堅実に成長中だが人口減が懸念材料。来店客増加のため、各社はさまざまな工夫を打ち出す
外食業界には、レストラン、ファストフード店、居酒屋といった各種飲食店を運営する企業が属する。個人経営の店が圧倒的多数を占め、大手企業の市場シェアが低いのが、この業界の特徴。業界トップ企業のゼンショーホールディングス(牛丼チェーン「すき家」や回転ずしチェーンの「はま寿司」などを運営。2015年度の売上高は5118億円)でさえ、市場シェアは約2パーセントに過ぎない。
一般社団法人日本フードサービス協会によると、2015年における外食産業の市場規模は25兆1816億円。前年(24兆6326億円)に比べ2.2パーセント増え、4年連続の成長となった。国内景気が回復傾向で外食支出額が増えていることや、訪日外国人旅行者の増加などが追い風になっているとみられる。中でも好調なのがファストフード店。日本フードサービス協会の「外食産業市場動向調査」によれば、2015年まで3年連続で減っていたファストフードの総売上額は、2016年には6.0パーセント伸びた。一方、4年連続で年2~4パーセント程度の成長が続いていたファミリーレストランは、前年比0.4パーセント増と伸びが一服。また、パブレストラン・居酒屋は前年比7.2パーセント減で、8年連続して前年を下回った。
全体で見れば、ここ数年は緩やかに成長を続けている外食業界だが、長期的な見通しは必ずしも明るくない。少子高齢化と人口減少で国内の市場規模は頭打ちが予測されるのに加え、中食(家庭外で調理された食品を持ち帰り、自宅で食べること)市場の拡大が懸念材料となっているからだ。今後は、限られた需要を外食企業同士で奪い合うだけでなく、スーパーマーケットやコンビニエンスストア、持ち帰り弁当店、総菜店といった中食企業との競争も厳しくなるだろう。
外食産業では、3つの大きな変化が起きつつある。1つ目は「消費者ニーズの多様化」。多彩なメニューをそろえ、幅広い消費者を対象にしたファミリーレストランや総合居酒屋が苦戦する一方、焼き鳥やしゃぶしゃぶに特化した居酒屋などのように、ジャンルや商品カテゴリを絞り込んだ専門業態が人気となっている。こうした流れに対応するため、大手企業では複数のブランドを展開するところが多い。2つ目の変化は「人手不足」。スタッフが足りずに店舗閉鎖・営業時間短縮に追い込まれる企業は、決して少なくない。また、人手を確保するために給与水準を高め、それによって人件費の高騰に悩む企業もある。今後は、外国人やシニア人材の活用などが焦点となりそうだ。そして3つ目の変化が、「食の安心・安全への取り組み」を求める声がさらに高まっていること。外食企業の中には、食材が国産であると明示したり、「野菜工場」を設立して安全な食材を栽培したりするところが増えている。
こうした変化が進む中、各社はさまざまな工夫を打ち出して生き残りを図っている。まずは、多彩な消費者ニーズに合わせた業態やメニューを開発し、新たな顧客を取り込もうとする動きに注目しよう。例えば、ファストフード店が「ちょい飲み」用のサービスやメニューを提供して居酒屋の分野に参入するなどの試みがなされている(下記データ参照)。また、顧客の来店頻度を高めようとする取り組みも活発。定番メニューの改良、季節限定メニューの投入、ポイントカードなどを提示することでポイントが貯まる仕組みの構築、店舗清掃や従業員教育への注力によるサービス品質の向上などが代表例だ。
価格戦略の重要性も増している。景気回復による消費者心理の改善や、円安による原材料費高などを背景に、高単価メニューの開発に力を入れる企業は多い。松屋フーズが展開する牛丼チェーン「松屋」が、一般の牛丼より高品質で値段も高い「プレミアム牛めし」を発売しているのは、その一例だ。こうした高価格帯の商品は利益の幅が大きいため、多くの企業が競って開発を進めている。一方で、2016年以降に消費者の節約志向が再び高まっている点は懸念材料だ。店舗を低価格帯ブランドの店に切り替える企業も現れている。例えば居酒屋の分野では、幅広いメニューを揃え、客単価を3000~4000円程度に設定した「総合居酒屋」を、メニューを焼き鳥や串カツなどに絞り込み、さらに客単価を2000円前後と従来よりも低価格に設定した「低価格かつ専門性の高い居酒屋」へと業態転換する動きが加速中。対象となる顧客層を見極め、それに合った価格戦略を打ち出すことがますます大切になっているのだ。
海外進出を目指す企業も増加傾向だ。すしなどの和食店は、世界各国で人気が高い。また、ラーメンチェーン「一風堂」を運営する力の源ホールディングスが海外店舗を増やす計画を発表する(下記ニュース参照)など、ラーメン、牛丼、カレーライスなどを提供する企業が海外進出するケースも目に付く。
外食企業が打ち出す新たな取り組みの例
ファストフード店やファミリーレストランが、「軽く一杯飲みたい」人に向けたサービスを提供。アルコールの種類を増やしたり、リーズナブルで手軽なおつまみメニューを用意したりして、居酒屋を利用している層の取り込みを図っている。
ファストフード店が朝食専門メニューを提供し、出勤前のビジネスパーソンにアピールする。あるいは、ファミリーレストランが高齢者限定の割引サービスを用意するなど、新サービスを提案することで新たな顧客層を開拓しようとする動きもある。
「昼はカフェ、夜はバー」、あるいは「昼はそば店、夜は居酒屋」などのように、時間帯によって異なる業態で店舗を運営。来店客を飽きさせないようにしたり、時間帯ごとのニーズに合わせたメニューを出したりすることで売り上げ増を目指している。
外食業界は「プレミアムフライデー」効果に期待
月末の金曜日に早めの退社を奨励する「プレミアムフライデー」がスタート。都市部の飲食店にも、多くの来店客が訪れた。ただし、都心に比べると地方での効果は小さいという観測もあり、今後どの程度定着するか外食業界でも注目が集まっている。(2017年2月24日)
ラーメン店「博多一風堂」などを展開する力の源ホールディングスが、2016年末時点で国内133、海外63だった店舗数を、2025年までに国内300、海外300店舗までに増やす計画を発表。海外進出によって成長を目指す外食企業は、決して少なくない。(2017年3月21日)
この業界とも深いつながりが<コンビニなどの「中食」は強いライバル
コンビニエンスストア
コンビニエンスストアが提供する弁当類や総菜類は、外食産業にとってライバル
食品
食材の仕入れ先。食品メーカーが外食店を運営するケースもある
ビール・酒造
居酒屋などお酒を提供する外食企業にとっては、重要なパートナー
この業界の指南役
日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 関西コンサルティンググループ コンサルタント
木下直紀氏
東京大学法学部卒業。大学卒業後、大手都市銀行を経て現職。民間企業向けの事業戦略策定、業務プロセス改革、組織風土変革等の調査・コンサルティング業務に従事している。
取材・文/白谷輝英 イラスト/千野エー