住宅メーカー編・2014年【業界トレンド】

懸念材料はあるが市場は回復傾向。各社は省エネや耐震などで差別化を図っている

住宅メーカーとは、一般消費者から注文を受け、一戸建て住宅を設計・施工する企業。大手企業としては、積水ハウス、大和ハウス工業、積水化学工業、住友林業、旭化成ホームズなどが挙げられる。ただし、年間施工棟数が1000棟を超える大手のシェアは、首都圏で3割程度。一方、年100棟未満の企業がシェアの4割程度を占めており、小規模な企業も存在感を示している業界といえる。

国土交通省の「建築着工統計調査報告」によると、2006年における新築持家住宅・分譲戸建住宅の着工戸数は49万6780戸。その後、リーマン・ショックの影響で着工件数が激減し、09年には37万5885戸まで落ち込んだ。しかし、10年以降は4年連続でプラス成長を遂げており、13年は48万9660戸(対前年比12.8パーセント増)まで回復している。

現在の懸念材料は、「駆け込み需要」の反動だ。13年に着工件数が急増した背景の一つには、14年4月の消費税増税前に、高額商品である住宅を買ってしまおうという消費者心理があった。そのため増税後の市場は、大いに冷え込む危険性もある。事実、1997年には消費税率が3パーセントから5パーセントに引き上げられたことで、着工件数が減少した。

ただし、住宅メーカーには3つの好材料がある。1つ目は景気回復。大手企業を中心に給与アップ・ボーナス増額などが行われ、景気の先行きに明るさが見えてきたことで、戸建て住宅の需要も高まると期待されている。2つ目は、建材価格の上昇が一服しつつあること。震災復興や東京オリンピック決定などで建材の需要が高まり、さらに円安によって輸入原材料の価格が上昇したことで、13年夏ごろから建設用資材の価格は高騰していた。しかし、ようやく価格上昇に歯止めがかかりつつあるのではないかという観測が出ている。そして3つ目の好材料が、政府が「すまい給付金」(キーワード参照)などの住宅取得支援策を打ち出していることだ。さらに、現在は住宅ローン金利も安く、住宅購入の好機と捉える消費者も少なくない。

こうした中、各社が力を入れているのが省エネ・環境配慮型の住宅だ。東日本大震災後の電力不足を経験して以降、消費者の節電に対する関心は高まっている。特に、「ネット・ゼロ・エネルギー住宅」には注目しておきたい。これは、「一次エネルギー」と呼ばれる石油やガスなどの消費量を、実質的にゼロ以下にできる住宅のこと。消費電力の小さい照明や家電などの採用、太陽光発電設備や燃料電池による発電、パッシブデザイン(キーワード参照)などを組み合わせ、大幅な省エネを実現している。例えば、積水化学工業が20年までにネット・ゼロ・エネルギー住宅を標準化することを発表(ニュース記事参照)するなど、各社が力を注いでいる分野だ。条件を満たした住宅に補助金が交付されるなど、政府も普及を後押ししている。また、震災以降、耐震住宅へのニーズも拡大している。大和ハウス工業が、大きな地震に繰り返し襲われても新築当初の耐震性能を保てる戸建て住宅「ジーヴォシグマ」を発売するなど、各社は耐震技術を生かした商品の開発に積極的だ。

中古住宅のリフォーム市場も有望。従来、日本の住宅は欧米に比べて寿命が短かった。しかし政府は、耐久性などの面で一定の基準を満たした「長期優良住宅」に対し、税制や融資などの面で優遇措置を実施して普及を進めている。14年には、断熱性能や耐震性能を高めるリフォームに対して補助金を出す「長期優良リフォーム制度」がスタート。市場はさらに成長が見込めそうだ。

建築基準法の改正に関する動きにも注意を払っておこう。今後、「構造計算適合性判定制度」の見直しや、木造建築基準の緩和が行われる予定。戸建て住宅分野への影響はそれほど大きくないと言われているが、関連ニュースにはぜひ目を通しておきたい。

押さえておこう <住宅メーカー志望者が知っておきたいキーワード>

すまい給付金
収入額が一定額以下の人が住宅を購入する場合、定められた額の給付金が受け取れる制度。消費税増税後に住宅を購入しようとする人を支援するため、住宅ローン減税の拡充と共に導入された。住宅メーカーにとっては、心強い追い風。
パッシブデザイン
特別な機器を使うのではなく、断熱、換気、採光などを工夫するなど、自然の恵みを上手に取り入れることで省エネを実現しようとする設計思想。
スマートハウス
太陽光発電や燃料電池などを使った自家発電システム、蓄電池、HEMS(後述)などを組み合わせ、エネルギー消費の最適化を目指した住宅のこと。住宅メーカーが、家電メーカーや電力会社などと協力して実証実験を行う機会も少なくない。
HEMS
Home Energy Management Systemの略。「ヘムス」と発音する。エネルギー使用量を表示して省エネを促す、人がいない部屋の照明・冷暖房を自動的にオン・オフするなど、ITやセンサーを活用して住宅内のエネルギーを管理する仕組みのこと。

このニュースだけは要チェック <省エネ住宅関連の取り組みに注目しよう>

・積水化学工業が新築住宅事業分野において、20年までにネット・ゼロ・エネルギー住宅を標準化すると発表。太陽光発電システム、リチウムイオン蓄電池、HEMSを組み合わせた省エネ住宅を軸に差別化を図ろうとしている。このように、省エネ住宅に力を入れるメーカーは増えていきそうだ。(2014年3月14日)

・トヨタホーム、パナホーム、ミサワホームの3社が、分譲地「THE ISLES(ジ・アイルズ)」を開発すると発表。スマートハウス、災害に強い街づくり、リゾート風の街並みなど、多くの新機軸を打ち出した共同プロジェクトだ。住宅メーカー同士のコラボレーションは珍しく、注目を集めている。(2013年9月4日)

この業界とも深いつながりが <燃料電池関連の業界と連携する機会が増加>

生活家電
太陽光発電システム、蓄電池などの分野で協力する機会が増えている

セキュリティ(警備業)
ホームセキュリティシステムを導入し、住宅の付加価値を高める動きもある

電力・ガス
ガスなどを利用した家庭用燃料電池がスマートハウスに導入されることは多い

この業界の指南役

日本総合研究所 副主任研究員 粟田 輝氏

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慶應義塾大学大学院理工学研究科修士課程修了。専門は経営・事業戦略、各種戦略策定・実行支援や事業性評価。幅広い業界・規模の企業を対象としている。最近では、今後さらなる発展が期待されるブラジル市場に注目し活動中。

取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか

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