業界は着実に成長中。今後は店舗数拡大と、新たな顧客層獲得が成長のカギを握りそう
一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会によると、同協会正会員であるコンビニエンスストア(以下コンビニ)の2016年における全店売上高は10兆5722億円。対前年比で3.6パーセント、2010年(8兆175億円)に比べると3割以上拡大している。一方で、店舗数も大幅に増加。2010年末時点で4万3372店だった店舗数は、2016年末時点で5万4501店と3割近く増えた。2016年だけでも、1497店もの大幅な増加となっている。その結果、新規店から得られた分を除いた「既存店ベース売上高」は、対前年比0.5パーセント増の9兆6328億円にとどまった。業界全体としては着実な成長が続いているが、競争環境も激しくなっていると言えるだろう。
1店舗あたりの売上高が伸び悩む中で、各社は利益拡大のためにさまざまな取り組みをしている。まずは、店舗数の拡大だ。国内最多の1万9579店舗(2017年5月末時点)を展開しているセブン-イレブン・ジャパンは、2012年度から新規出店のスピードを加速し、年1000店舗以上のペースで店舗数を増やしている。一方、ファミリーマートとサークルK・サンクスは2016年9月に統合し、店舗数は1万8038店(2017年5月末時点)となった。一方、1万3111店舗(2017年2月末時点)を展開中のローソンも、2017年4月に発表した中期経営計画で、2021年度の店舗数を1万8000店まで増やす目標を掲げている。
各社は海外でも店舗数増加を目指している。セブン-イレブン・ジャパンの親会社であるセブン&アイ・ホールディングスは、2017年3月末時点で、アメリカにおいて8424店のセブン-イレブンを展開中、これを2019年度までに1万店に増やすことを目指している。その一環として、2017年4月、ガソリンの小売りなどを手がける米スノコLP社の一部事業を取得すると発表(下記ニュース参照)。またファミリーマートは、台湾や中国などアジア地域で6486店舗(2017年5月末時点)を展開している。一方、海外展開の面では遅れを取っていたローソン(2017年2月末時点の海外店舗数1156店)も、2017年2月に親会社となった三菱商事との連携により、2020年までに海外店舗を最大5000店までに伸ばす方針を発表した。国内市場には少子高齢化・人口減少などの懸念もあるため、海外展開を目指す動きはさらに活発化する可能性が高い。
少子高齢化、地方の過疎化、単身世帯の増加、働く女性の増加といった社会の変化を受け、新たな顧客層の獲得に向けた取り組みも行われている。例えばローソンは、買い物に出かけることが難しい高齢者向けの「移動販売専用トラック」を、2017年度末までに全国で80台追加し、100台にする方針を明らかにした。また、ファミリーマートでは2017年6月より、レジ横の総菜エリアを「ファミ横商店街」と命名し、焼き鳥やおでんなどの品揃えを拡充。惣菜販売を強化することで、主婦や高齢者が気軽に利用できることをアピールしている。そして、セブン-イレブン・ジャパンは2017年4月から、ナショナルブランド(下記キーワード参照)の日用雑貨を平均で5パーセント程度値下げした。スーパーマーケットやドラッグストアと比べた際の割高感を払拭することで、これらの業態から幅広い層の顧客を奪うことが狙いだ。
好調なコンビニ業界だが、人手不足に伴う人件費の増加は課題だ。そこで、省力化を目指した対応策を打ち出すところもある。セブン-イレブン・ジャパンは、2018年2月までに、唐揚げやおでんなどの調理に必要な機器を洗うための食洗機を全店に導入する計画。ローソンは、パナソニックと共同で完全自動セルフレジ機「レジロボ」を開発し、2016年12月より実証実験を開始した。また、経済産業省は大手コンビニ5社と、全商品を電子タグ(下記キーワード参照)で管理し、無人のレジで瞬時に生産できる仕組みを2025年までに実現することで合意している。今後も、さまざまな効率化・省力化への取り組みが重要になるだろう。
コンビニ業界志望者が知っておきたいキーワード
宅配ロッカー
宅配便や郵便物を受け取るためのロッカー。大手コンビニが運送会社と提携し、店頭に宅配ロッカーを設置するケースが増えている。運送会社にとっては不在時の再配達が減るという大きな利点があるし、消費者にとっても配送時間を気にせず通販などを利用できる。そしてコンビニには、ロッカー利用者による「ついで買い」を期待できる点がメリットだ。
電子タグ
電波を利用し、機器などを接触させず(=非接触)に個体を認識する仕組みのこと。ICタグ、無線タグなどと呼ばれることもある。店内の幅広い商品に貼り付けることで、いつ、どこで、何の商品が、どの程度流通しているのかを簡単に把握できる。レジ・検品・棚卸業務の高速化、万引き防止、消費期限管理の効率化などの効果が期待される。
ナショナルブランド
NB(National Brandの略)と呼ばれることもある。各メーカーが、自社のブランドで展開している商品を指す。小売店が企画し、製造をメーカーに委託する「プライベートブランド」(PB)の対義語。
コンビニの商品構成
一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会によると、コンビニの2017年4月時点における商品構成比(既存店売上高ベース)は、弁当やパン類などの「日配食品」が36.4パーセント、加工食品が27.4パーセント、非食品が30.7パーセント、サービスが5.5パーセントという比率。売り上げの6割以上を食品が占めており、この分野に力を入れる企業が多い。
このニュースだけは要チェック<海外で店舗を増やそうとする取り組みが活発>
・セブン&アイ・ホールディングスがアメリカの連結子会社を通じ、アメリカの石油販売会社であるスノコLP社からコンビニとガソリンスタンドの計1108店舗を取得すると発表。これにより、アメリカでの出店ペースはさらに加速するとみられる。(2017年4月6日)
・ファミリーマートが、「売れる商品を、売れるときに、圧倒的に売る」ことをコンセプトとした新マーケティング戦略を発表。売り上げを伸ばすために使われるポスターやチラシなどの「販促物」を、効果のあるものに絞って減らすことで、店頭の労働力不足に対応する取り組みも行う予定だ。(2017年6月5日)
この業界とも深いつながりが<業務効率化のため家電メーカーなどと協力>
デジタル家電
デジタル家電メーカーなどと協力し、店内業務を効率化して人件費削減を目指す
総合商社
総合商社と資本関係のあるコンビニもある。また、海外進出時に協力することも
外食
店内で食べるスペースを用意するコンビニが増え、外食企業と競合関係が強まる
この業界の指南役
日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門成長戦略グループ コンサルタント
堀内くるみ氏
ケンブリッジ大学大学院化学工学科修士課程修了。企業のビジョン作り、経営戦略・事業戦略策定支援、マーケティング戦略策定支援などのコンサルティングを中心に活動。
取材・文/白谷輝英 イラスト/千野エー