オーストラリアのシドニーにある日系企業の現地法人に勤務。現地での楽しみは、3000円前後(2015年12月時点)とリーズナブルな値段でコースを回ることができるゴルフ。暇さえあれば練習場に行くほどゴルフライフをエンジョイしている。
決定権者がその場で決める
はじめまして。豪太です。オーストラリアのシドニーにある日系企業の現地法人に勤務しています。
職場にいる同僚は、過半が日本人で、残りがオーストラリア人です。また、社外で仕事上かかわりのある人間の約9割はオーストラリア人。残り約1割が日本人ですが、そのほとんどが他企業の駐在員で、直接取引があるというよりは、ビジネスのための情報交換をする間柄と言った方が近いかと思います。
仕事で使う言語は約9割が英語ですが、現地の人たちの英語は、オーストラリア的な発音がきつい方もおられるので苦労することもあります。残りの約1割が日本語ですが、東京本社と協議事項が多いため、文書に関しては5割くらいは日本語を使っているかもしれません。
海外で仕事をしていて如実に感じるのは、日本との決定スピードの違いです。日本企業では、担当者が裁量を持たされていないために、常に上司に報告したり相談しながら決定しなければならないことが多く、実際、当社でもその都度、日本の本社に報告して判断を仰がなければなりません。そのため、日本の本社から答えが返ってきて何かを決定するのに大体1週間はかかってしまいます。一方、オーストラリアの企業は、裁量を持っている人間が直接、業務を担当しているケースが多いので、その場で判断が下され、意思決定が成されます。当然、当社が判断を保留していったん社に持ち帰ることに関しては理解に苦しむようで、中には「なぜそんなに時間がかかるんだ!」と怒り出す担当者もいるほどです。
そこでよくある手ですが、あらかじめ日本の本社に、当社が取ることのできる選択肢を4案ほど用意し、相手の出方に応じたフローを3段階分くらい示した上で、ある程度、本社の了承を取り付けておくようにしています。そうすることで、スピードアップが図れているわけです。現地の企業とのやりとりも大変ですが、現場の事情を知らない、そして知ろうともしない本社とのやりとりの方に、取引相手などの“敵”との攻防よりはるかに消耗を強いられているというのが私の実感です。
一般的に、オーストラリアの会議においてはすべての出席者が発言するように議事進行を行う点も特徴的です。他方、部下が上司に対して徹底して気をつかうことにおいても、今の日系企業の傾向との違いを感じますね。自分が「黒」だと思ったものでも、上司が「赤」と言えば、「赤にしか見えない」と言い出しかねないほど、上司に追従する傾向が見られます。一見、仕事と関係のないような上司宅でのバーベキューパーティーも、誘われたら断らないのが普通。なぜなら、断ると「チームプレーができない」という評価が下される可能性があるからです。断れるとしたら、「妻や子どもの誕生日」など、外せない予定がある場合くらいですが、その代わり、参加したところで日本のように延々と長時間拘束されることはなく、1時間ほど顔を出せばOKのようです。
これほどまでに上司に気をつかうのは、海外では、直属の上司が人事権を持っていることが圧倒的に多いため。自分の将来のためには、なかなか気が抜けないようです。欧米では、独身の上司に週末旅行に誘われたりすることがあり、逆に誘われないと、「自分だけ誘われていない。嫌われているのだろうか」と悩む人もいると言いますから、オーストラリアの企業はまだ自由な方かもしれません。業務範囲に関しても、「これは自分の仕事ではない」と担当業務範囲を主張する社員は業界大手企業においてもかなりおり、うわさに聞く米系の業界大手企業との違いはあるようです。
論理的であることが最優先
多くの企業が利益至上主義であり、また同時に常に論理が重視されます。論理的であれば、いかなる意見も無視してはならないと思われているフシがあり、職級がどんなに下でも、業務改善の提案や、仕事上のアイデアなどを出して「一理ある」と思われれば、きちんと吸い上げられて採用されます。逆に、こういうとき、聞く耳を持たなかったりすると「ちゃんとしたことを言っているのに、なぜ取り入れてくれないのか?」と思われて「できない上司」のレッテルを貼られることもあります。最終判断に服従する部下と、それまでの過程でしっかりとした議論をする上司。厳しい世界でありますが、見習う部分もあります。
同じ文脈ですが、議論の過程に重きを置き、必ず本人が納得した上で動くことを業務の大前提としています。そのため、上司が部下を説得することから仕事が始まると言っていいほどです。当社でも、日本の本社の決定は、過程が見えづらく、往々にして結果だけ見ると非論理的であることが多いため、間に入っている私が対応する必要があります。非論理的な本社の言い分を、論理的に分解する。あるいは最悪「論理的にはおかしいんだけど、日本企業にはこういうことはよくあるんだ。だからこうしていこうか」と最初から手の内を明かして共に対応を考えようと呼びかけてみたり…。
私自身、一般論として日本企業の海外事業のあり方には、かねがね疑問を感じている部分もあります。本気で海外に進出しようと考えているのであれば、海外でも通用する人材を育成するところから腰を据えて取り組まなければならないと思うのですが、そういうところにリソース(経営資源。人材や資金、情報や技術など)は割かれていないように感じます。また、現地の慣習や文化を尊重しない企業もあるようですね。
次回は、私のシドニーでの生活についてお話しします。
食料自給率が世界一高いと言われるオーストラリア(平成26年「食糧自給表」農林水産省試算より)。広大な土地から収穫できる農産物の豊富さが、その理由の一つと言えそうだ。
特にリンゴの種類は多く、バラエティーに富んでいる。この「ピンクレディー」という品種は、オーストラリアで生まれたもの。
最近、大改装が行われた鉄道駅のChatswood station。オーストラリアには珍しい「駅ビル」には、日系のチェーン店をはじめとした多くの店舗が入っている。
シドニー名物のオペラハウス(左)とハーバーブリッジ。オペラハウスはシドニーだけでなく、オーストラリアを代表する建造物として有名だ。
構成/日笠由紀