病院・診療所編・2014年【業界トレンド】

「医療崩壊」を防ぐため、医療の効率化を目指した改革が進んでいる

病院とは、病床数が20以上ある医療機関のこと。これに対し、病床数が19以下、あるいは入院施設がない医療機関は診療所と呼ばれる。厚生労働省の「平成25年 医療施設調査」によれば、2013年10月1日現在における全国の医療施設総は17万7769施設。内訳は、「病院」が8540 施設、「一般診療所」は10万528 施設、「歯科診療所」は6万8701施設だった。これらは経営母体により、民間セクターである医療法人と、国公立病院や自治体病院、大学病院などに分類されることもある。

厚生労働省の「平成25年度 医療費の動向」によると、13年度の国民医療費は対前年比2.2パーセント増の39.6兆円。03年度(30.8兆円)に比べると、3割近い伸びを示している。背景にあるのは、言うまでもなく「高齢化」だ。1990年に12.1パーセントだった高齢化率(65歳以上人口の割合)は、03年に19.0パーセント、13年には23.0パーセントと急増。25年には高齢化率が30パーセントを突破する見通しで、医療費の負担が日本の財政に重くのしかかっている。

そこで政府は、14年4月に70歳~74歳の医療費自己負担割合を1割から原則2割に引き上げるなど、医療費抑制を目指してさまざまな対策を講じている。中でも医療機関に大きな影響を及ぼしているのが、2年に1度行われる診療報酬・薬価基準の見直しだ。日本では、国が診療や薬ごとに価格を定めているが、14年にはこれらが実質ベースで引き下げとなる「マイナス改定」が行われた。近年は、地方の医療機関や、救急救命、産科といった分野で医師・看護師不足が進行。医療スタッフの慢性的疲弊をもたらし、「医療崩壊」が懸念されているが、診療報酬のマイナス改定がこうした流れに拍車をかける危険性もあるだろう。

こうした状況で求められているのが、医療の効率化だ。患者がアクセスしやすい中小病院や診療所は、具合が悪くなった時に最初にみてもらう「かかりつけ医(主治医)」の役割を担当。そこで高度な治療が必要だと見なされた場合には、地域の医療拠点となる「中核病院」に紹介するという仕組み作りが急がれている。実現すれば、かかりつけ医は患者に対する継続的な投薬や健康管理が可能になるし、高度な医療を行うべき中核病院に症状の軽い患者までが集まって医療効率を低下させる事態も防げるだろう。こうした取り組みを促進するため、かかりつけ医からの紹介なしで中核病院を訪れる患者には、より高額な初診料を課すなどの制度構築が検討されている。

医療ビジネスを海外に売り込もうとする取り組みにも注目したい。その代表格が、訪日外国人に医療サービスを提供する「メディカルツーリズム(医療観光)」だ。海外の富裕層などには、自国の医療に不満を持つ人が少なくない。そこで、医療水準の高さや健康イメージの強さ、「おもてなし」の能力を生かして、外国人を迎え入れようとする病院が増えている。一方、海外進出を図る病院もある。特に、中国や東南アジアで事業を展開する取り組みが活発だ。

電子カルテの導入、インターネットを使った遠隔治療といったIT活用も焦点。技術革新によって、より高度で効率的な医療の実現が模索されている。

医療業界志望者が知っておきたいキーワード

国民皆保険
全国民が医療保険に入り、病気やけがの際に適切な医療行為が受けられるようにする制度のこと。日本は国民皆保険を実現しており、安い医療費で高度な医療が受けられる体制を整えている。
予防医学
病気になってから治療するのではなく、普段から健康増進を図り、病気になりにくい心身を作ろうという考え方に基づく医学。病気になる人を減らすことで、医療費抑制が実現できる。
再生医療
障害や欠損が生じた臓器や組織を、再生させるための医療。近い将来、iPS細胞(人工多能性幹細胞)の活用などで、拒絶反応などのリスクが少ない再生医療が可能になると期待されている。

このニュースだけは要チェック <アジア進出の動きに注目を>

厚生労働省が「病床機能報告制度」を創設。これは、医療機関が持っている病棟ごとの医療機能を、各都道府県に報告させる仕組みのこと。都道府県が、地域の医療資源を把握・分析することで、バランスのとれた診療体制策定に役立てられる。(2014年9月10日)

三菱商事はJICA(国際協力機構)の支援を得ながら、フィリピンで病院事業を展開。2015年から順次着工し、20年までに10カ所を建設する。日本から医療スタッフを派遣し、日本式のノウハウを伝える方針。アジア進出の一事例として注目されている。(2014年5月24日)

この業界とも深いつながりが <医薬品メーカーとは密接なつながり>

医薬品メーカー
医薬品は医療に欠かすことができないもの。新薬開発時にも協力しあう

介護サービス
高齢化が進む中、医療と介護の連携が強く求められている

旅行・ホテル
メディカルツーリズムの取り組みを活発化させる上で、協力する機会が増えそう

この業界の指南役

日本総合研究所 主任研究員 吉田賢哉氏

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東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。専門は、新規事業戦略やマーケティング戦略、企業のビジョンづくり・組織戦略など。製造・情報通信分野などの業界動向調査や商品需要予測も手がける。

                                                                                          取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか

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