金利低下によって利益は出しづらい状況。新たな貸し出し先を見つける取り組みが急務に
信用金庫と信用組合は銀行と同様に、預金を集め、個人や事業者に資金を貸し出す機能を持っている。ただし、出資者(=信用金庫の場合は「会員」、信用組合の場合は「組合員」と呼ばれる)が特定の地域・業種の中小・零細企業や個人に限られ、相互扶助の理念の下、会員・組合員に金融サービスを提供する非営利法人である点は、株式会社として利益を追求する銀行と異なる。そのため、会員・組合員から預かったお金(預金)を、ほかの会員・組合員に貸し出すのが基本的なビジネスモデル。中小・零細企業を中心とした地域経済を支える、重要な存在といえる。2016年10月末時点の信用金庫数は265、信用組合数は153。なお、信用金庫には信金中央金庫、信用組合には全国信用協同組合連合会という「系統中央機関」があり、各信用金庫・信用組合に対して業務機能補完と信用力向上などを目的とした各種サービスを提供している。
ここ数年、多くの信用金庫・信用組合は業績を伸ばせていない。例えば、関東財務局管内の信用金庫(72金庫)の16年3月期実質業務純益(本業による利益)は、対前年度比7.8パーセント減の1463億円。信用組合(53組合)の16年3月期実質業務純益は14.5パーセント減の299億円だった。利益減少の背景にあるのが金利の低下。信用金庫・信用組合は、出資者から預かったお金への金利(預金金利)と、貸し出し時に受け取る金利(貸出金利)との差、すなわち「利ざや」から利益を得ている。しかし、16年2月に「マイナス金利政策」(金融機関が日本銀行に預けているお金に対して、マイナスの金利をつけるもの)が導入されるなど、歴史的な低金利が続いているために利ざやが小さくなっているのだ。さらに、地方銀行も含めた金利競争が激化しているのも悩みの種となっている。
そこで信用金庫・信用組合には、貸し出し先・営業先を新たに発掘したり、収益源を多様化したりする取り組みを進めている。1つ目の取り組みは「地域を超えた連携による取引先支援」。例えば、16年2月、第一勧業信用組合(東京都)と塩沢信用組合、糸魚川信用組合(いずれも新潟県)の3信組が業務連携協定を締結。塩沢信用組合、糸魚川信用組合の取引先が手がける新潟県の食材を、第一勧業信用組合の取引先である東京の飲食店に紹介するなどの取り組みを行っている。また16年11月には、しののめ信用金庫(群馬県)が磐田信用金庫(静岡県)、諏訪信用金庫(長野県)とそれぞれ業務提携協定を締結。3つの信用金庫は自動車関連の製造業が集まった地域にあり、部品調達の際に相互に取引先を紹介することなどを目指している。信用金庫・信用組合は地域密着型ビジネスが中心だが、地域を超えた連携によって営業網を広げ、融資の拡大を目指そうとしているのだ。
2つ目は「起業・事業開発支援」。地域の起業家を応援したり、既存事業の新規事業を手助けしたりして、新たな貸出先を発掘・育成する取り組みだ。例えば、京都信用金庫(京都府)は毎年「京信・地域の起業家大賞」を開催し、地元の優れた事業を支援している。また、神戸信用金庫(兵庫県)は地域に雇用を生む企業に対して投資を行う「こうべしんきんステップアップファンド」を創設し、地域の活性化を目指している。創業を目指す人に向け、無料相談会などを開く信用金庫・信用組合も多い。
ユニークなキャンペーンを企画して預金や貸し出し先を広げようとする取り組みもある(下記「取り組みの一例」参照)。また、他業界の企業と提携して利益拡大を目指す動きも多い。例えば、しずおか信用金庫(静岡市)と三島信用金庫(三島市)は、コンビニエンスストア大手のファミリーマートと提携。両信用金庫の出資者であるテナント事業者やビルオーナーに対し、ファミリーマートの出店を提案する仕組みだ。今後は、企画力や情報発信力を磨いて、地域の企業や地方自治体などを数多く巻き込みながら提案する能力が、各信用金庫・信用組合には求められそうだ。
預金や貸し出し先を拡大しようとする取り組みの一例
若年層優遇ローン
塩沢信用組合(新潟県)がローンの審査で、若年層を優遇する仕組みを打ち出した。住宅ローンを借りて住宅を購入する若者が増えれば、その地域に定住する人口が増えて地域活性化につながるという狙いもある。
ネット経由の住宅ローン
約20の信用金庫が、2016年9月からインターネット上で住宅ローンの取り扱いを始めた。現在は、本審査などの際に利用者が信用金庫に出向く必要があるが、将来的にはネットだけで手続きが終わるようにする予定。利用者側の利便性は高まり、信用金庫側のコスト削減にもつながる取り組みとして注目される。
投資者優遇キャンペーン
長野信用金庫(長野県)が、定期預金と同時に投資信託を申し込んだ人に定期預金の金利を優遇するキャンペーンを実施。低金利で利ざやが減っている状況に対応するため、貯蓄から投資へとシフトさせることで手数料収入アップを目指している。
このニュースだけは要チェック <地方銀行などとの競争が激しくなっている>
・地域金融機関に公的資金を注入する仕組みを定めた「金融機能強化法」の期限を5年間延長する法案が、参議院本会議で可決された。信用金庫・信用組合などの資本を増強する仕組みを継続することで、地域の中小企業の資金繰り安定化を図る狙いだ。(2016年11月25日)
・信用金庫の「系統中央機関」である信金中央金庫が、信用金庫の支援策を発表。自分が死んだ後で指定した人物に財産を渡す「遺言代用信託」、贈与税の非課税枠を活用する「暦年贈与信託」といった商品を提供することで、信用金庫の預金が地方銀行やメガバンクなどに流出することを防ごうとしている。(2016年10月31日)
この業界とも深いつながりが <地域経済のまとめ役として幅広い業界と協力>
地方自治体
信用金庫・信用組合は地域に根ざした組織。自治体と協力する機会も多い
旅行・ホテル
他地域の信用金庫・信用組合と協力し、観光客増加の支援をすることもある
外食
ほかの信用金庫・信用組合と提携して地域の名産品などを全国に売り込む
この業界の指南役
日本総合研究所 シニアマネジャー
高津輝章氏
一橋大学大学院商学研究科経営学修士課程修了。事業戦略策定支援、事業性・市場性評価、グループ経営改革支援、財務機能強化支援などのコンサルティングを中心に活動。公認会計士。
取材・文/白谷輝英 イラスト/千野エー