設立:2009年 活動内容:ファッションフリーペーパー『ADDmagazine(アッドマガジン)』の定期発行、ファッションWebサイト『ADD Web Magazine』における情報配信 人数:60人(男女比=3:7/学年構成=1年生30人・2年生30人) 活動拠点:都内 活動日数:月2回
年2回発行のフリーペーパー『ADDmagazine』、Webサイト『ADD Web Magazine』を通して、ファッション、アート、カルチャーに関する情報を配信。プロのカメラマン、モデルを使った撮影、アパレル企業とのコラボレーション企画、インタビューなど、独自の情報にこだわった誌面展開を続けています。今回の取材は2月の終わりに実施。3月中旬に開催されたファッションショー『東京コレクション』に向けて取材準備に追われる編集部を訪問。活動の面白さ、やりがいを聞いてきました。
既存のファッション誌にはない独自性のある記事づくりにこだわる
ファッション、写真、書くこと…。さまざまな嗜好(しこう)を持つメンバーが集まる
ADD magazineの活動理念は「ファッションへの価値観の拡張」および、「ファッションを通した、アイデンティティへの問いかけ」。フリーペーパー、Webマガジンというなじみやすい媒体を通して、普段触れることのないデザイナーやクリエイターの考えを伝えるなど、ファッションに携わるさまざまな人の多様な価値観を発信することで、ファッションに対する向き合い方を考え、それぞれのアイデンティティを確立してほしいという思いが込められています。これまでには、デザインから生産までのすべてを自社工場で手がける「ファクトリーブランド」や、途上国からの素材の買い付けなど、環境や社会に配慮した工程・流通で製造された商品「エシカルファッション」など、ニッチなファッション分野にも注目。 フリーペーパー編集部、Webマガジン編集部には、取材メンバー、原稿執筆メンバー、誌面デザインメンバーと、制作プロセスごとにメンバーが配置され、個人の強みを発揮しやすい環境を作っています。
月2回のフリーペーパー発行。企画会議で頭を悩ませる
ミーティングは月2回。全メンバー60人中、編集メンバーとしてメインで活動している20人ほどが集まり、企画案出しや取材進捗状況などを共有しています。発行時期は、4月の新入生歓迎シーズンと10月の文化祭シーズンの年2回。約5000部を新入生歓迎時に各大学で配布したり、都内のカフェやサロン、アパレル店舗に置いてもらっています。発行時期がずれると新メンバー勧誘に影響が出るため、締め切り直前はみんな必死! 3月には『東京コレクション』が開催され、各ブランドへ取材・撮影に行くため、誰がどのブランドを担当するかの振り分け、スケジュール調整、取材のアポとりなども一斉に進めていくそう。写真は、ほかのファッション誌を見ながら、ページ構成を考えるフリーペーパー編集部。アイデアが煮詰まったときには、仲間と話して紙に書き出し形にしていきます。
プロのカメラマン、ヘアメイクと進める誌面づくり
『ADDmagazine』の質を担保する重要な要素は写真。プロのカメラマン、ヘアメイクと協力してモデルの撮影を行います。写真のコンセプト、スタイリング、撮影場所などをカメラチームがディレクションすることもあれば、プロのカメラマンにお願いすることも。ほかに、街中のおしゃれな人を紹介する「ストリートスナップ」や取材時のインタビューカット、物撮り、東京コレクションなどでの撮影は、担当メンバーが行っています。プロにお願いする際のギャランティや誌面作成における経費は、アパレルメーカーなどの協賛企業から頂いたお金でまかなっているそう。
服飾系団体との合同説明会で広い人脈をつくる
2014年の新入生歓迎時期には、ほかの服飾系6団体と合同で説明会を実施。写真はこの時の打ち上げで撮影した一枚。渋谷にあるレンタルスペース(文化ファッションインキュベーション・レンタルスペース)にて開催され 、300人近い新入生が来場したそう。合同開催することで、一度に多くの新入生に出会えることに加え、ほかの団体との違いをきちんと説明することで、入る前にしっかり比較検討してもらえるという利点があると言います。ADDmagazineの特徴は、洋服をただ紹介するのではなく、ファッションに込められたデザイナーの思いなど、作り手の仕事観を伝える記事を多く発信していること。例えば地方の小さな工場を訪れ、良質な服を生み出す職人を取材するなど、ファッションを通じてさまざまなライフスタイルを提案したいという思いを、新入生にも熱く説明しています。
代表者インタビュー
写真左から
尾藤(びとう)夏帆さん/統括 文化学園大学 服装学部 2年
野地圭太さん/団体代表 専修大学 経営学部 2年
神垣天晋(かみがきてんしん)さん/編集担当 東京造形大学 テキスタイル学部 1年
Q1 活動の目的や活動するうえで大切にしていることは?
