世界的な需要増で市場は好調。自動車・スマホ以外に収益の柱を見つけることが今後の焦点
工作機械とは、金属や樹脂といった素材を加工するための機械を指す。旋盤、ボール盤、フライス盤、研削盤、マシニングセンタなどが代表格。これらは「マザーマシン(mother machine。機械を作る機械という意味)」と呼ばれ、さまざまな製造業を縁の下から支える存在だ。国内大手企業としては、ファナック、ヤマザキマザック、アマダ、DMG森精機、ジェイテクトなどが挙げられる。一方、外資系企業としては、シーメンス(ドイツ)などがある。
これに対し、産業用ロボットは、人間に代わって溶接や部品取り付けなどの作業を自動的に行う機械。自動車、家電、デジタル機器の生産ラインなどで用いられ、省力化・自動化などに役立っている。工作機械メーカーが産業用ロボットの製造も手がけるケースが多いほか、安川電機なども大手企業として挙げられる。外資系企業としてはシーメンス、KUKA(ドイツ)、ABB(スイス)などの欧米系企業が、高い技術力を強みにして存在感を発揮。また、韓国・台湾・中国企業は、低コストを武器に攻勢をかけている。
一般社団法人日本工作機械工業会の「工作機械主要統計」によれば、2014年の工作機械総受注額は1兆5094億円。13年(1兆1170億円)に比べ、35.1パーセント増となった。また、一般社団法人日本ロボット工業会によれば、14年における産業用ロボットの総受注額は6037億円。13年(5098億円)に比べ18.4パーセント増だった。円安によって輸出競争力が高まり、14年の受注額はどちらも大幅に拡大。15年の上半期も、引き続き好調に推移している。ただし、中国などでは景気後退の懸念が高まっており、下半期の受注額がどうなるか注目しておきたい。
工作機械、産業用ロボット市場のどちらも、グローバル化が進んでいる。14年に受注された工作機械のうち、およそ3分の2に相当する1兆130億円が海外向け。内訳を見ると、中国向けが約3割(3102億円)、中国を含むアジア向けが約5割(5184億円)を占めており、アジア市場の重要性は高い。また、産業用ロボットでも、国内生産分の約7割が輸出に回っている。各社にとって、世界を視野に入れた経営判断が不可欠だ。
両業界の収益は、自動車やスマートフォンを作っている企業の設備投資に依存する部分が大きい。例えば、リーマン・ショック後の景気減速でメーカーが設備投資を手控えた08年、工作機械の総受注額は、対前年比68.4パーセント減の4118億円と激減。一方、ここ数年の市場拡大は、スマートフォン業界向けの「特需」が大きく寄与した。そこで各社は、自動車・スマホ業界以外でも収益の柱を作ることで、経営安定化を目指している。例えば、食品加工用のロボットは「安全・衛生面で安心」「冷凍倉庫などで人の代わりに働ける」などの長所があり、今後の普及が見込まれているところ。こうした新分野で売り上げを伸ばせるかどうかが、今後の焦点となりそうだ。
ITの積極活用もポイント。IoT(キーワード参照)の概念は、工作機械や産業用ロボットにおいても重要になってきている。機械・ロボットをネットワークに接続して大量のデータを収集・分析することで、操作の効率化を目指したり、さらなる自動化を実現したりするための開発競争は、ますます激しくなりそうだ。
工作機械・産業用ロボット業界志望者が知っておきたいキーワード
Internet Of Thingsの略称。「モノのインターネット」と訳される。身の回りのさまざまなモノがインターネットに接続され、データがやり取りされることで、より高度な制御や、データの蓄積・分析を通じた改善の実施などが可能になること。例えば、工作機械にセンサーを組み込んで稼働状況や消耗品の残量を確認すれば、機械の保守がしやすくなる。
NCとは「Numerical Control」の略。加工する際の動作を、数値データによって制御するタイプの機械のこと。特にコンピュータによって制御されたものは、「CNC(Computer Numerical Control)」と呼ばれる。
人工知能における研究課題の一つで、コンピュータに自立的に学習する能力を持たせる技術・概念を指す。「より効率の良い作業のやり方を見つける」「ほかのロボットとの連携を自動的に模索する」「自分で不具合を見つけ、対処する」といった機械・ロボットの開発が進められている。
このニュースだけは要チェック <IoTへの取り組みに注目>
・ファナックが、機械学習などを手がけている企業のPreferred Networksに出資することで合意したと発表。共同で技術開発を行い、IoTへの取り組みを強化することで、工作機械や産業用ロボットのさらなる自動化・高機能化を目指している。(2015年8月21日)
・ヤマザキマザックが、欧州でのスペアパーツ供給の拠点である「ヨーロッパ パーツセンタ」を増築拡張した。現地の顧客に短期間でスペアパーツを届け、機械の稼働率を高めることが期待されている。こうした海外拠点の拡充は、他社でも進められる可能性が高い。(2015年3月24日)
この業界とも深いつながりが <スマートフォンの需要増が業績を下支え>
電子部品メーカー
スマートフォンの需要が伸びたことで、加工用工作機械のニーズも拡大
自動車
自動車の部品取り付けや溶接、塗装などにはロボットが欠かせない
医薬品メーカー
医薬品の製造現場で、産業用ロボットが使われるケースが増えている
この業界の指南役
日本総合研究所 主任研究員 吉田賢哉氏
東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。専門は、新規事業戦略やマーケティング戦略、企業のビジョンづくり・組織戦略など。製造・情報通信分野などの業界動向調査や商品需要予測も手がける。
取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか