創生」に向けた取り組みが進行中>

・政府が地域再生法改正案を閣議決定した。高齢者の地方移住や地方自治体同士の広域連携などを促進するため、新たな交付金の仕組みを整えている。また、地方自治体に寄付をした企業の税金を軽減する「企業版・ふるさと納税制度」の導入なども盛り込まれた。(2016年2月5日)

 

・酒類に関する研究機関である独立行政法人酒類総合研究所の東京事務所(東京都北区)が、同研究所の広島事務所(広島県東広島市)内に移転。政府関係機関を地方に移し、「都市部から地方へ」という人の流れをつくり出す試みの一つとして位置づけられている。(2015年7月10日)

 

この業界とも深いつながりが <地方銀行などと協力して地域経済活性化に努力>

地方銀行
地域経済の要である地方銀行と協力しながら、地域経済を盛り上げていく

旅行・ホテル
地域の観光資源を再発見し、観光客を呼び寄せる取り組みが活発になりそう

鉄道
コンパクトシティーの実現には鉄道・バスなど公共交通機関との協力が不可欠

 

この業界の指南役

日本総合研究所 シニアマネジャー 吉田賢哉氏

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東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。専門は、新規事業戦略やマーケティング戦略、企業のビジョンづくり・組織戦略など。製造・情報通信分野などの業界動向調査や商品需要予測も手がける。

 

取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか

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