学生時代は何も考えなくてヨシ。それより入社後、目の前の仕事に一生懸命取り組むことが大切
学生によく、「社会人になってすぐに活躍するために、学生時代にやっておくべきことはありますか?」と聞かれますが、私は必ず「そんなことは考えないでいいから、学生のうちにしかできないことをやるべき」と伝えています。
だってそもそも、この間まで学生だった人が、仕事ですぐ成果を挙げられるはずがありませんからね。「サークルの部長としてみんなを率いていた」経験なんて、ビジネスでは直接生かせませんし、「大学時代に会社を立ち上げた」なんて言っても、やはり社会人としてかかわるビジネスとは違うケースがほとんど。せいぜい、入社後2、3カ月の「社会人としての立ち上がり」がほかの人よりも早いかな?ぐらいの差でしょう。
米スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授は、彼が提唱しているキャリア論「計画的偶発性理論」の中で、「キャリアの8割は予想しない偶発的なことによって決定される」と語っています。僕はこの考えに共感していて、よく言われている「30歳、40歳の時のなりたい自分を考え、そのために今何をすべきか考える」なんてあまり意味はないと思っています。だって、これから先何が起こるかなんて、誰もわからないんだから。
あえて「やっておくといいこと」を挙げるとするならば…「算数」と「国語」でしょうか。なぜなら、この2つさえしっかりできていれば、ビジネスに必要な論理的な考え方ができるからです。
例えば、営業職に配属されたとします。今月、あと10日しかないのに、月の売り上げ目標にまだ半分しか達していないときに、「10日間で半月分の売り上げを挙げなければならないので、これまで以上に頑張らないと達成できない」と判断し、一日の行動量を計算して動くことが必要です。しかし「算数脳」がない人は、月末になって「時間がない!」とあわてて、結局目標を逃してしまうのです。
また、営業として自社の商品やサービスを売り込むときには、商品やサービスの魅力を相手に伝わるように話す「国語力」が必要です。クライアントが怒っているとき、なぜ怒っているのかを探るときも「国語力」がものをいいます。
反対に、「入社後にすぐ活躍できるようになるために、学生のうちに○○を頑張ります!」なんて人、企業はあまり欲しくないと思いますよ。
入社前にあれこれ考えすぎて頭でっかちになるよりも、新人時代はとにかく目の前の仕事に真剣に、真摯に取り組み続けるべきだと思います。「こんなの、やりたいことじゃない」なんてくれぐれも言わないこと。会社は「あなたがやりたいことをやる場所」ではありません。逆に「会社がやらせたい仕事」は山ほどあります。
ただ一方で、夢は忘れないことです。夢を密かに心の中で温めつつ、目の前のことに一生懸命取り組み続けていれば、いつの間にか力が付き、より責任ある仕事が舞い込むようになる。夢の方から、あなたに近づいてきますよ。
取材・文/伊藤理子 撮影/鈴木慶子