ADDmagazineでは2年生が主体となって記事づくりを進めていきます。前例のない企画やニッチな領域にもどんどん食い込めるのが学生団体の良さ。商業出版の既存雑誌では、マーケティング戦略上、人気ブランドを優先して掲載するなどしがらみがあると思います。でもADDmagazineでは純粋に自分たちが発信したい情報を扱えるので、メンバーがやりたいことはなるべく全部かなえられるよう、自由に企画を練ってもらっています。代表学年が変わると、媒体の特性ががらりと変わっていくのもADDmagazineの魅力のひとつ。私は代表として、「コンテンツとして新しさがあるか」「話として広がりがあるか」といった視点を大切に、取材先を選定するようにしています。(野地さん)
Q2 団体に入ったきっかけは?
ファッションに興味があり服装学部を選択したので、学業以外でもファッション関係の活動をしたいと思っていました。大学入学時にフリーペーパー『ADDmagazine』を手にして、写真の質の高さがスゴイ!とひきつけられ、入りました。(尾藤さん)
アパレル業界とのつながりが強い学生団体だと聞き、ADDmagazineで活動することで、大学生活だけでは得られない人脈を持てるのではないかと思いました。読みものとしてもとても面白いので、僕も一緒に形あるものを残したいという気持ちもありましたね。個人的には、今のめり込んでいる「帆布(はんぷ)」という生地素材について、来季の『ADDmagazine』で取り上げてもらえるよう企画を考えたいです。(神垣さん)
Q3 活動を通じて何を学んだ? どんなことを得ている?
代表として、メンバーのモチベーション・マネジメントに苦労することも。参加への強制力がないので、メンバー自ら「やりたい」と能動的に動いてもらうことが大切だと思っています。だから全体への連絡や働きかけにプラスして、一人ひとりと直接話し、どんなことに興味を持っているのか、やりたいことは何かなどを聞くように。考えの違うメンバーと会話を重ねすり合わせをする中で、コミュニケーション力が鍛えられましたね。(野地さん)
実際社会にでて大人の方を相手にすることで、礼儀やマナーを学ぶことができたと思います。周りの人を巻き込んで物事を動かすことの大変さも痛感できました。普段の学生生活では体験できないファッションを見たり知ることができ、刺激的です。(尾藤さん)
Q4 ズバリ、ADDmagazineに入って良かった?
はい。特に、自分で選出した取材先で面白い話が聞けた瞬間が最高です。(野地さん)
もともとカメラが好きだったので、『ADDmagazine』の撮影現場に初めて同行した時は、カメラマンの指示の出し方、現場の雰囲気の作り方、モデルの動きなど、目に入るあらゆる景色が新鮮でした。そのときにモデルが着た服は、私が古着屋さんに借りに行ってスタイリングしたのですが、その写真が誌面に載った時の達成感は忘れられないですね。(尾藤さん)
Q5 逆に大変だった・つらかったことは?
私は団体の統括メンバーとして、取材先へのアポ取りや、取材に行くメンバーのスケジュール調整などを担当しています。メンバーと密に連絡を取り合いながら、着実に記事や写真素材が集まっていくよう、発行日から逆算して進行管理するのは大変。編集って華やかに見えるけれど、実は地味な仕事がいっぱいあるのだと知りました。(尾藤さん)
面白い企画案が浮かばず、会議が煮詰まるときはつらいです。ブレインストーミングでくだらない意見でも数多く出し合い、気になる雑誌は片っ端から読んで、アウトプットとインプットを同時に増やすことが大事。企画会議のたびに、日ごろからアンテナを張っておく大切さを痛感しています。(野地さん)
《社会人との出会い・つながり》
団体メンバーはみんな学生ですが、取材や撮影でアパレル企業の方と一緒に仕事させていただく機会は多くあります。あるヘッドホンメーカーとコラボレーションして撮影したときには、社員の方が当日の撮影がスムーズに進むよう、備品の準備、関係者への丁寧な事前連絡など余念がなく、仕事の段取りと進め方を学びました。(野地さん)
プロのカメラマンやヘアメイクさんなど、現場で数多くの仕事をこなしている社会人と話をしていると、言葉づかいや気配り、謙虚な態度などに、学生にはない落ち着きがあって、素敵だなと思いますね。(尾藤さん)
《これから団体・サークル選びをする皆さんへ》
面白そう!と思ったらまず足を運んで参加してみることが大事。いろんなサークルや団体に顔を出して、自分が自分らしくいられる空間、合うところに出合うまで行動を続けてみてください。(尾藤さん)
楽しそう、華やかそうといったイメージだけで選ぶのではなく、実際に活動したらどのような大変なことがあるだろうと想像しておくと、入ったあとに多少しんどいことがあっても乗り越えられます。(野地さん)
ただ楽しいだけじゃなく、やったことを形で“残せる”ような活動を選んでみるのもいいかもしれません。自分のアイデアが形になって、それが自分の成果になる。その成果を将来につなげられたら、より有意義だと思います。(神垣さん)
取材・文/田中瑠子 撮影/刑部友康