拡大するアジア市場を取り込むため、現地生産の取り組みが活発に。電動バイクにも注目
世界のオートバイ市場では、日本メーカーが大きな存在感を発揮している。本田技研工業、ヤマハ発動機は、販売台数・売上額の双方で世界トップクラス。スズキ、川崎重工業もかなりのシェアを獲得している。一方、海外のライバルとしては、趣味性が高く多くのファンをつかんでいるハーレーダビッドソン(アメリカ)、「ベスパ」などのブランドを持つピアッジオ(イタリア)、低価格が売りのヒーロー・モトコープ(インド)や江門市大長江集団(中国)などが有力だ。
国内のオートバイ需要は1982年(約329万台)がピークで、その後は減少傾向が続いている。2010年ごろから市場縮小に歯止めがかかってきたが、日本では人口減が予測されており、若者を中心としたバイク離れも進んでいるため、今後も大きな成長を望むことは難しい。これに対し、海外市場は順調に拡大中。そのため、どの日本メーカーも「国内市場よりグローバル市場重視」となっている(下記データ参照)。
特に重要なのがアジア市場だ。日本におけるオートバイ普及率は、10人に1台程度の水準。これに対し、マレーシア、インドネシア、タイなどでは約3人に1台の割合でオートバイを所有している。これらの地域は人口が増え、経済力も高まっているため、さらなる需要増が期待できそうだ。また、約1.9億人の人口を抱えるパキスタンや、約1.6億人のバングラデシュにも注目が集まっている。両国では日本メーカーの人気が高く、市場の可能性は大きいと言えるだろう。さらに次の展開先としては、将来の発展が見込めるアフリカ市場も有望だ。
そこで、各社は海外生産拠点の拡充を急ピッチで進めているところ。現地生産を進め、製造・流通コストを抑えることで、手ごろな価格帯の製品を送りだそうと努力しているのだ。また、現地の金融機関と手を組んでオートバイ購入支援ローンを整備するなど、現地ユーザーがオートバイを買いやすい環境を整えようと工夫する企業もある。
電動バイクに関する動きにも注目したい。電動バイクには、排ガスが出ない、走行距離当たりのコストがガソリンよりお得といったメリットがある。そのため、環境問題が深刻で、低価格商品が歓迎される新興国において、大きな需要があるとみる向きも多い。例えば中国の都市部では、大気汚染を食い止める目的で通常型オートバイの登録台数が制限されており、電動バイクへの乗り換えが進んでいる。
10年、電動バイクを手がけるベンチャー企業・テラモーターズが創業。同社は国内だけでなく、海外市場に積極的に取り組む姿勢を打ち出している。また、最近では大手バイクメーカーも電動バイクへの取り組みを強化中。さらに、水素を使って走る「燃料電池バイク」など、次世代型オートバイの開発も進んでいる。
2014年度における国内主要メーカーの国内・世界販売台数
国内販売台数……19.9万台
世界販売台数……1759万台
国内販売台数……12.3万台
世界販売台数……580万台
国内販売台数……6.6万台
世界販売台数……176万台
国内販売台数……1.5万台
世界販売台数……58万台
※4輪バギー車なども含む
このニュースだけは要チェック <アジアでの現地生産が活発に>
・本田技研工業が、パキスタン北東部にある生産工場の生産能力を、現在の年60万台から120万台まで拡大すると発表。パキスタンのオートバイ市場は、ここ数年、年130万台前後で推移してきたが、2015年に入って急激に成長しているという。(2015年11月2日)
・テラモーターズが、バングラデシュの大手バイクメーカーと設立した合弁企業を通じ、電動3輪バイクの新製品を発売。今後は、電動2輪バイクの投入も予定している。現地では大気汚染とガソリンの価格上昇が進んでおり、電動バイクのニーズは高いとみられる。(2015年7月25日)
この業界とも深いつながりが<電動バイクのバッテリー開発でデジタル家電との協力が増えるか?>
石油
石油元売り会社が、燃料電池に水素を供給する「水素ステーション」を設置
デジタル家電
電動バイクのバッテリー性能を高め、航続距離を伸ばすために協力する
コンビニ
コンビニの敷地内に、電動バイク向け充電器が設置されるケースが増加
この業界の指南役
日本総合研究所 シニアマネージャー 吉田賢哉氏
東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。専門は、新規事業戦略やマーケティング戦略、企業のビジョンづくり・組織戦略など。製造・情報通信分野などの業界動向調査や商品需要予測も手がける。
取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか