化粧品編・2015年【業界トレンド】

国内市場は競争激化。中高年・男性などの新顧客層掘り起こしと、海外展開が重要に

経済産業省の「生産動態統計」によると、2014年における化粧品の国内出荷額は、対前年比4.2パーセント増の1兆4868億円だった。化粧品は日用品としての要素が強く、ここ数年の国内出荷額は1兆4000億円前後で安定している。ただし、人口減少などが影響し、国内市場は長期的に縮小する危険性も大きい。

異業種のメーカーが化粧品を手がける動きは、引き続き盛んだ。例えば、07年に市場に参入し、スキンケア商品を中心に扱っていた富士フイルムは、14年にシャンプーやコンディショナーといったヘアケア商品の発売も開始。同社の化粧品ブランド『アスタリフト』は、市場での存在感を着実に高めている。これに刺激を受け、食品メーカーや医薬品メーカー、小売業からの商品投入も相次いだ(下記参照)。国内市場の競争は、さらに激化する傾向だ。

そこで各社は、新たな顧客層の掘り起こしに取り組んでいる。ターゲットの1つは、40~50代以上の女性。この世代は若年層より人口が多く、高級化粧品の消費にも積極的だ。そこを狙って「エイジングケア」「アンチエイジング」というコンセプトを掲げ、肌のハリ・ツヤを維持・回復する商品が増えている。また、男性向け化粧品も有望だ。従来は化粧品・美容に対してなじみのなかった男性に対し、スキンケアを提案する動きが活発化。また、抜け毛予防や育毛を意識し、頭皮のケアに着目した「スカルプシャンプー」が注目を集めている。これは従来のシャンプーよりも高価格設定の商品が多く、市場規模の拡大を牽引(けんいん)している。

海外展開も重要な課題だ。例えば、10年3月期における資生堂の海外売上比率は36.9パーセント。これが、12年3月期には44.3パーセントとなり、14年3月期には50.5パーセントと国内を上回った。ポーラ・オルビス ホールディングスも、13年12月期に12.2パーセントだった海外売上比率を、20年には20パーセント以上に引き上げる目標を打ち出している。特に焦点となっているのが、巨大な人口を抱え、日本より若年層の比率が高いアジア新興国だ。中国、ASEAN諸国などでは、今後、化粧品市場の急拡大が見込まれている。

ただし、海外展開は一筋縄ではいかない。スキンケアを重視する国もあれば、メイクアップを重視する国もあるなど、国によって化粧のやり方やライフスタイル、美への意識は異なるからだ。成功には、的確に現地のニーズを捉え、それをスピーディーに事業展開に反映していくことが不可欠だろう。また、対面販売(百貨店などで、来店客と一対一でカウンセリング・美容指導を行うこと)員の技術向上によって自社ブランドのファンを増やしたり、低価格な現地向け商品を開発したりするなどの工夫が求められるかもしれない。

年代や性別を問わず、化粧品の機能や科学的な効果に関心を持つ層が増えていることにも注目したい。イメージを重視した広告・宣伝を行うだけでなく、どんな成分がどんな作用を及ぼすかきちんと説明し、消費者に訴求を図るケースが目立ってきている。

異業種から化粧品業界に参入した事例(抜粋)

化学メーカー
富士フイルムが、写真フィルムの事業で培ったコラーゲン関連の技術や、ナノテクノロジー分野での強みを生かし、『アスタリフト』を展開。

食品メーカー
江崎グリコが『gg』、大塚食品が『インナーシグナル』、味の素が『jino(ジーノ)』、サントリーウエルネスが『F.A.G.E(エファージュ)』、マルハニチロが『SQUINA(スクウィナ)』をそれぞれ手がけている。

医薬品メーカー
ロート製薬がスキンケア化粧品『肌研(ハダラボ)』シリーズを発売。新日本製薬も基礎化粧品『ラフィネ』を展開している。

大手小売業
イオン、セブン&アイ・ホールディングスの両社が、PB(プライベートブランド。小売業者が企画し、メーカーに生産を依頼した独自ブランドのこと)化粧品をそれぞれ販売。強力な販売力を生かし、売り上げ拡大を目指している。

このニュースだけは要チェック <海外展開の動向に注目>

・資生堂が、インドネシアの企業グループ「シナルマスグループ」との合弁契約を締結。インドネシアは世界第4位、ASEAN最大の人口を誇る市場で、若年層の比率も高い。中間層のニーズに応えた化粧品を供給することで、売り上げ拡大を目指す。(2014年4月10日)

・コーセーが、天然由来成分配合の化粧品に実績を持つ米国のタルト社を買収。コーセーは、海外売上比率をさらに高める方針を中期経営計画で打ち出している。米国のブランドを取り込むことで、グローバル化を加速させる見込みだ。(2014年3月17日)

この業界とも深いつながりが <スーパーのPB化粧品は脅威になりうる>

百貨店
高級化粧品の重要な販売チャネル。景気回復で売上額が増加傾向

ドラッグストア
低価格品の販売チャネルとして重要な役割を果たしている

スーパー
販売チャネルとしても重要だが、スーパーやコンビニの安価なPB商品は脅威

この業界の指南役

日本総合研究所 主任研究員 吉田賢哉氏

yoshida_sama

東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。専門は、新規事業戦略やマーケティング戦略、企業のビジョンづくり・組織戦略など。製造・情報通信分野などの業界動向調査や商品需要予測も手がける。

取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか

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