「自分が作った」そう言えるエンジンを入社2年目から手がける
「モノづくりがしたい。中でも自分の携わった結果がすぐ目に見えるモノを作りたい」。そんな思いから入社した富士重工業。大学時代、自動車部に所属していた私にとって、自動車は家電よりも身近な存在だったんです。数ある国産メーカーの中でも富士重工業が手がける車は、一般大衆向けというよりもむしろ、「スバルマニア」や「スバリスト」とも呼ばれるコアなファンを大事にしているというイメージがあったから。そんな技術者のこだわりが感じられるモノづくりの姿勢に魅力を感じたのです。配属されたのはエンジン設計部。エンジンに携わりたいと思っていたので、希望通りでしたね。
数万点にもなる部品で構成されている自動車。エンジンと一口に言っても複数の部品で構成されています。例えば主機と呼ばれるアルミで鋳造(※1)されたいわゆるエンジンの根幹部品であれば、シリンダーブロック(※2)、シリンダーヘッド(※3)があり、補機と呼ばれる主機周辺部品であれば、インテークマニホールド(吸気系部品)やエキゾーストマニホールド(排気系部品)、水まわり部品、燃料系部品などがあります。当社のエンジン設計の場合、主機と補機の2つに担当が分かれるだけで、補機担当になった場合は、吸気系や排気系、さらにはECU(エンジンコントロールユニット)の開発までも手がけることとなります。一般的な完成車メーカーの場合は、一つの部品をずっと担当していくことが多いのですが、当社の場合は任される範囲が非常に広い。だからこそ「このエンジンは自分がやった」と言えるし、社内からも「このエンジンのことはあいつに聞け」とも言われる。それが仕事へのモチベーションとなるんです。
※1…「ちゅうぞう」と読む。型に流し込んで作る方法
※2…ピストンやコネクティングロッド、クランクシャフトなどの部品がつく土台となる部品
※3…カムシャフトやバルブ、バルブスプリングなどの部品がつく部位
「自分がやった」と言える初めての仕事は、入社2年目の99年から携わった北米向けのエンジン設計。この当時、開発していた北米の自動車排出ガス規制は 国内に比べて非常に厳しく設定されており、排出ガス(排ガス)を従来の10分の1に抑えなければならなかったのです。10分の1──。私の担当は補機。まずは目標を達成する、100点満点の部品の開発に取り組んだのです。しかし、各部品を満点にしたからといって、全体にしたときに満点となるわけではありません。あれこれ試行錯誤するうちに、吸排気系システムをうまくチューニングすることで、なんとか目標を達成できることが見えてきたんです。これまでもエンジン全体の性能を考えて各部品の開発をしてきたつもりですが、この開発に携わったことで、部分最適を寄せ集めても全体最適になるわけではない、全体最適にするには各部分のシナジー(相乗)効果を考えて各部品を設計しなければならないことを知ることができた。エンジン全体のマネジメントが重要だということにあらためて気づかされましたね。
3年ぐらいかけなんとか排ガス規制をクリアできましたが、難題はまだ残っていました。そのままでは原価が高くて量産し続けるには難しいと言われたのです。安くて高性能のエンジンに改良するにはどんな設計にすればいいのか。さらに2年かけ原価低減・性能改善できる設計に取り組み、なんとか改良型エンジンを量産にこぎつけるところまで経験できました。
実は「エンジンの原価が高い」という問題は北米向けエンジンだけが抱えていたのではありませんでした。当社が昔から抱えていた問題で、「エンジンが高くて会社がつぶれる」とまで言われていたんです。排ガスを出すのもエンジンなら、燃費を良くするのもエンジン。近い将来、エンジンの原価が勝負になるということから、エンジン設計部内にこれからのエンジンはどうあるべきか、ロードマップ戦略を立案する、エンジン企画グループが新設されました。私は補機代表として企画グループに参加し、エンジン展開戦略策定に携わりながら、原価低減プロジェクトを推進。会社に貢献できる原価・性能のあり方とはどういうものか、それを考えて設計することの大事さが身にしみてわかりました。
新型レガシィ開発プロジェクトにエンジン設計部の代表として参加
企画グループへの参加は、私に大きなチャンスをもたらしました。当時の部長が5世代目となる新型レガシィ開発プロジェクト(PT)に私を設計部の代表として推薦してくれたのです。新車の開発PTに参画できる機会なんて、誰もが得られるわけではありません。本当にラッキーでしたね。このPTに参加したことで、はじめて車全体からエンジンを考える経験ができたのですから。
