訪日外国人増でレジャー部門が好調。各社は再開発などで、駅とその周辺の収益性向上を目指す
JR旅客6社(北海道旅客鉄道、東日本旅客鉄道、東海旅客鉄道、西日本旅客鉄道、四国旅客鉄道、九州旅客鉄道)と、大手私鉄16社(東武鉄道、西武鉄道、京成電鉄、京王電鉄、小田急電鉄、東京急行電鉄、京浜急行電鉄、東京地下鉄、相模鉄道、名古屋鉄道、近畿日本鉄道、南海電気鉄道、京阪電気鉄道、阪急電鉄、阪神電気鉄道、西日本鉄道)の2015年3月期における総売上高は14兆343億円。東日本大震災などの影響で売上高が落ちこんだ12年3月期(12兆9700億円)に比べると、約8パーセント増加した。15年度に入っても、各社は好調を維持。第3四半期までの決算を見ると、3分の2以上の企業が過去最高益を記録している。
好業績を支えたのは、各社のレジャー関連事業だ。訪日外国人旅客が増えて観光需要が都市部から郊外へ波及し、鉄道会社の運営するホテルやレジャー施設は大賑わいとなっている。各社の15年3月期におけるホテル・レジャー・リゾート部門の営業利益は、東京急行電鉄が前年同期に比べ約40パーセント増、京阪電気鉄道が約50パーセント増、傘下に西武鉄道を擁する西武ホールディングスが約100パーセント増となった。ただし、中国政府が16年4月、海外で購入した商品に課す関税を引き上げたのは気がかり。いわゆる「爆買い」ブームが終わり、訪日外国人旅客の数が頭打ちになる危険性があるからだ。そこで各社は、業績が好調なうちに「事業の選択と集中」を進めている。
中でも焦点となっているのが、拠点駅での集客力向上だ。例えば東日本旅客鉄道は、国土交通省と共に整備した「バスタ新宿」(キーワード参照)を16年4月に開業。さらに、商業施設や保育所、クリニック、多目的ホールなどが入居した「JR新宿ミライナタワー」をオープンするなどして新宿の利便性を高めている。ほかにも、品川駅周辺の再開発、品川駅~田町駅間の新駅開発など、東京都心部では大規模案件が目白押しだ。
東京以外の地域でも、拠点駅の再開発が進行中。名古屋市では鉄道会社も参加して「名古屋駅周辺エリアにおけるトータルデザイン検討会議」が開催され、駅前広場などの再開発を議論している。九州旅客鉄道は、日本郵便と共同開発した「JRJP博多ビル」を16年4月に開業。地方における人口減少が深刻化する中、鉄道会社は拠点駅の集客力を高めることで鉄道事業のてこ入れを図ろうとしている。また、駅構内に宅配便受け取りロッカー(キーワード参照)を設置するなどして駅の利便性を高める試みもある。
駅周辺における再開発事業も活発だ。東日本旅客鉄道傘下のジェイアール東日本都市開発は15年7月、東京・秋葉原駅~御徒町駅間の高架下で「B-1グランプリ食堂 AKI-OKA CARAVANE」を開業。また南海電気鉄道は、大阪・南海なんば駅南側の高架下で商業施設「なんばEKIKANプロジェクト」をオープンした。各鉄道会社は駅乗降客の「回遊性」を高めることで、周辺の商業施設での利益を高めようと努力している。
沿線の活性化も引き続き大きな課題である。住みやすい環境を整備し、沿線に多くの住民を呼び寄せることができれば、鉄道の乗客数や、駅周辺にある商業施設の売り上げも伸びるからだ。一方、沿線の状況に応じて開発プロジェクトの見直しを迫られるケースも増えそう。例えば、京浜急行電鉄は16年3月、神奈川県三浦半島で進めていた大規模宅地開発計画の凍結を発表した。どの企業にも、沿線の住民・企業・地方自治体と連携を保ちつつ、地域のためにどう貢献するかという発想がさらに求められそうだ。
