ソーシャルゲームに押されて市場縮小。新しい遊び方の提案と次世代機に注目しよう
社団法人コンピュータエンターテインメント協会によると、2012年における家庭用ゲーム機向けソフトの国内外総出荷額は4244億円。11年(5310億円)に比べて約2割減、任天堂の据え置き型ゲーム機Wiiの発売などで史上最高額を記録した08年(1兆244億円)に比べると6割近く減少している。なお、国内における総出荷額は2202億円、海外での総出荷額は2042億円。08年の国内総出荷額は3013億円、海外総出荷額は7230億円 だったので、落ち込みの度合いは国内より海外の方が大きいと言える。
市場が縮小している原因の一つは、スマートフォンや従来型携帯電話(フィーチャーフォン)向けに作られた「ソーシャルゲーム」の隆盛だ。社団法人日本オンラインゲーム協会によれば、12年におけるフィーチャーフォン向けソーシャルゲーム市場は4351億円、スマートフォン向けゲーム市場は1285億円。家庭用ゲーム機向けソフト市場に匹敵する規模にまで成長を遂げている。こうした傾向は海外でも同様で、ソーシャルゲーム市場は国内外を問わず急成長中。一方、バンダイナムコホールディングス、セガサミーホールディングス、コナミ、スクウェア・エニックス・ホールディングスといった大手メーカーは、ソーシャルゲーム開発会社に顧客を奪われ苦戦している状況だ。
開発費の高騰も、家庭用ゲーム機ソフトメーカーにとって悩みの種だ。プレイステーション3(ソニー・コンピュータエンタテインメント)やXbox360(マイクロソフト)、Wii U(任天堂)といった据え置き機は、従来のゲーム機に比べてはるかに高性能。それに比例して、開発費もうなぎ登り。世界的規模で売られるゲームソフトの場合、1本あたりの制作費が100億円を超えるケースもあると言われ、日本メーカーにとっては追随が難しくなっている。各社は、マルチプラットフォーム対応(キーワード参照)などで開発費の抑制・利益の向上を目指しているが、今後、プレイステーション3とXbox360には後継機の登場が見込まれており、開発費の高騰がさらに進む危険性もあるだろう。
こうした状況を受け、大手メーカーは、市場が拡大中で制作費も安く済むソーシャルゲームへの取り組みを強化している。すでに、『ドラゴンコレクション』(コナミ)、『ワンピースグランドコレクション』(バンダイナムコゲームス)、『拡散性ミリオンアーサー』(スクウェア・エニックス・ホールディングス)などのヒット作が登場。今後も、大手メーカーが開発力の高さを生かしてソーシャルゲームに乗り出す動きは強まるだろう。また、ソーシャルゲームの「無料配信してユーザーを広げ、アイテム課金などで収益化」というビジネスモデルを家庭用ゲーム機で採用するケースも出てきた。バンダイナムコゲームは、新作格闘ゲーム『鉄拳レボリューション』をネット経由で無料配信。ゲームを効率的に進めるアイテムを有料にする方針だ。
新たな遊び方を提案する動きも活発化している。まずは、複数の端末でゲームを楽しむ「クロスプラットフォーム」。例えばセガのオンラインロールプレイングゲーム『ファンタシースターオンライン』は、12年7月にPC版、13年2月に携帯ゲーム機プレイステーションVita版をリリース。13年中にはスマートフォン版もサービス開始予定とされている。共通のデータを各端末で利用できるため、「外出時には携帯機で手軽に遊び、帰宅してからはPC上でじっくり楽しむ」といったスタイルが可能だ。また、「ゲームレンタル」という仕組みにも注目したい。スクウェア・エニックス・ホールディングスは、人気ロールプレイングゲーム『ドラゴンクエストⅩ 目覚めし五つの種族 オンライン』を一定期間貸し出し、期間を超えた場合に有料化する試みを実施。新規ユーザーの取り込みにどの程度貢献できるのか、多方面から注目を集めている。
押さえておこう <ゲームソフト業界志望者が知っておきたいキーワードとは?>
クラウドゲーム
アプリを手元の端末にダウンロードせず、インターネットを通じて接続されたサーバー上で処理を行う仕組みのゲーム機。米企業が開発したOUYA(ウーヤー)が登場して話題を呼んでいる。従来型の家庭用ゲーム機向けゲームと、スマートフォン向けゲームの中間的な位置づけと言われる。
マルチプラットフォーム対応
1つのゲームソフトを複数のゲーム機に対応させること。例えば、同じゲームがプレイステーション3とXbox360でリリースされるなどのケースだ。複数のゲーム機で同じゲームを出せば、開発費をそれほど掛けずに販売数の増加が期待できる。
E3(イースリー)
アメリカ・ロサンゼルスで毎年行われるゲーム見本市「Electronic Entertainment Expo」の略称。毎回、新型ゲーム機や大型タイトルの発表などが行われる。最近では13年6月11~13日に開かれ、次回は14年6月10日に開幕予定。
要チェックニュース! <次世代型ゲーム機の登場は大ニュース>
・ソニー・コンピュータエンタテインメントの次世代型ゲーム機「プレイステーション4」が、「プレイステーション E3 2013プレスカンファレンス」にて発表。すでにマイクロソフトの「Xbox One」も発売が公表されており、Wii Uを含めた新型機の主導権争いに注目が集まっている。(2013年6月11日)
・バンダイナムコゲームスの子会社が、シンガポールとカナダ・バンクーバーに海外子会社を設立すると発表。日本から派遣するスタッフと現地スタッフが協力し、開発にあたる。このように、海外拠点を設立して現地向けゲームの制作を進めるケースは、今後も十分にあり得るだろう。(2013年4月11日)
つながりの深い業界 <携帯電話キャリアとは強い結びつきがある>
携帯電話キャリア
スマートフォン向けのゲームは、各社にとって事業の柱となりつつある
ポータルサイト・SNS
ブラウザ上で遊べるゲームは、SNS経由でユーザーを集めるケースも多い
出版
マンガなどのキャラクターを主役に据えたゲームなど、多くの場面で協力
この業界の指南役
日本総合研究所 副主任研究員 粟田 輝氏
慶應義塾大学大学院理工学研究科修士課程修了。専門は経営・事業戦略、各種戦略策定・実行支援や事業性評価。幅広い業界・規模の企業を対象としている。最近では、今後さらなる発展が期待されるブラジル市場に注目し活動中。
取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか