ネット銀行編・2015年【業界トレンド】

高金利や手数料の安さなどで一般銀行との差別化を図り、順調にシェアを拡大中

「ネット銀行」とは、インターネットによる取引がサービスの中核に据えられている銀行のこと。比較的新しい業態で、最初のネット銀行であるジャパンネット銀行は、2000年10月に営業を開始した。その後、ソニー銀行(01年)、楽天銀行(01年)住信SBIネット銀行(07年)、じぶん銀行(08年)、大和ネクスト銀行(11年)なども開業を果たしている。また、セブン銀行(セブン&アイ・ホールディングス傘下。01年開業)、イオン銀行(イオングループ傘下。07年開業)といった流通系銀行を、ネット銀行に分類する考え方もある。

ネット銀行は実店舗が少ないため、人件費や店舗運営費を抑えられる。その利点を生かし、預金金利を一般の銀行より高めに設定しているケースが多い。また、「無料で利用できるATMの台数が多い」「外貨預金の品揃えが豊富で、手軽に取引できる」など、消費者にとってうれしいサービスも提供している。そのため、個人顧客を中心にシェアを拡大している(下表参照)。メガバンクに比べるとまだまだ小規模だが、今後の成長が十分期待できるだろう。一方、法人向け事業は強いとは言えず、この分野の強化は今後の課題となりそうだ。

個人顧客の奪い合いが激化しているのが、住宅ローンの分野だ。各ネット銀行は一般の銀行より安い金利で貸し出しを行い、貸出金の増加を目指している。住宅メーカーや不動産会社と提携し、住宅ローンの契約数拡大を目指す取り組みも活発だ。また、1円単位の繰り上げ返済(ローンの一部を早めに返済すること)を可能にする、住宅ローン契約者に疾病保険を無料提供するなどの施策を打ち出すところも多い。今後は利下げ合戦だけでなく、サービスの質を高めて消費者にアピールする取り組みに注目が必要だろう。

一般銀行との差別化を図るため、24時間営業への取り組みを進めるところもある。例えばジャパンネット銀行では、すでにシステムメンテナンス時を除き、24時間・365日にわたって振り込みが可能。さらに、15年秋以降は体制を強化し、システムメンテナンスによるサービス停止時間もゼロにする予定だ。現在、日銀を中心に銀行振り込みの24時間化が進められているが、ネット銀行業界ではいち早く導入が進んでいる。

セキュリティの向上は、業界全体の課題だ。インターネット口座のID・パスワードが盗まれ、不正な送金などが行われるのを防ぐため、各行はさまざまな対策を打っている。例えばジャパンネット銀行などでは、取引する際に1度だけ有効なパスワードを生成する小型機器「トークン」を、契約者全員に無料配布。使い捨てのパスワード(ワンタイムパスワード)を利用することで、不正を起こりづらくしている。また、住信SBIネット銀行などでは、パソコンで振り込みなどを行った際に、顧客のスマートフォンで承認を求める仕組みを導入。手軽にセキュリティを高める手法として注目を集めている。

ネット銀行の規模は拡大が続いている

○住信SBIネット銀行の口座数・預金残高
14年末現在
預金残高……3兆5418億円、口座数……219.9万口座
13年末現在
預金残高……3兆3061億円、口座数……188.4万口座
12年末現在
預金残高……2兆5043億円、口座数……154.6万口座
11年末現在
預金残高……2兆579億円、口座数……127.9万口座
○楽天銀行の口座数・預金残高
14年末現在
預金残高……1兆1828億円、口座数……485.8万口座
13年末現在
預金残高……1兆88億円、口座数……450.6万口座
12年末現在
預金残高……8143億円、口座数……417.1万口座
11年末現在
預金残高……7490億円、口座数……391.0万口座

※14年末現在、住信SBIネット銀行は預金残高で業界最大、楽天銀行は口座数で業界最大とされる(日本総合研究調所調べ)。両銀行の口座数・預金残高の推移でも明らかなように、ネット銀行は順調な拡大が続いている。

このニュースだけは要チェック <異業種との提携で顧客を取り込む試みに注目>

・ジャパンネット銀行が、ファミリーマートとの業務提携を発表。ファミリーマートが発行する「ファミマTカード」と一体化したキャッシュカードを発行するなどして、顧客サービスの利便性を高める方針。Tポイントを利用した取り組みが進む可能性もあるだろう。(2014年7月3日)

・住信SBIネット銀行の住宅ローン取扱額が、2兆円を突破した。同行の営業開始は07年9月で、4年半後の12年3月に1兆円を突破。それから2年8カ月後に2兆円突破を迎えたことになり、事業は順調に拡大中だと言えるだろう。(2014年10月31日)

この業界とも深いつながりが <住宅ローン拡大のため住宅メーカーと協力>

住宅メーカー
住宅を購入した顧客に住宅ローンを提案するため、提携を行う

メガバンク
一般の銀行もインターネットバンキングを強化しており、競争は激化

コンビニ
コンビニ内のATMはネット銀行にとって貴重な存在。さまざまな提携も進む

この業界の指南役

日本総合研究所 副主任研究員 粟田 輝氏

awata_sama

慶應義塾大学大学院理工学研究科修士課程修了。専門は経営・事業戦略、各種戦略策定・実行支援や事業性評価。幅広い業界・規模の企業を対象としている。最近では、今後さらなる発展が期待されるブラジル市場に注目し活動中。

取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか

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