ロシアの首都モスクワにある日系販売会社の現地法人に勤務。モスクワには、思った以上にさまざまな種類の博物館があるので、休日は博物館や美術館を巡るのが楽しみ。仕事帰りに、コンサートやオペラ鑑賞に行くのも貴重な息抜きとなっている。
地下鉄に乗りたくなくなる時期がある
こんにちは。しんのすけです。今回は、私のモスクワでの暮らしについてお話しします。
モスクワでは、政府系機関が保有する物件に住んでいます。ペレストロイカ(ゴルバチョフ政権によって1980年代後半から進められた政治・経済の改革運動)以前のソ連では、すべての住宅は国有でしたが、ペレストロイカ中期以降、連邦や地域行政府が、それらを国民に割り当てたという経緯があり、今では住宅の所有権は住人にあるそうです。政府系機関が“大家さん”である私は、やりとりで苦労をしたことはありませんが、そうした個人オーナーが所有する住宅を借りている人は、個人の大家さんとのやりとりが大変なようです。いい人に当たれば良いのですが、とんでもない大家に当たると大変な目に遭うのだとか。
例えば、大家が外国に住んでいるせいでなかなか連絡が取れず、退去したいのに鍵を渡せなくて、その間、家賃が発生してしまったことや、入居時のチェックがいい加減だったせいで、退去時に多額の原状回復費を請求されてしまったりといったことがあるそうです。大家さんの中には、部屋をきれいに使っているかを確認するために、合鍵で「抜き打ち検査」をする人がいるらしく、留守に部屋に上がられたという経験をした人もいるとかで、苦労が多いと聞きますね。
モスクワに住んでいて参ってしまうのは、初夏の一時期に、モスクワ市民の体臭がいっせいにきつくなることです。なぜかと言うと、モスクワの住宅のセントラルヒーティング施設は、毎年5~6月に点検が行われるため、運転が一時的に停止されて、家庭へのお湯の供給がなくなるから。駐在員が住んでいる住宅には、たいていボイラーがついているので問題ないのですが、一般家庭にはボイラーがないところが多いため、2~3週間もの間、入浴ができなくなってしまうのです。したがって、その時期に地下鉄などに乗ってしまうと大変。現地の人に囲まれたが最後、むせかえるような体臭に、息を止めていなければなりません。初夏が来るたびに、少し憂鬱(ゆううつ)になるのはそのためです。
また、モスクワで少々窮屈に感じるのが、IDカード(パスポート)やイミグレーションカードの携帯が義務付けられていて、車に乗るときも、保険の書類、車検証、車両保有者からの委任状といった書類を携帯していないといけないこと。路上で警察官から職務質問されたり、交通警察に止められて書類検査をされることも多く、書類をきちんと提示できないと違反になってしまいます。面倒なことは極力避けたいので、車を運転するときは声をかけられないように、なるべく交通警察と目を合わせないようにしています。
日本式「かき氷」にメイドがビックリ
食生活は、割と充実していると思います。のりやガリ(しょうが)、醤油(しょうゆ)といった日本の食材も、普通のスーパーで手に入るので、わが家でも、メイドに頼んで手巻き寿司(ずし)や太巻きなどを作ってもらっています。かにかまなどもスーパーで手に入るので、一般のロシア人家庭でも作っているようです。
平日の職場での昼食は、オフィスが入っているビルの下にカンティーン(社員食堂のようなカフェテリア形式のレストラン)があるので、そこで取るか、職場でまとめて注文しているお弁当を頼むかのいずれかです。お弁当は、和食レストランが届けてくれるので、からあげ弁当など日本のお弁当とあまり変わらないものが食べられます。
夕食は、メイドが作ってくれるロシア料理です。夕食は、肉を煮込んだものや、焼いたもの、ミートボールにマッシュポテト、スープといった品が並びますが、彼女は料理が上手なので、どれもおいしくて、不満はありません。作り方を教えたら、カレーなども作ってくれるようになりました。
ただ、そんなふうに日本食にもなじんでくれている彼女ですが、日本から持って行った「かき氷機」でかき氷を作っていたら、「氷を食べるなんて!」と驚かれてしまいました。ロシアでは、ウォッカをシャーベット状にして口にする以外、冷たいものは体に良くないとされているからのようです。レストランでビールがぬるいまま出てくるのもそのせいなのだとか。もちろん、お冷やにも氷は入ってきません。
次回は、ロシア駐在で身についたスキルを中心にお話しします。
モスクワの地下鉄入り口。モスクワの地下鉄は12路線あり、一番古いものは1935年開業となっている。
豪華な装飾で知られているモスクワ地下鉄駅構内の様子。この駅は「オクチャブリ(10月)駅」。
モスクワ市内の渋滞風景。モスクワは、渋滞がひどいことにかけては世界レベルと言われている。
休日午後のモスクワ市内のスーパー店内。夏の間は、ダーチャ(別荘)に出かけている人が多いため、それほど混んでいない。
イタリア料理のレストランのメニューにも、にぎりや巻き寿司のページが。
構成/日笠由紀