人手不足解消と、食の安全確保が重要課題。外国人来店客の取り込みも焦点だ
公益財団法人食の安全・安心財団によると、2013年における外食産業(飲食店、集団給食、喫茶・酒場、料亭・バー、ファストフードなどの合計)の市場規模は29兆8792億円。前年(29兆1775億円)に引き続き、2年連続での増加となった。ただし、ピーク時の1998年(32兆8918億円)に比べると、市場は1割近く縮小している。また、総務省の家計調査によれば、14年における2人以上世帯の1カ月あたり外食支出は月1万1777円。2000年(1万2370円)に比べ、約5パーセント減った。人口減少に加え、中食(なかしょく/ちゅうしょく:弁当や総菜など、家庭外で調理された食品を持ち帰って自宅で食べること)や内食(うちしょく/ないしょく:家庭内で調理された食事をとること)の増加により、市場は圧迫される見通し。外食市場での「パイの奪い合い」は、今後も激しさを増すと考えられる。
この業界は、市場縮小以外にも2つの課題に直面している。1つ目は「人手不足」だ。日本銀行が15年4月に公表した「日銀短観(全国企業短期経済観測調査)」によれば、宿泊・飲食サービス業の「雇用人員判断(実績)」はマイナス41(指数は、過剰と感じている企業の割合から、不足と感じている企業の割合を引いたもの)。全産業の数値(マイナス17)を大きく下回っており、他業界と比べて最も深刻な状態。14年から15年にかけ、複数の大手外食チェーンが人手不足により店舗の閉鎖を余儀なくされ、ニュースとなった。
そこで各社は、外国人人材を活用して人手不足を解消しようとしている。例えば、中華料理店チェーン「大阪王将」を運営するイートアンドは、外国人のアルバイトを1カ月間有給で教育する制度を導入。牛丼店チェーン「すき家」のゼンショーホールディングスは、研修施設の一部を外国人専用に切り替えた。しかし、外国人アルバイトには労働時間などの制限が設けられており、日本人と同じような働き方を期待するのは難しい。短期的・短絡的な外国人アルバイトの雇用に走るのではなく、長期的な活用方法の検討が求められるだろう。なお、アルバイトではなく、外国人正社員を採用する動きもある。こちらは、経済成長中のアジアに進出するため、現地の店舗運営や経営を任せられる人材を確保するのが狙いだ。
2つ目の課題は、「食の安心・安全への対応」だ。14年、大手ファストフードチェーンで、消費期限切れ食材の使用が明らかになった。消費者の不安を打ち消すためにも、今後の外食産業には、さらに強い姿勢で食の安全を守ることが求められるだろう。そこで、食材の安定的な供給と食材の品質確保を両立させるため、野菜を契約農家から調達する動きが活発化。また、植物工場で安全な野菜の調達を目指す企業もある。このところ、米国では自然派食品を最大限に活用したファストフードチェーン店が人気だ。この流れはいずれ日本国内でも広がりを見せそうで、安全な食材にこだわる企業が増える可能性は高い。
訪日外国人の急増を受け、外国人観光客の取り込みに力を入れるところもある。例えば、「カラオケ本舗 まねきねこ」を運営するコシダカホールディングスは、14年12月、ハラル(イスラム教の戒律で口にすることが許された食べ物)に対応した店舗をオープン。また、外国人の団体客を積極的に誘致したり、外国語メニューを用意したりして売り上げ増につなげたところも多い。それから、インターネットで飲食店情報を提供する企業の取り組みにも注目したい(下記データ参照)。企業単独の取り組みには限界があるため、これらのネット系サービスといかに連携するかは、各社にとって課題となるだろう。
ネット系企業の訪日外国人向け取り組みの例
「ぐるなび外国語版」を、15年1月にリニューアル。メニュー情報やクーポンを、自動で外国語に変換する仕組みを提供するなど、外国人利用者のニーズに応えている。
ぐるなびと提携し、旅行サイト「トリップアドバイザー」に寄せられた飲食店の口コミ情報を、ぐるなび外国語版の飲食店ページと連携させる方針を発表。
傘下の実証研究機関であるメディアテクノロジーラボが、日本語の料理メニューをスマホカメラで撮影すると、英語に翻訳できるアプリ「NinjaNavi」をリリース。
※訪日外国人が日本の外食店情報にアクセスしやすい環境が整えば、売り上げ増が期待できそう。このほか、口コミサイトの外国語対応も進む可能性がある。
このニュースだけは要チェック <海外チェーンの上陸で競争激化か?>
・米国で有名なメキシカンファストフード店「タコベル」が、渋谷でオープン。ハンバーガー店「カールス・ジュニア」や「シェイク・シャック」といった海外ファストフードチェーンも日本上陸を予定していると言われ、外食業界の競争環境はさらに激しさを増しそう。(2015年4月21日)
・野村不動産が、飲食店10店舗が入居する都市型商業施設「GEMS(ジェムス)市ヶ谷」をオープン。同社はGEMSブランドの商業施設を、20年までに20カ所まで拡大する予定とされる。不動産会社が主導し、飲食店が少ない地域に飲食店ビルを出す試みとして注目しておきたい。(2014年11月13日)
この業界とも深いつながりが <「中食」との市場奪い合いが激化>
コンビニ
弁当や総菜といった「中食」が拡大し、外食市場を奪っている
ポータルサイト・SNS
ネット上の口コミ情報が外食店の売り上げを大きく左右
食品
食材の仕入れ先。資本面で食品メーカーとつながりがあるケースも
この業界の指南役
日本総合研究所 マネージャー 田中靖記氏
大阪市立大学大学院文学研究科地理学専修修了。大阪市立大学工学研究科客員研究員。専門は、未来洞察・新規事業・マーケティング・海外市場進出戦略策定。鉄道・住宅・エネルギーなど、主に社会インフラ関連業界を担当。2015年度より未来・デザインラボ所属。
取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか