デジタル化や3D・4Dなど技術進化が続く。非映画コンテンツや海外展開で収益拡大を目指す動きも
映画業界は、資金を集めたり映画を作ったりする「企画・製作」、映画の宣伝や映画館の確保などを行う「配給」、映画館を運営する「興行」の3段階に大別される。東宝、東映、松竹といった大手映画会社は、企画・製作から興行までの流れをすべて網羅。例えば東宝グループは、映画の製作を手がける東宝映画、洋画輸入・配給する東宝東和、映画館の運営を行うTOHOシネマズなどの企業を傘下に持つ。これに対し、主に企画・製作に携わるテレビ局、配給を手がける独立系配給会社、興行を担当するシネコン(キーワード参照)運営会社のように、いずれかの段階だけを担う企業もある。
一般社団法人日本映画製作者連盟によれば、2015年の邦画・洋画を合わせた興行収入は2171億円。前年(2070億円)より4.9パーセント拡大した。01年以降、興行収入は2000億円前後で安定的に推移している。15年の内訳を見ると、邦画の興行収入が1204億円、洋画は968億円で「邦高洋低」(キーワード参照)の傾向。ただし、興行収入が50億円を超えた邦画は2本(『映画 妖怪ウォッチ 誕生の秘密だニャン!』と『バケモノの子』)だけだったのに対し、洋画では5本(『ジュラシック・ワールド』『ベイマックス』『シンデレラ』『ミニオンズ』『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』)が50億円超えを果たした。なお、2000年に計2524だったスクリーン数は、シネコンの拡大とともに05年2926、10年3412と急増。しかし、15年は3437と伸びが鈍化している。
ここ数年、映画業界では「デジタル化」の取り組みが進められている。従来の映画はアナログフィルムで製作・上映されていたが、これをデジタルに切り替えつつあるのだ。デジタル化には、「フィルムのように摩耗することがなく、映像の品質を高く保てる」「撮影・編集の手間やコストを削減できる」「フィルムの発送・保管にかかっていたコストを抑えられる」などのメリットがある。設備投資の問題などから当初は普及が進まなかったが、現在では大多数の映画館でデジタル映画の上映が可能になっている。
また、映画館で「非映画デジタルコンテンツ」(キーワード参照)を流す動きも活発。デジタル化を推し進める過程で各社は映画館の通信回線を整備してきたが、その結果、さまざまな映像コンテンツをリアルタイム配信できるようになったからだ。例えば、スポーツの試合、舞台や音楽ライブなどを全国の映画館で生中継し、収益を得ようとする試みは、今後さらに増えていきそうだ。
3D、4D技術の進化にも、ぜひ注目しておこう。09年の映画『アバター』を皮切りに、専用のメガネをかけることで立体的な映像を楽しめる3D映画が登場。さらに15年4月には、シートが動く、館内に風・水しぶき・香り・霧などを発生させるといった手法を組合せて臨場感を高めた「4D映画館」が国内オープン。映画館には設備投資が求められるが、付加価値が高く、通常より高い価格でチケットを販売できるメリットがある。『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』、『ジュラシック・ワールド』、『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』などの人気作が対応したこともあって、4D設備を導入するシネコンは今後増えていきそうだ。
海外展開も重要な課題だ。特に有望視されているのが、アニメ作品や、マンガやアニメの実写版作品。日本のマンガやアニメは世界的な人気を得ていることから、関連作品を世界へ売り込むことで各社は収益拡大を目指している。例えば、15年の東宝作品である『寄生獣』『進撃の巨人』シリーズは、海外展開が積極的に行われている映画の代表格だ。
映画業界志望者が知っておきたいキーワード
シネマコンプレックス(Cinema Complex)の略で、複数のスクリーンを持つ映画館のこと。2015年12月末現在、日本には計3437のスクリーンが存在するが、約87パーセントにあたる2996はシネコンのスクリーンである。
「邦高洋低」
邦画の人気が洋画を上回っている状態を指す言葉。1990年代以降、日本では邦画より洋画の人気が高かった。しかし2006年、邦画の興行収入が洋画のそれを逆転。07年は洋画が上回るが08年以降は再逆転し、以来「邦高洋低」が続いている。
非映画デジタルコンテンツ
ODS(Other Digital Stuff)とも呼ばれる。サッカーや格闘技の試合、音楽・お笑いライブ、オペラや演劇といった映画以外の映像を配信し、視聴者を呼び込む動きは今後も広がりそうだ。
製作委員会方式
映画会社、テレビ局、レコード会社、総合商社、出版社、おもちゃメーカーなどが資金や知恵を出し合い、映画を製作・配給するやり方のこと。複数の企業が出資することでリスクを小さくできるし、宣伝やグッズ開発・販売、DVD流通などのノウハウを持つ企業が集まることでより大きな成功が期待できる。
このニュースだけは要チェック <4D映画館関連の動きに注目したい>
・イオンシネマを運営するイオンエンターテイメントが、2016年夏までに「越谷レイクタウン」「名取」「筑紫野」「京都桂川」の4劇場に4D映画が見られる設備を導入すると発表。今後も、4Dに対応する映画館は増える可能性がある。(2016年2月19日)
・映画やアニメ作品の映像配信サービス「bonobo」が本格オープン。東宝、東映、松竹、KADOKAWA、ウォルト・ディズニー・ジャパンなどが参加しており、映画会社「直営」のサービスとして注目されている。新作をいち早く公開するなどの工夫をして、多くの視聴者を呼び込む方針。(2015年12月1日)
この業界とも深いつながりが <マンガの実写化で出版社などと協力>
出版
マンガや小説を実写化し、互いに連携しながら国内外に売り込んでいく
テレビ
人気テレビドラマが映画化され、大ヒットするケースはかなり多い
おもちゃ
アニメ映画では、関連グッズ開発に強いおもちゃ会社と協業することも
この業界の指南役
日本総合研究所 シニアマネジャー 吉田賢哉氏
東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。専門は、新規事業戦略やマーケティング戦略、企業のビジョンづくり・組織戦略など。製造・情報通信分野などの業界動向調査や商品需要予測も手がける。
取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか