成長は停滞気味だが、「IoT」の拡大や次世代自動車の普及によって需要拡大の可能性も大
半導体は、スマートフォンやコンピュータなどの情報機器、テレビなどの家電機器、自動車といった幅広い製品に使われている。電子機器の性能を向上させ、付加価値を高めるためには不可欠な存在だ。半導体市場に関する統計機関WSTS(World Semiconductor Trade Statistics:世界半導体市場統計)によれば、中国経済の停滞やパソコンの販売不振、ここ数年市場をけん引してきたスマートフォンの成長鈍化などの影響を受けて、2015年の世界半導体市場は前年比0.2パーセント減の3352億ドルとなった。WSTSは、16年も引き続きマイナス成長を予測している。
また、アメリカの市場調査会社であるガートナーによると、15年の売上高トップはインテル(アメリカ)で、世界シェアは15.4パーセント。続いてサムスン電子(韓国。世界シェア11.3パーセント)、SKハイニックス(韓国。同4.9パーセント)、クアルコム(アメリカ。同4.8パーセント)、マイクロン・テクノロジー(アメリカ。同4.1パーセント)が後を追う。近年目立つのは、サムスン電子・SKハイニックスという韓国勢の勢いだ。一方、日本企業では7位に東芝、10位にルネサスエレクトロニクスがランクイン。しかし、1990年代から2000年ごろにかけ、日本企業が世界を席巻していたころの勢いはなくなっている。
半導体の開発には巨額の設備投資が必要。一方、半導体業界全体の成長は頭打ちだ。そこで各社は、M&Aで規模を拡大し、シェアを高めることで市場の主導権を握ろうとしている。アメリカの調査会社アイシー・インサイツによると、15年における半導体業界のM&A総額は1000億ドルを超え、過去最大となった。代表的なのが、アバゴ・テクノロジー(アメリカ)が過去最大級の370億ドルでブロードコム(アメリカ)を買収した事例であろう。ほかにもインテルによるアルテラ(アメリカ)の買収、NXPセミコンダクターズ(オランダ)によるフリースケール・セミコンダクター(アメリカ)の買収など、100億ドルを超えるM&A案件が目立つ。今後2~3年は急激な市場の拡大が見込めず、しばらくは業界再編の動きが続くだろう。その際に注目しておきたいのが、中国の動きだ。中国では半導体を重点分野の一つに指定しており、国を挙げて半導体大国を目指している。代表的な存在が国内大手の紫光集団(ユニチンファ)。15年にマイクロン・テクノロジーの買収に乗り出す(最終的には不調に終わった)など、積極的な姿勢を見せている。
半導体メーカー各社が注目している分野が「IoT」(キーワード参照)である。最近では、道路や橋にセンサーを設置して交通量などを確認し、そのデータを分析して最適な修理時期を割り出すなどの取り組みが盛んになってきた。このように、さまざまなものがネットワークでつながる時代がやってくれば、半導体の需要は大きく伸びるだろう。ちなみに、調査会社の富士キメラ総研によると、13年のスマートフォンの世界出荷台数は10億9200万台。一方、インテルは、20年には世界で500億の機器に2120億個のセンサーが付くと予測しており、これが実現すれば現在よりケタ違いの半導体が必要になる。
自動運転や、ハイブリッド自動車(HEV)・電気自動車(EV)の普及も半導体業界にとって好材料である。車載用半導体に強いインフィニオン・テクノロジー(ドイツ)によると、ハイブリッド自動車に搭載されている半導体の金額は、従来の内燃エンジン車に比べて2倍以上になるという。こうした次世代車が増えれば、Si(シリコン)を使った従来型のパワー半導体(電力の制御・供給を行う半導体のこと)の需要増が期待できるだろう。さらに、「省エネの切り札」として注目を集める次世代パワー半導体(キーワード参照)の量産・実用化にも注目が集まっている。
半導体メーカー志望者が知っておきたいキーワード
IoT
Internet of Thingsの略で「アイオーティー」と読み、「モノのインターネット」などと訳される。PCやスマートフォンなどはもちろん、生活家電や自動車、橋や道路など従来はインターネットと縁遠いと考えられたものに通信機能を持たせ、遠くから監視・操作できるようにする技術を指す。
次世代パワー半導体
炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)といった新材料を活用したパワー半導体。従来のシリコンを使ったパワー半導体に比べ、大幅な省電力を実現できる。
IDM
Integrated Device Manufacturerの略。設計から生産まで自前で行う垂直統合型のビジネススタイルで、インテルが代表格。
ファブライト
設計および一部の生産を自前で行い、巨大な設備投資が必要な最先端製品は外部に委託するビジネススタイル。テキサス・インスツルメンツ(アメリカ)が代表格。
ファブレス
製造設備を保有せず、設計のみ自前で行って生産はすべて外部に委託するビジネススタイル。クアルコムが代表格。
ファウンドリ
ファブライト企業やファブレス企業から、半導体デバイスの製造を専門に請け負う企業のこと。TSMC(台湾)が代表格。
このニュースだけは要チェック <日本企業によるM&Aに注目しよう>
・ソフトバンクが、スマートフォン向けCPUの設計を広く手がけるイギリスの半導体メーカー、アーム・ホールディングスを買収すると発表。買収額は約3.3兆円で、日本企業による海外企業のM&Aでは、過去最大規模と話題になった。この買収により、ソフトバンクはIoT事業の拡大を狙う。(2016年7月18日)
・ルネサスエレクトロニクスが、アメリカの半導体メーカーであるインターシルを買収すると発表。買収額は約3300億円。車載用半導体に強いルネサスエレクトロニクスは、インターシルの「アナログ半導体」や「パワー半導体」を手に入れることで事業拡大を目指している。(2016年9月13日)
この業界とも深いつながりが <車載用の半導体は需要増が見込める>
自動車メーカー
最新型の車には多数の電子機器が積まれており、半導体の需要増を後押し
携帯電話メーカー
スマホ向け半導体の伸びはやや鈍化したが、依然として大きな収益の柱
生活家電
ネットに接続される家電製品が増えれば、半導体の需要拡大にもつながる
この業界の指南役
日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 未来デザイン・ラボ コンサルタント
小林幹基氏
京都大学大学院情報学研究科修士課程修了。大手電機メーカー、ニューヨーク大学客員研究員を経て現職。専門は、海外進出戦略、事業戦略、未来洞察による新規事業開発。
取材・文/白谷輝英 イラスト/千野エー