商品企画が提示した新型レガシィのキーワードは「豊かさ」。では「豊かさ」を乗り手となるお客さまに伝えるにはどういう車づくりをすればよいか。エンジンについてもそこから考えるのです。「豊かさ」を実現する技術の一つとして使用されたのが、新しいトランスミッション(変速機構)でした。そしてそのトランスミッションを生かすためのエンジンの特性はどうあるべきか、どうチューニングすれば豊かさをお客さまに与えることができるのか、徹底的に考え、設計することになったのです。
これまでであれば、私たちエンジンの設計者が話をするのは、工場の担当者やサプライヤー(部品の製造メーカー)ぐらい。しかしこのPTでは、商品企画および当社営業に話を聞くのはもちろん、実際に車を販売している営業所の担当者、さらには車の点検やメンテナンスなどアフターサービスを提供する担当者にまで話を聞く機会がありました。そこではじめて「自分たちがこだわっていたところが、お客さまにちゃんと伝わっていなかった」という、お客さまと自分たち作り手の間のギャップに気づくことができた。お客さまが求めるもの、お客さまのこだわりポイントを知ることができたと同時に、お客さまに自分たちのこだわりをどう伝えるか、その難しさに気づかされたのです。乗った後にどういう満足感を与えられるのか、そこまで考えてエンジンを作らなければならないと実感しましたね。
PTを離れてからは、2010年に発表、21年ぶりに刷新されたことで話題になった新型水平対向エンジンの量産化設計に携わりました。この新型エンジンはとにかくあるべき性能・燃費・原価の理想のエンジンを作るため、ゼロベースから考えたもの。当初、新型エンジンの搭載はもう数年先を予定していたのですが、先述したようにこれからはエンジンの原価が勝敗を分けるようになることから、前倒しで搭載されることになったのです。実はこの新型エンジンの補機部分のノウハウについては先に紹介した新型レガシィに採用しているなど、開発はかなり進んでいました。技術開発は終わっていたので、私が担当したのは量産する上での詳細をつめ、現実的かつ信頼性の高い設計としてまとめ上げることでした。例えばサプライヤーの量産性は確保されているのか、将来のエンジン展開に対して柔軟に対応できるラインが準備されているのかなど。そういったところまで、私たちエンジン設計者に任されるのです。本当に幅広い仕事なんです。
富士重工業でのエンジン設計という仕事は、まさに子どものころのブロック遊びやプラモデル製作のよう。作ること自体の面白さもさることながら、ブロック一つひとつについても、自分たちが一から設計し作ることができる。つまりゼロベースから携われるんです。しかも先述したように、当社では一人で複数の部品を担当します。
複数の部品を担当することは、一方で、技術者にとってデメリットもあります。一つの技術について深掘りするわけにはいかないからです。例えばほかの完成車メーカーの吸気系部品一筋何十年、という技術者と比較すると、身につけられる知識は当然、浅くなりますから。しかしそれよりも、サプライヤーの知恵をいただきながら 幅広く知識を身につけられることに加え、エンジンの全体最適を考えて、各部品の設計ができる。ここは当社のエンジン設計者ならではの醍醐味。そして自ら作ったといえるエンジンを搭載した車が、街中で走っているのを目にできる。モノづくりの技術者として、こんなに嬉しいことはありません。しかもそういったチャンスは入社2~3年目の若手のうちから与えられる。私自身が、量産まで経験したのは、入社2年目に携わった北米向けエンジンだったことからも実感しています。
ゼロベースからモノづくりがしたい。それができるのが富士重工業のエンジン設計という仕事。開発スピードが年々、早まる中、大変なこと、苦労も多々ありますが、それだけにやりがいも大きい。モノづくりっていい。心からそう感じられる仕事です。
宮島さんに質問!
Q1.どんな学生だった?
Q2.入社後、いちばん苦労したことやギャップを感じたことは?
Q3.休日の過ごし方は?
会社の仲間や仲間内のゴルフコンペがあるので、それに向け、ゴルフの打ちっぱなしに行くことが多いですね。あとは近所を散歩したり、ショッピングしたり。体を動かすことで気分転換を図っています。
Q4.学生にお勧めの本とその理由は?
取材・文/中村仁美 撮影/平山諭 デザイン/ITコア