海外企業の成長で国内メーカーは苦境に。次世代パワー半導体など有望製品の成否に注目
半導体は、スマートフォンやコンピュータなどの情報機器、テレビや電子レンジなどの家電機器、自動車など、さまざまな製品の価値を高めるため重要な役割を担っている。こうした製品の付加価値を高めるには、常に半導体の技術向上やコストダウンを目指すことが必要だ。そこで各社は、技術研究や設備導入に多額の投資を行っている。また、必要とされる投資額は年々増加の一途だ。一方、半導体市場は「シリコンサイクル」と呼ばれる、数年に一度の上げ基調と下げ基調を繰り返す。そのため、設備投資リスクと在庫リスクがきわめて大きい業界だと言えるだろう。こうした中、資金力の弱いメーカーは設備投資競争に敗れ、巨大な企業に統合されるケースが増えている。また、「ファブレス(設計特化)」や「ファウンドリ(製造特化)」など、専業化する企業も少なくない。
半導体市場に関する統計機関WSTS(WORLD SEMICONDUCTOR TRADE STATISTICS:世界半導体市場統計)によれば、2012年の世界半導体市場は2916億ドル。対前年比で2.7パーセントのマイナスだった。背景には、世界経済の停滞やパソコンの販売不振などがある。ただし、今後は緩やかな回復傾向だと予測されており、WSTSでは13年の世界市場を2978億ドル(対前年比2.1パーセント増)、14年は3129億ドル(対前年比5.1パーセント増)、15年は3249億ドル(対前年比3.8パーセント増)とみている。一方、13年の国内市場は、急激な円安によりドル表記した売上額が見かけ上大幅なマイナスとなったこと、電子機器生産の低迷などによってドルベースでマイナス成長の予測。だが、14年には対前年比3.9パーセント増、15年には2.2パーセント増と、こちらも回復基調に戻る見込みだ。
日本の半導体メーカーは、かつて大きな存在感を誇っていた。1990年代前半には、世界シェアの大半を占めていたほどだ。しかし、2000年代初めに起きたIT不況や、欧州・韓国メーカーの果敢な設備投資・技術開発によって、市場シェアは徐々に縮小。その結果、2000年前後に業界は大再編を余儀なくされた。その後、巻き返しを図ってきた国内メーカーだが、08年のリーマン・ショック以降、世界的な不況によって半導体の需要が激減。各社は大幅な赤字に陥った。そして、12年2月にエルピーダメモリが事業再生法を申請。13年2月にはルネサスエレクトロニクスが産業革新機構の資金受け入れを決定するなど、「日の丸半導体」と呼ばれた2社は事業再生に追い込まれている。
ほかの企業でも、リストラ、事業や生産設備の売却、統合などの動きが活発だ。例えば、富士通は半導体子会社である富士通セミコンダクターのマイコン・アナログ事業を、米国の半導体企業スパンションに売却。また、台湾のTSMCと共同で新会社を設立し、そこに三重工場の機能を移管した。さらに、パナソニックと富士通は「システムLSI」事業を統合すると発表している。このように、事業を再編成して生産性を高めようとする取り組みは、今後も進められるだろう。
未来の有望製品としては、「次世代型パワー半導体」を挙げておきたい。パワー半導体とは、電力を上げ下げしたり、交流から直流に変換したりする半導体のこと。炭化ケイ素などの新素材を使うことで、従来に比べて大幅な省電力を実現できるという。現在、複数の企業・研究所・大学が加わって共同研究体を設立。国内の企業、研究機関、政府などが協力して事業を進める「オールジャパン体制」で製品化を目指している(ニュース記事参照)。
また、「半導体の集積化」も注目すべきポイント。以前は、半導体の回路の線幅を狭くする「微細化」が、半導体の進歩をけん引してきた。ところが、現在では微細化がより困難になっている上に、微細化によって得られる効果も小さくなりつつある。1チップに多くの機能を詰め込んでも、性能は上がりづらくなったし、消費電力は逆に増えてしまう傾向にあるのだ。そこで、機能を複数のチップに小分けし、それをパッケージ内で統合する手法が有力になってきた。今後、スマートフォンなどの機器には、こうした「チップ統合技術」を使った半導体が数多く採用されるはず。こうした技術の動向については、ぜひ注視しておきたい。
押さえておこう <半導体メーカー志望者なら知っておきたいキーワード>
fabrication facility(=工場=fab)がない(=less)、つまり生産機能を持たない製造企業のこと。半導体の設計だけを行い、製造はファウンドリに外注する。スマートフォン・携帯電話向け半導体などを手がける米クアルコムなどが代表格。
英語ではfoundry。半導体を実際に製造する企業のこと。半導体製造を専門に行う企業を指す場合もある。 半導体の微細化が進むに連れ、空気中のホコリなどがきわめて少ない、高コストなクリーンルームが必要になった。そのため、工場の建設には莫大な投資が必要になり、ファウンドリは世界的に集約が進んでいる。代表格は台湾のTSMC
LSIとは、Large Scale Integration(大規模集積回路)の略。システムLSIは、さまざまな機能を1つのチップで実現した、超多機能な集積回路のこと。スマートフォン、デジタルカメラ、携帯用音楽プレーヤー、自動車の電子装置などに組み込まれている。
要チェックニュース! <国内企業、再生への取り組みに注目しよう>
・経営不振に陥っていた国内半導体大手のルネサスエレクトロニクスが、政府系ファンドの産業革新機構からの出資を受け入れるため、株式発行枠を拡大。産業革新機構はルネサス株の約7割を取得して、経営権を握る予定。国や国内大企業の支援を受け、リストラなどを進めながら再建への道を探る。(2013年2月22日)
・富士電機や住友電気工業、アルバックなど16社と、産業技術総合研究所、筑波大学が共同研究体を設立。各企業からの出向者などを集結し、互いの強みを持ち寄りながら、次世代のパワー半導体の開発を進める。オールジャパン体制で世界市場を目指す取り組みとして注目を集めている。(2012年4月27日)
つながりの深い業界 <スマートフォン向け半導体の需要が急速に拡大中>
携帯電話メーカー
スマートフォンのシェア拡大により、半導体需要も大きく高まっている
デジタル家電メーカー
半導体の性能が上がると、テレビ・冷蔵庫・電子レンジなど家電の性能も向上
自動車メーカー
電気自動車、ハイブリッドカーなどは、電気制御を行うため多数の半導体を搭載
この業界の指南役
日本総合研究所 副主任研究員 山浦康史氏
慶應義塾大学大学院工学系研究科修士課程修了。通信・メディア・テクノロジー分野を中心としたさまざまな業界における経営戦略・計画策定、事業性評価、新規事業展開支援、R&D戦略策定支援などのコンサルティングに従事している。
取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか