介護サービス編・2017年【業界トレンド】

高齢化によって市場は急拡大。人材確保を目指し、業務効率化などを進める企業が多い

介護サービスとは、高齢者や障害者など介護を必要とする人に対し、日常生活上の手助けを行うもの。主な分野としては、訪問介護(ホームヘルパーなどが介護を必要としている人の自宅を訪れ、食事や入浴などの支援をすること)や通所介護(介護を必要としている人が施設に通い、食事や入浴などのサービスを受けること。デイサービスと呼ばれることもある)などの「居宅サービス」、認知症対応型デイサービスなどの「地域密着型サービス」、特別養護老人ホームなどの「施設サービス」に大別される。厚生労働省によると、2006年度にかかった介護サービス・介護予防サービスの費用は6.2兆円だったが、2016年度には9.7兆円にまで拡大している。

市場拡大の背景にあるのが、介護サービスを必要とする高齢者の増加だ。内閣府の『平成29年版高齢社会白書』によると、2000年時点における日本の高齢化率(人口に占める65歳以上の割合)は17.4パーセント。しかし、少子化の影響や、「団塊の世代」(下記キーワード参照)が65歳以上となったことなどから急速に上昇し、2016年には27.3パーセントとなった。この間、日本の人口は1億2700万人前後でほとんど変わっていないため、高齢化率が高くなった分だけ高齢者が多くなっているのだ。今後も高齢化率は高まる見込みで、2030年には 31.2パーセント、2040年には35.3パーセント、2050年には37.7パーセントと予想されている。

介護サービス業界の大手企業としては、ニチイ学館(2016年度の介護・ヘルスケア事業の売上高1473億円)、SOMPOホールディングス(2016年度の介護・ヘルスケア事業の売上高1108億円)、ベネッセコーポレーション(2016年度の介護・保育事業の売上高1030億円)などがある。ほかには、デイサービス分野で強みを発揮するツクイ(2016年度の売上高733億円)、介護用品分野のパラマウントベッドホールディングス(2016年度の売上高732億円)やフランスベッドホールディングス(2016年度の売上高486億円)などある。ただし、この業界は新規参入へのハードルがさほど高くなく、中小規模の企業が比較的多いことが特徴だ。

市場規模が急速に拡大し、業界にはさまざまなビジネスチャンスが訪れている。一方、課題も少なくない。例えば、人材不足は深刻だ。厚生労働省は、2025年における介護サービス業界の人材需要が253.0万人、人材供給が215.2万人で、40万人近い不足が発生すると予測している。そこで業界各社は、介護スタッフの待遇改善や外国人技能実習制度(下記キーワード参照)を通じた人材確保、ロボット・人工知能(AI)・IoT(下記キーワード参照)などを活用した介護負荷の軽減などを進めているところだ。また、介護される人が増え、社会保障費が増大している点も課題。政府は財政赤字を減らすため、3年に1度行われる「介護報酬改定」を通じて介護サービスの価格抑制を目指している。さらに、介護費用の抑制に向け、介護予防(下記キーワード参照)や地域包括ケアシステム(下記キーワード参照)の取り組みを進行中だ。こうした新たな制度や法律の動向については、ぜひチェックしておこう。

収益の確保や多角化を目指し、保険外サービスを手がける動きも注目しておきたい。例えば、高齢者の安否確認や配食などのサービスなどは国の介護保険の対象外だが、高齢者やその家族からのニーズは大きく、取り組みを始める企業が増えている。また、海外の富裕層を狙った動きも活発だ。例えばニチイ学館は、2012年に中国の上海に進出して以降、中国事業の拡大を続けている。また、パラマウントベッドホールディングスも2010年以降、海外販売を強化。アジアや中南米での販売体制を整えている。

すでに述べたように、介護サービス業界では新規参入へのハードルが低い。そこで、新規参入がきっかけとなって業界地図が大幅に塗り変わる可能性もある。例えば、損害保険会社で「3メガ」の一角であるSOMPOホールディングスは、2015年に居酒屋チェーンを手がけるワタミから介護事業を買収。2016年には、業界大手だったメッセージを買収して一気に業界トップクラスの規模に成長した。また、小売大手のイオンは、子会社イオンリテールを通じて2015年から介護事業に取り組み始めている。今後も、拡大する市場を狙って異業種からの参入が続くとみられ、M&Aや業界再編が起きることも十分にあり得るだろう。

介護サービス業界志望者が知っておきたいキーワード

団塊の世代
第二次世界大戦終了後の1947~1949年に生まれた世代を指す。3年間の合計出生数は約806万人で、これは2014~2016年(3年間の合計出生数299万人)の2.7倍にも達する。この世代は2012年以降に前期高齢者(65~74歳)、2020年以降に後期高齢者(75歳以上)となり、介護サービスの需要拡大をもたらしている。
IoT
Internet of Thingsの略称で、「モノのインターネット」と訳される。身の回りのさまざまなモノをインターネットに接続し、活用することを指す。介護業界では、高齢者にセンサーのついた端末をつけたり、センサーのついたベッドを使ってもらったりすることにより、インターネットを通じて健康状態などを把握する取り組みが進行中。介護者の負担軽減や、より高品質な介護サービスの提供につながると期待されている。
外国人技能実習制度
開発途上国などの外国人を日本で一定期間(最長5年間)受け入れ、現場での業務を通じて技能を移転し、国際貢献を図る制度。2017年11月1日からは介護でも外国人技能実習生の受け入れが可能となり、国内の人材不足解消にも一役買うものとして注目されている。
介護予防
高齢者が要介護状態になることを防いだり、要介護状態の人に対して機能回復の支援や悪化の防止を行ったりすること。最近では、高齢者に対して地域活動への参加を促す試みが盛んになっている。高齢者には、地域と触れ合うことで生きがい・やりがいを感じてもらえるし、地域社会の側にも高齢者を受け入れやすい素地ができるという利点がある。
地域包括ケアシステム
重い要介護状態になっても、住み慣れた地域で自分らしい暮らしを続けられるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援を一体的に提供する仕組みのこと。暮らしの中で自らこなせることは高齢者自身が行ったり、地域で互いに支えあったりするよう促すことで、高齢者の健康が維持できるようになり、結果として介護・医療支出の抑制につながるものと期待されている。

このニュースだけは要チェック<先端技術を活用しようとする取り組みに注目>

・ニチイ学館が日本電気(NEC)と業務提携し、「人工知能を活用した高齢者の介護・自立支援サービス開発」に向けた研究を開始すると発表。人工知能を使い、一人ひとりの高齢者に合ったケアプランを提案できる仕組み作りを目指すという。(2017年11月10日)

・パラマウントベッドホールディングスが、医療・介護分野を専門的に扱う研究機関を設立すると発表。ITや人工知能などを活用した医療・介護のあり方や、安全・安心・快適な療養・生活環境の実現に向けた調査・研究などを行う方針。(2017年6月13日)

この業界とも深いつながりが<ITを活用した教材の開発が加速>

工作機械・産業用ロボット
介護者を補助する「ロボットスーツ」や介護ロボットは、人材不足の解決に役立つ

外食
高齢者向け施設や高齢者世帯に対し、配食サービスを提供する外食企業がある

電子部品メーカー
ベッドなどにセンサーを設置して高齢者の健康状態把握を目指す取り組みが活発化

この業界の指南役

日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 シニアマネジャー
吉田賢哉氏

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東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。専門は、新規事業戦略やマーケティング戦略、企業のビジョンづくり・組織戦略など。製造・情報通信分野などの業界動向調査や商品需要予測も手がける。

取材・文/白谷輝英 イラスト/千野エー

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