3年連続で発売戸数が増加し市場に明るさが。東京都心部での開発ラッシュに注目しよう
不動産経済研究所によれば、2012年の全国マンション発売戸数は9万3861戸。前年(8万6582戸)に比べて8.4パーセント増加し、4年ぶりに9万戸を突破した。 背景には、東日本大震災による供給戸数減からの反動と、景気回復への期待感があるとみられる。年15万~17万戸程度で推移していた01~06年に比べるとまだまだ低いが、市場は明るさを増しているといえよう。なお、首都圏の発売戸数は4万5602戸で全体の48.6パーセント、東京都23区は1万9398戸で全体の20.7パーセントを占める。今後も首都圏への人口集中は続くと予想されており、引きつづき、マンションディベロッパーの主戦場となるだろう。
主要ディベロッパーは、住宅事業に加えて商業用不動産の開発などを幅広く手がける総合不動産企業(野村不動産、三井不動産レジデンシャルなど)、鉄道系企業(近鉄不動産、東急不動産など)、専業系ディベロッパー(大京など)、ハウスメーカーなどの異業種参入系ディベロッパー(大和ハウス工業など)に大別できる。また、あなぶき興産のように地方を主力とするディベロッパーもある。ひと口に「ディベロッパー」と言っても、特色はさまざま。業界志望者には、個別企業ごとに研究を深める必要がある。
今、注目が集まっているのは、20年夏季五輪の開催が決まった東京都心部だ。ロンドン五輪の際、会場周辺のマンションで入居希望者が増加したこともあり、オリンピック会場として予定されている有明・晴海周辺の開発は大きく進展すると期待されている。すでに、老朽化マンションの建て替え、新規マンションの開発計画が数多く進行中だ。また、仮設競技場として整備された五輪会場跡地については、五輪終了後の20年以降、ディベロッパーによってさらなる大規模開発が行われるだろう。
中古マンションを巡る市場にも注目しておこう。日本には現在、約590万戸のマンションが存在するが、このうち1981年(昭和56年)以前の「旧耐震基準」で建てられたマンションが約106万戸を占める。これらのマンションは震度6以上で倒壊する危険性が指摘されており、耐震補強もしくは建て替えが緊急の課題だ。現在の法律では、マンションを棟ごと売却して別の場所に住み替える場合、所有者全員の同意が必要(同じ場所での建て替えは所有者の5分の4以上、改修は4分の3、耐震改修は2分の1以上の同意で行える)。これが、老朽化マンションの解体が進まない要因の一つとなっている。国土交通省ではこうした状況を改善するために、老朽化マンションの解体・売却要件の緩和に関する法改正の準備を進めているところ(ニュース記事参照)。法案の提出は早ければ14年の通常国会となる見込みで、成立すれば新たな需要が発生する可能性が高いだろう。今後の成り行きをぜひチェックしておきたい。また、中古マンションを改装して価値を高める「リノベーション」市場も拡大中で、この分野に乗り出す企業も増えつつある。
新しい分野を開拓しようとするところも多い。1つのキーワードは「海外」。とりわけ中国には三井不動産レジデンシャル、三菱地所レジデンス、大和ハウス工業などが進出し、上海・天津・瀋陽などの都市で開発事業を実施している。今後は、マレーシア、インドネシア、ベトナムなど東南アジア諸国での開発も盛んになってくるだろう。もう1つのキーワードは「スマートマンション」。太陽光発電システムや「HEMS(Home Energy Management Systemの略。ITやセンサー技術を活用し、家庭用のエネルギーを効率よく管理するシステム)」などを備え、省エネや、子ども・高齢者の「見守り」といった付加価値を持つマンションが登場し始めている。
押さえておこう <12年の全国マンション発売戸数ランキング>
野村不動産(6181戸)
2位
三井不動産レジデンシャル(5138戸)
3位
三菱地所レジデンス(4975戸)
4位
住友不動産(4209戸)
5位
大和ハウス工業(3176戸)
6位
大京(3130戸)
7位
あなぶき興産(2103戸)
8位
プレサンスコーポレーション(2066戸)
9位
近鉄不動産(2032戸)
10位
東急不動産(1765戸)
※不動産経済研究所調べ
このニュースだけは要チェック <東京五輪決定は業界にとって強い追い風>
・2020年の夏季五輪の開催都市が、東京に決定した。これに伴い、会場に近い東京都臨海部では、マンション人気が急激に高まっているといわれる。また、五輪に向けて新設が予定されている11競技場のうち、9カ所は東京臨海部に集中。これらの五輪終了後の再開発にも注目。(2013年9月7日)
・国土交通省が、老朽化マンションの建て替えや売却を促進するため、新しい法律案の提出を検討中だと報道された。現在、マンションの解体には区分所有者全員の同意が必要だが、これを8割程度の合意で済むよう緩和する方針だとされる。(2013年8月29日)
この業界とも深いつながりが <建設会社とは非常に深い関係>
建設
マンション建築時には必ず協働する、切っても切れない関係のパートナー
総合商社
海外でマンション開発を進める際、総合商社と共同で事業を行うケースも多い
メガバンク
不動産開発には多額の資金が不可欠。物件情報の提供を受けることも多い
この業界の指南役
日本総合研究所 マネージャー 田中靖記氏
大阪市立大学大学院文学研究科地理学専修修了。専門は、新規事業・マーケティング・海外市場進出戦略策定。鉄道・住宅・エネルギー等、主に社会インフラ関連業界を担当。また、インド・ASEAN市場開拓案件を数多く手がけている。
取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか