各社は生産・販売体制の海外シフトを進行中。新技術開発で他社と提携する動きも活発だ
トヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業の3社は、世界中で広く知られた大企業。また、ダイハツ工業、スズキ、マツダ、三菱自動車工業、富士重工業なども一定のシェアを獲得している。海外に目を転じると、ゼネラルモーターズ、フォード(ともに米国)、フォルクスワーゲン(ドイツ)、現代自動車(韓国)、ルノー(フランス)といった自動車メーカーがある。
国際自動車工業会によると、2013年における世界の自動車販売台数は8725万台。前年(8422万台)より3.6パーセント増えた。欧州(1973万台)のみ対前年比で0.5パーセント減だったが、アジア大洋州(4575万台)は4.6パーセント増、北米(1343万台)は4.9パーセント増、中南米(771万台)は5.8パーセント増、アフリカ(64万台)は8.5パーセント増だった。新興国での需要拡大に支えられ、ここ数年、グローバル市場は成長を続けている。これに対し、国内の自動車販売台数は伸びていない。
2013年における日本メーカーの国内生産台数は963万台。対前年比で3.1パーセント減だった。このうち、半数近い467万台は輸出されている。一方、2013年における日本メーカーの海外生産台数は1676万台で、対前年比5.9パーセント増。2009年(1012万台)に比べると3分の2近く増えた。国内市場は、少子高齢化と人口減少、若者の車離れ、ガソリン価格の高騰などが影響し、長期的な縮小傾向が避けられない。そこで各自動車メーカーは、海外の生産・販売体制をさらに強化するとみられる。業界志望者は、新興国での生産工場新設の動きをチェックしておこう(下記ニュース参照)。
国内外ともにキーワードとなっているのが「エコカー」だ。エネルギー・環境問題に対する関心が世界的に高まる中、燃費を高める技術や、排ガス・二酸化炭素の排出を抑制する技術はますます重要になっている。特に、環境規制が厳しい欧州・北米・日本市場では、「次世代自動車」(下表参照)の開発が焦点となるだろう。ハイブリッド車の「プリウス」(トヨタ自動車)、「フィット」(本田技研工業)などは販売ランキング上位の常連となっているし、「アイ・ミーブ」(三菱自動車工業)、「リーフ」(日産自動車)といった電気自動車も、徐々に販売台数を伸ばしている。日本政府も、環境性能に優れた自動車を税制面で優遇する「エコカー減税」を実施するなど、次世代自動車の普及を後押ししている。
安全に関する技術にも注目だ。富士重工業は、車載カメラで障害物などを認識し、衝突回避などを行う運転支援システム「EyeSight(アイサイト)」を開発。いち早く市場に投入して人気を呼んだ。他社でも、同じような技術の導入を進めている。増え続ける高齢者の交通事故を抑制する効果などが期待できそうだ。
ただし、エコカーや安全などに関する新技術を生み出すためには、莫大(ばくだい)な投資が必要。また、できるだけ短期間で開発しなければ、他社に後れを取ってしまう。そこで自動車各社は、他社と提携することで技術開発費の負担軽減と開発のスピードアップを図っている。例えば、前出の「EyeSight」は富士重工業が日立製作所などと協力して開発したもの。トヨタ自動車は独BMWと技術提携し、欧州向けの車種にBMW製ディーゼルエンジンを搭載している。また、本田技研工業はゼネラルモーターズなどと共にインターネット検索大手の米グーグルと提携し、自動車向け情報システムを開発すると発表。今後も、こうした動きは活発化するだろう。
次世代自動車について整理しておこう
電気をエネルギー源とし、モーターを使って走る自動車のこと。家庭用の電源や、街中の「充電スタンド」を利用して充電を行う。走行時に排ガスを出さない。
ガソリンエンジンとモーターを組み合せたハイブリッド車の中で、コンセントから直接充電できる機能を持ったもの。ハイブリッド車に比べ、より電気自動車に近い存在。
水素と酸素の化学的反応でエネルギーを得る燃料電池を搭載し、モーターを動力に使って走る自動車のこと。走行時に排ガスを出さず、水だけを出す。
窒素酸化物(NOx)やPM(浮遊粒子状物質)の排出量を抑え、厳しい排ガス基準を満たすディーゼル車のこと。欧州で比較的人気が高い。
このニュースだけは要チェック <新興国での生産工場新設が活発化>
日産自動車が、独ダイムラーと共にメキシコに新工場を建設すると発表。日産自動車の高級ブランド車「インフィニティ」を17年以降に、「メルセデス・ベンツ」ブランド車を18年以降に生産する予定。両社は互いの投資コストを抑えつつ、中米で高級車分野の強化を目指している。(2014年6月27日)
本田技研工業が、インド北西部のラジャスタン州タプカラに設立した新工場で、自動車の生産を開始したと発表。年間生産能力は12万台で、インド内の既存工場と合わせて年24万台が生産可能だという。インドの自動車市場は20年に1000万台規模に急拡大すると予測されており、需要の高まりに対応した動きだ。(2014年2月24日)
この業界とも深いつながりが <IT系企業と協力するケースが増加か?>
鉄鋼
燃費向上には軽くて強い鉄鋼が不可欠。エコカーなどに強度の高い新鋼材の採用が進む
デジタル家電
エコカーに搭載する燃料電池や蓄電池をデジタル家電メーカーが開発するケースも
IT(情報システム系)
運転支援システムなどを共同開発するため、IT系企業と協力する機会が増えそう
この業界の指南役
日本総合研究所 主任研究員 吉田賢哉氏
東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。専門は、新規事業戦略やマーケティング戦略、企業のビジョンづくり・組織戦略など。製造・情報通信分野などの業界動向調査や商品需要予測も手がける。
取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか