自由化が進んで競争が激化。ガス会社と電力会社の両業界を巻き込んだ業界再編の可能性も
家庭や企業に供給されるガスは、「都市ガス」と「LPガス」(Liquefied Petroleum Gas。液化石油ガス)に大別される。都市ガスの主成分はメタンで、都市部に敷設されたガス管を通じて供給される。原料の大半は東南アジアや中東などのガス田で採掘された天然ガスで、冷却して液化された「液化天然ガス」(下記キーワード参照)として輸入される。一方、LPガスはプロパンやブタンなどを主成分とした比較的液化しやすいガスの総称であり、一般的には液化した状態でボンベに詰めて消費者に供給される。また、LPガスも中東など海外からの輸入に大部分を頼っている。なお、経済産業省によると、2013年3月時点における熱量ベースの販売比率は、都市ガス81.6パーセントに対してLPガスが18.4パーセントだった。
LPガスの分野では、1996年に自由化が実現している。これに対し、都市ガスの分野は政府の規制に守られた「安定した業界」であった。各地域のガス会社が認可区域内で独占的に事業を展開しており、企業同士の競争はほとんどなかったと言える。しかし、「都市ガスの自由化」が進むにつれ、経営環境は大きく変わりつつある。まず工場などの大口需要家向け分野では、1995年、1999年、2004年、2007年と段階を経て自由化が進み、都市ガスの自由な価格設定や認可区域外への供給が可能になった。そして2017年4月には、一般家庭向けの都市ガスでも小売りの全面自由化が実現。すでに敷設されているガス管を使って、既存の都市ガス会社以外の企業がガスを供給・販売できるようになった。
こうした中、電力会社大手の関西電力やLPガス大手の日本ガスなどが、都市ガス事業に新規参入を果たした。例えば関西では、2016年末に関西電力が都市ガスの割安な料金プランを発表して参入。これに対抗して大阪ガスが新料金を発表すると、関西電力はさらに割引率を高め、競争が激化している。首都圏でも、東京電力が2017年7月から都市ガスの供給を予定しており、東京ガスとの顧客の奪い合いが予想される。
自由化は今後も進む見込みだ。2022年4月には、販売量が多く、ガスの導管総距離が長い大手ガス会社3社(東京ガス・大阪ガス・東邦ガス)を対象に、液化天然ガスの基地事業・小売り事業と、ガス導管事業の兼業が原則禁止される予定(ガス導管事業の法的分離)。ガス導管事業の法的分離によってガス管の中立性が確保されれば、新規参入する企業が、より公平な条件で競争できると考えられる。
ガス業界と電力業界の垣根が低くなる中、競争力を高めるためにガス会社と電力会社が提携する動きが見られる。例えば、東京ガスは2016年4月、関西電力と液化天然ガスの安定調達で提携すると発表した。調達の価格交渉力を高めるとともに、電力需要とガス需要の増減に合わせて液化天然ガスを融通し合うことを想定している(下記ニュース参照)。こうした動きはますます盛んになると考えられ、最終的にガス・電力業界の中で事業者が数社に絞られていくことも予想される。
政府が進める「液化天然ガスのハブ化構想」についても知っておこう。すでに述べた通り、都市ガスの大部分を占める天然ガスは、その多くを輸入に頼っている。調達価格は供給側の原油価格に連動して動くため、値動きはかなり不安定だ。加えて、日本は世界の天然ガスの約1/3を消費する最大の需要国である。以上のような背景から、政府は「価格・供給」の両面で安定して液化天然ガスを調達できる環境を整備するため、日本を液化天然ガスの取引・価格形成の拠点(=ハブ)とすることを目指しているのだ(下記ニュース参照)。日本発信の液化天然ガス市場が実現するのか、今後の動向に注目したい。
ガス業界志望者が知っておきたいキーワード
液化天然ガス
LNG(Liquefied Natural Gasの略)とも呼ばれる。メタンを主成分とした天然ガスを冷却して液化したもので、主にオーストラリア・マレーシア・カタール・ロシアなどから輸入されている。天然ガスは石炭や石油に比べて燃焼時の二酸化炭素の発生量が少なく、温暖化対策に貢献する。また、都市ガスだけでなく火力発電の燃料としても使われている。
パイプライン
天然ガスなどを運ぶため、地中や水底面下に設置された管路のこと。日本には、国内で産出された天然ガス、あるいは海外から輸入された天然ガスをガス会社や消費者に届けるためのパイプラインが敷設されている。
エネファーム
「家庭用燃料電池コージェネレーションシステム」の愛称。コージェネレーション(cogeneration)システムとは、発電時に出る熱なども利用するエネルギー供給システムを指す。都市ガスなどから水素を取り出し、空気中の酸素と化合させて発電。さらに、電力を起こす際の廃熱でお湯を沸かすなど、ムダの少ないエネルギー利用が可能だ。
このニュースだけは要チェック<電力会社同士が提携する動きが活発に>
・東京ガスは関西電力との間で、液化天然ガスの安定調達と、液化天然ガスを原料とした火力発電所の運転・保守に関わる技術連携を進めていくことで合意した。天然ガスを調達する際の価格交渉力を高めるとともに、電力需要・ガス需要の増減に合わせて液化天然ガスを互いに融通し合うことを想定している。(2016年4月11日)
・経済産業省は液化天然ガスを安定的に調達するための方針を「LNG市場戦略」としてまとめた。(1)取引の容易性 (2)需給を反映した価格指標 (3)オープンかつ十分なインフラ の3つを基本要素として取り上げており、2020年代前半までに日本を液化天然ガスの取引や価格形成の拠点(ハブ)とすることを目指している。(2016年5月2日)
この業界とも深いつながりが<化学製品をさまざまな業界に提供>
電力
ガス業界と電力業界の垣根は低くなる傾向。競合、あるいは提携する機会が増加
住宅メーカー
「エネファーム」などを取り入れた住宅づくりで協力するケースが増えている
石油
石油会社の中には、都市ガス事業への進出を噂されているところもある
この業界の指南役
日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 未来デザイン・ラボ コンサルタント
小林幹基氏
京都大学大学院情報学研究科修士課程修了。大手電機メーカー、ニューヨーク大学客員研究員を経て現職。専門は、海外進出戦略、事業戦略、未来洞察による新規事業開発。
取材・文/白谷輝英 イラスト/千野エー