スウェーデンにある日系企業の現地法人に勤務。現地での楽しみは、家族旅行やゴルフ、テニス、ソフトボールなどのスポーツ。ローカルスタッフとのパーティーと駐在員仲間との飲み会も良い気晴らしになっている。
築年数が古くなっても住宅の価値は下がらない
こんにちは。アルフレッドです。今回は、スウェーデンでの私の暮らしについてお話しします。
こちらでの住まいは、会社が斡旋(あっせん)する不動産会社に事前に希望を伝え、いくつか候補を挙げてもらった中からピックアップしました。家賃が決められた上限の範囲内であれば、どんな住まいを選んでも構いません。家賃の自己負担分についても1平方メートル当たりの金額が決められており、自己負担額を除いた分は会社が負担してくれます。自己負担額は、日本での借り上げ社宅の賃料に基づいて決められているようです。
ところが、スウェーデンには持ち家を推進する制度があり、基本的に賃貸住宅が市場に出回っていないため、実は住宅探しが非常に困難。出回っているものは、オーナーが持ち家を転勤の期間だけ貸し出すリロケーション物件と、数が少なくて10年近く待たないと入居できないこともあるような公共賃貸住宅のみとなります。そうした事情もあり、当社の家賃補助も、スウェーデンについては上限金額を引き上げてくれており、おかげで選択肢も広がって助かっています。
スウェーデンの持ち家推進制度については、詳しいことはわかりませんが、子どもが成人するまで住宅手当が出ると聞いたことがあります。まだ子どもがいない若い夫婦は都市部の1LDKのマンションに住み、子どもが生まれて手狭になったら、郊外の一戸建てに買い替えるというスタイルが一般的のようです。都市部は人口も増えており、市内のマンションは東京並みに高額で、日本円に換算すると5000万円を超えるのが相場だとか。2LDKだと1億円程度にもなります(2013年12月現在)。
結婚直後にこのような物件が購入できるのは、住宅手当のおかげもありますが、男女平等の社会のために女性が社会進出していることも背景にあるようです。ほぼすべての家庭が共働きでダブルインカムのため、このような高額の物件が流通するのでしょう。国を挙げての子育て支援や、父親でも育児休暇が取りやすいという企業風土も影響しているようです。
なお、スウェーデンの住宅は、木造が主体の日本の住宅と比べて、大変強固であり、加えて地震もないため、中古住宅も日本のようには値が下がりません。築100年以上の物件でも5000万円以上の値で売買されているケースが多々あるほどです。私が今借りている物件は、築130年の分譲マンションですが、家賃は1カ月約40万円とやはり高額であり、築年数が古くなるほど建物の価値が減ってしまう日本とは大違いです。
加えて、付加価値税(ぜいたく税)が25パーセントと高いので、外食するととても高くついてしまいます。一般的なレストランでも、ランチ定食が約1200円から。4人家族がレストランに夕食を食べに行くと、飲み物抜きでも1万円以上かかってしまうため、わが家は基本的に自炊が中心です。幸い、市内に日本食材店が数軒あり、調味料や和食材は一通り手に入ります。ただ、値段が日本の相場の2~3倍と非常に高いため、日本にいるときのように気軽には買えないのが残念。そのため、日本人駐在員の多くが、日本出張や一時帰国の際に、スーツケースを2個持ち、日本でたくさんの食材を買い込んできているようです。
ふらっと寄れる定食屋やファミレスもないので、特に一人暮らしの駐在員は苦労が多い模様。皆さんなんとか自炊しているようです。そもそも、スウェーデン料理は気候のせいなのか塩辛いものが多く、日本人の口には合いにくいこともあり、そのせいもあって外食の頻度は減りがちですね。
インフルエンザも自力で治す
ところで、「北欧」というと、社会福祉が充実していてうらやましいというイメージを抱いている方が多いかもしれませんが、実際にこちらに住んでみると、日本のシステムと比べて一長一短があり、どちらが良いのかは正直判断できません。特に医療は、子どもと高齢者の医療費が無料であることから、一見とても手厚い制度のように思えますが、国の医療費負担が重い分、医師は必要最小限な治療しか行ってくれず、薬の処方も同様。日本だったら当然のように処方してもらえる薬も、出してはもらえず、インフルエンザにかかってもタミフルやリレンザなどは処方されません。そのため、皆インフルエンザにかかっても、病院には行かずに“自然治癒”を待つしかないのです。私や家族も、簡単な風邪、発熱の場合は、病院には行かずに日本から持ってきた市販薬を飲んで家でじっとしていることが少なくありません。
1人あたりの医師の数も、日本に比べると非常に少なく、ホームドクターの診察は簡単に受けられても、その後の専門医の治療は長い順番待ちとなります。すぐに手術をしなければ命にかかわるような病状でない限り、治療は後回しにされ、たとえそれが初期のがんであったとしても、1カ月以上待たされることもあるようです。一方、万人に対して平等に対応してくれる日本の医療は、患者にとっては有り難いのですが、それが医師の過酷な労働条件につながっていることを考えると、スウェーデンと日本のどちらが良いと単純に割り切ることはなかなか難しいと感じます。
また、日本からだと大変な出費となるヨーロッパ旅行ですが、スウェーデンからならひとり分の旅費とほぼ同額で家族旅行ができることから、年に2~3回は旅行に行っています。これまでに行ったのは、イタリアのローマ、フランスのパリ、デンマークのコペンハーゲン、ノルウェーのオスロやフィヨルド地形の一帯、フィンランドのヘルシンキやラップランドなど。デンマークとノルウェーのオスロには車で行きましたが、基本的に旅行には飛行機を使っています。ヘルシンキへはストックホルムから深夜運航の大型フェリーで船中泊しながら移動しました。船内はカジノもある非日常的な空間で、とても楽しかったですね。
こうしてヨーロッパをめぐることができるのは、ヨーロッパ駐在員ならではと言えるかもしれません。ヨーロッパは、どの国にも古い歴史があり、それぞれ雰囲気が異なるので、刺激にもなります。スウェーデンで一緒に暮らしている家族のストレス発散のためにも、定期的な旅行は必須ですね。
というのも、スウェーデンに限らず、海外生活にはストレスがつきものだからです。特に子どもは、日本の友達と別れて、こちらでゼロから人間関係を築き上げなければなりません。私の子も、学校では友達こそすぐにできましたが、数カ月もの間、英語が思うように話せず、意思疎通ができなかったようです。そのため、喧嘩(けんか)のときもすぐ手が出てしまい、とても苦労していました。しかし、数カ月後には、先生や友達の言っていることが理解できるようになり、数年経(た)った今は、言葉もスムーズに出てくるように。喧嘩も英語でやりあっています。日本の学校と違い、親が助けてあげようにも助けられない環境で荒波に揉(も)まれて育ったことがよかったようで、わが子ながら、とてもたくましく成長したものだと感心しています。
また、スウェーデンは、日本と比べて外国人に対する対応も寛容で親切な一方で、基本的にはすべての行動は「自己責任」。気を抜くことはできません。海外はどこも似たり寄ったりかもしれませんが、まずスリなどの軽犯罪が非常に多いのです。私たち家族も、ストックホルムや旅行先で目抜き通りを歩いていて二度スリに遭いました。いずれも、気を張っていたためすぐに気づき未遂に終わりましたが、どんなに注意していても、若者に囲まれて強引に身ぐるみ剥がされてしまうケースもあり、注意だけでは被害を防ぎきれません。車上荒らしも多く、私も自家用車の中に置きっぱなしにしていたポータブルのカーナビゲーションを、助手席の窓を割って盗まれたことがあります。スウェーデンは、ヨーロッパの中でも、比較的治安が良い国とされていますが、それでもこのように数年の間に複数回被害に遭ったり、被害に遭った話を聞くのです。
ただし、比較的移民が多い市街地中心部などでは、このようにスリなどの軽犯罪が多く、決して気を抜くことはできませんが、基本的には中立国らしい温和な国民性にふさわしく、善良な人々が多い印象があります。ヨーロッパのほかの国では、レンタカーを借りるときに傷のチェックを怠ったがために、返却時にクレームをつけられ、もともとあった傷も自分の責任にされて10万円近く請求されるというトラブルが多数発生していますが、スウェーデンではそのようなことはありません。性善説に基づいた実に良心的で牧歌的なやり方が通用するという意味では、実に住みやすい国なのかもしれません。
次回は、海外駐在に臨む心構えについてお話しします。
ストックホルムの住宅地。集合住宅だけでなく、一戸建てもあるが、一戸建ての方がより高価になる。
よく子どもを遊ばせているヴァーサ公園。冬に日を浴びられない分、夏には日向ぼっこをする人が大勢集まる。冬にはスケートリンクにもなる。
老舗デパート内でのファッションショー。何の前触れもなく突然始まるが、自然に人が集まってくる。
旅行で訪れたスウェーデンのダーラナ地方レクサンドでの夏至祭。広場の中心に立つメイポールを囲んで歌い踊りながら祝う。
構成/日笠由紀