今後、日本国内では人口減少が進んで鉄道需要が頭打ちになる見込み。そのため鉄道業界でも、海外進出を目指す動きが盛んだ。例えば、重工メーカーなどと協力し、海外の鉄道会社に日本の鉄道システムを売り込むケースは増えそう。また、日本国内で培ったノウハウを生かして海外で不動産・レジャー事業を展開する可能性も十分にあるだろう。
鉄道業界志望者が知っておきたいキーワード
バスタ新宿
国土交通省が主導し、東日本旅客鉄道が設計などを担当して整備された交通ターミナル。正式名称は「新宿南口交通ターミナル」。新宿周辺のバス発着所やタクシー乗り場を集約し、JR新宿駅との乗り換えがスムーズにできるよう工夫されている。
駅構内の宅急便受け取りロッカー
鉄道会社は宅配便会社と協力し、宅配便を受け取るためのロッカーを駅構内に設置しようとしている。例えば、東京地下鉄がヤマト運輸と、京王電鉄は日本郵便と協力して実証実験を進行中。実用化されれば、駅の利便性をさらに高めることにつながりそうだ。
観光列車・イベント列車の企画
観光列車とは、移動より観光に主眼を置いて企画された列車のこと。イベント列車とは、祭りや花見などのニーズに合わせて企画された列車を指す。鉄道各社の中には、車両内を畳敷きにした「お座敷列車」や、豪華な食事やレトロな内外装でアピールする特別列車などによって乗客増を目指すところもある。
直通運転
異なる鉄道会社同士が協力し、列車を互いに乗り入れること。乗り換えの必要がなくなるため、乗客にとっては非常に便利だ。2013年に東京急行電鉄の東急東横線と、東京地下鉄の東京メトロ副都心線が直通運転を始めた際には、渋谷駅や新宿駅などで人の流れが大きく変わったと言われる。
駅ナカ
駅構内にある商業施設の通称。東日本旅客鉄道の「エキュート」や東京地下鉄の「エチカ」などが代表格。相互乗り入れなどを進めてターミナル駅の利便性を高めれば、駅ナカの商業施設の売り上げを高めることも可能だ。
このニュースだけは要チェック <他業界と協力する機会がますます増加>
・西日本鉄道と阪急不動産が、ベトナム・ホーチミン市で分譲マンションを共同開発すると発表。ホーチミン市はベトナム最大の都市で人口増加が続いており、住宅需要も大きい。両社は国内で培った住宅開発能力を生かし、現地のデベロッパーと協力しながらプロジェクトを進める。(2015年4月6日)
・東京地下鉄が、地下鉄車両内における無料Wi-Fi利用サービスの提供を2016年度から順次スタートすると発表。都営地下鉄を運営する東京都交通局も同様のサービスを開始する。オリンピックに向け訪日外国人の急増が見込まれる首都圏を中心に、今後、車両内・駅構内でのWi-Fiサービス提供が進むかもしれない。(2016年2月4日)
この業界とも深いつながりが <地方自治体と協力して沿線の活性化を図る>
地方自治体
自治体や地域企業との協力を通じ、沿線価値を高める取り組みが必要
介護サービス
駅ナカに高齢者介護施設や保育所などを設置し、住民向けサービスを向上
重工メーカー
重工メーカーなどと協力し、日本の鉄道技術を海外に売り込むケースも
この業界の指南役
日本総合研究所 未来デザイン・ラボ シニアマネジャー 田中靖記氏
大阪市立大学大学院文学研究科地理学専修修了。同大学院工学研究科客員研究員。専門は、未来洞察、中長期事業戦略策定、シナリオプランニング、海外市場進出戦略策定など。主に社会インフラ関連業界を担当。また、インド・ASEAN市場の開拓案件を数多く手がけている。
取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか