電力・ガス編・2014年【業界トレンド】

自由化による新規参入増で競争は激化。再生可能エネルギーとエネファームに注目を

従来の電力・ガス業界は、景気変動の影響を受けにくい「安定業界」と言われてきた。しかし、2011年に起きた東日本大震災以来、その経営環境は激変している。

福島第一原発の事故をきっかけに日本中の原発が停止したため、電力各社は火力発電の比率を高めざるを得なかった。その結果、液化天然ガス(LNG)などの燃料費がかさんで経営を圧迫。さらに、13年初頭から始まった円安傾向によって燃料の輸入価格が高騰したため、電力各社の収益は悪化した。14年3月期の連結決算において、電力10社のうち北海道、中部、関西、中国、四国、九州電力の6社が経常赤字。うち、中国電力を除く5社は、震災以来3期連続で赤字と苦境に立たされている。原発の早期再稼働は地方自治体や地元住民の合意を得にくいと見られ、今後も厳しい状況が続きそうだ。

国内の景気回復は、電力業界にとっても明るいニュース。工場やオフィスといった業務用需要の拡大が期待できるからだ。しかし、節電への取り組みや他エネルギーへの転換が進んだことで、現時点での需要は期待ほど伸びていない。電気事業連合会によれば、12年度の電力需要実績は、10社合計で8516億キロワット時。前年(8598億キロワット時)に比べ1.0パーセント減となった。14年4月の消費税増税により、各社は電気料金の値上げを予定。さらに、赤字穴埋めのために再値上げの可能性もあるため、さらなる需要減の危険性もあり得るだろう。

「電力の小売り自由化」も、電力業界に大きなインパクトを与えている。政府は、16年をメドに、一般家庭が電力会社を自由に選べる仕組みを導入すると発表した。これを受け、都市ガス企業、通信系企業、総合商社といった異業種組が、電力事業に相次いで参入。既存サービスとのセット割引などを打ち出し、顧客の取り込みを図っている。例えば、ケーブルテレビ会社のジュピターテレコムは、マンション向けにケーブルテレビサービスと電力小売とのセット販売を実施。ソフトバンクも、インターネット接続サービスの「Yahoo! BB」と電力小売りとのセット割引を検討中とされる。

「再生可能エネルギーの拡大」も大きなトピックスだ。太陽光発電、風力発電などの普及を後押しするため、政府は電力買い取り価格の優遇措置を実施。とりわけ、洋上風力発電は、従来の陸上の風力発電より高い買い取り価格が予想されており、今後普及が進みそうだ。

一方、ガス業界は堅調だ。一般社団法人日本ガス協会によると、12年度における一般ガス事業者のガス販売量は363.23億立方メートルで、前年(359.12億立方メートル)に比べて1.1パーセント増。3年連続の増加で、過去最高を記録した。中でも伸びているのが工業用の需要で、対前年比で1.9パーセント伸びている。

ただし、LNG価格が高騰しているのは、電力業界と同様に懸念材料。また、電力業界との顧客の奪い合いも、さらに激しさを増しそうだ。そこで成長のカギを握りそうなのが、都市ガスなどから水素を取り出して発電する「エネファーム」(キーワード参照)。国や地方自治体から補助金が出ていることもあり、販売台数は急激に伸びている。

電力・ガス業界ともに、今後しばらくは不透明な状況が続きそう。安定志向な人より、チャレンジ精神を持つ人材が求められるだろう。

押さえておこう <電力・ガス業界志望者が知っておきたいキーワード>

天然ガス価格の見直し
日本では液化天然ガスの安定供給を図るため、10年単位の長期契約を結ぶことが多かった。その価格は原油価格と連動しており、ここ数年の原油価格高止まりによって、天然ガスの価格も割高になっている。そこで、輸入価格を引き下げるため、従来の契約を見直そうとする試みが盛んになっている。
シェールガス
地中深くの頁岩層(けつがんそう。別名シェール層)から採掘される天然ガスのこと。アメリカなどで急速に採掘量が増え、新エネルギーとして大いに関心が集まっている。シェールガスの供給が増えれば天然ガス価格の引き下げも期待できるため、電力・ガス業界も恩恵を受けられる。
エネファーム
「家庭用燃料電池コージェネレーションシステム」の愛称。コージェネレーション(cogeneration)システムとは、発電時に出る熱なども利用するエネルギー供給システムを指す。都市ガスなどから水素を取り出し、空気中の酸素と化合させて発電。さらに、電力を起こす際の廃熱でお湯を沸かすなど、ムダの少ないエネルギー利用が可能。
再生可能エネルギー固定価格買取制度
太陽光発電、風力発電などの「再生可能エネルギー」によって生み出された電気を、一定の期間、決められた価格で電気事業者が買い取ることを義務づけたもの。12年7月から施行。この効果で、大規模太陽光発電所(メガソーラー)の建設が相次いだ。

このニュースだけは要チェック <電力自由化を見据えた動きが活発>

・ソフトバンクが、電力小売事業への参入を発表。14年春から企業向けの電力販売を始め、電力自由化が予定されている16年には家庭向けにも販売を行う計画だ。同社は、太陽光発電などの再生可能エネルギーを手がける子会社を傘下に抱えており、消費者からの注目も集まっている。(2014年1月31日)

・九州エリアで展開しているガス会社の西部ガスが、LNGを燃料とする火力発電事業への参入を発表。17年度にも北九州市で発電所建設に着手し、20年度の稼働開始を目指すという。ガス会社が電力事業に参入して新たな収益の柱を模索する取り組みは、他社でも十分可能性があるだろう。(2014年1月27日)

この業界とも深いつながりが <家庭向け発電機の需要増で住宅メーカーとの協業が増えそう>

住宅メーカー
オール電化、家庭用燃料電池システムなどの分野で連携する機会が増加

総合商社
天然ガス・原油などの原料権益を確保するため、総合商社と協力する

デジタル家電
太陽光発電、燃料電池などの分野で、電機メーカーと協力する機会は多い

この業界の指南役

日本総合研究所 副主任研究員 粟田輝氏

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慶應義塾大学大学院理工学研究科修士課程修了。専門は経営・事業戦略、各種戦略策定・実行支援や事業性評価。幅広い業界・規模の企業を対象としている。最近では、今後さらなる発展が期待されるブラジル市場に注目し活動中。

取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか

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