スポーツへの関心高く市場は好調。ITを活用した製品の開発などでさらに売り上げ拡大を目指す
スポーツ用品・アパレル業界では、ナイキ(アメリカ)、アディダス(ドイツ)の2社が飛び抜けた存在。国内メーカーとしては、アシックス、ミズノ、デサント、ゴールドウイン、ヨネックスなどが代表格だ。アシックスはシューズの売上比率が高く、ミズノはスポーツ用品の分野で大きな存在感を発揮するなど、メーカーによって得意分野は異なる。また、国内小売業ではアルペン、ゼビオ、メガスポーツなどがある。こうした大手小売りチェーンはスポーツ用品全般を扱うケースが多いが、各分野に特化した専門店(例えば、サッカーの加茂商事など)も数多く存在する。
矢野経済研究所の「スポーツ用品市場に関する調査結果 2015」によれば、2014年のスポーツ用品国内市場は1兆3559億円の見込み。国内市場は、3年連続で3パーセント以上の成長を維持している。健康志向の人が増えていることに加え、東京オリンピック・パラリンピックの開催決定、スポーツ庁の発足などが追い風となり、スポーツへの関心は高まる傾向。そのため、スポーツ関連業界にも、さらなる成長が期待されている。
ここ数年好調なのが、スポーツシューズの分野だ。「スポーツ用品市場に関する調査結果 2015」によると、14年のスポーツシューズ市場は前年比11.1パーセント増の2196億円。前年より220億円も拡大しており、業界全体の成長を力強くけん引している。公益財団法人日本生産性本部の「レジャー白書2015」によると、14年における国内のジョギング・マラソン参加人口は2140万人。ランニング愛好家は非常に多く、今後も底堅い需要が期待できるだろう。中でも注目されているのが、成人の中で最もジョギング・ランニング実施率が高いとされる、20代女性向けのスニーカー・ランニングシューズ。各社は、この層に向けた製品の開発に力を入れている。
サイクルスポーツ用品も好調だ。このところ、各地で「自転車専用道路」の整備が進行中。また、『弱虫ペダル』などのマンガがヒットしたことも手伝い、自転車を楽しむ人は着実に増えている。「スポーツ用品市場に関する調査結果 2015」によれば、14年の市場規模は372億円で、対前年比で15.2パーセントも伸びた。
ただし、市場のすべてがバラ色というわけではない。少子高齢化と人口減少により、今後、国内のスポーツ参加人口は緩やかな減少が予想されているからだ。そこで各社は、市場の拡大を目指してさまざまな取り組みを行っている。
IT・通信技術とスポーツの融合は、大きなトレンド。例えば、ウェアラブル端末(キーワード参照)を装着させたり、センサーをスポーツ用品に埋め込んだりすることで、ヘルスケア情報や競技記録を収集する取り組みが活発になっている。また、フィットネスアプリを通じて売り上げ拡大を目指す企業も多い。ナイキは、アップルと提携して各種フィットネスサービスを提供中。アディダスは、15年8月にアプリ開発企業を買収(ニュース記事参照)して対抗する姿勢を見せている。フィットネスアプリは、サービス自体の売り上げによって利益が得られるだけでなく、自社のスポーツ用品・アパレルの売り上げ拡大にもつなげやすいのだ。
海外売上比率が7割に達しているアシックスは、15年4月、東京オリンピック・パラリンピックにおける国内最高位スポンサーの「ゴールドパートナー」契約を結んだ。グローバルな認知度向上により、売り上げのさらなる拡大につなげるのが狙いだ。また、デサントも15年3月期の海外売上比率が5割を突破。国内メーカーにとって、海外展開はますます重要な課題となっている。
スポーツ用品・アパレル業界志望者が知っておきたいキーワード
身につけられる(=wearable)情報端末のこと。「Google Glass」のようなメガネ型、「Apple Watch」のような時計型をはじめ、靴型、指輪型などさまざまな端末が登場している。アメリカの市場調査会社であるIDC社は、14年に全世界で2000万台だった端末数は、18年には1億台を突破すると予測している。
東京オリンピックで主催都市が提案できる「追加種目」に、野球・ソフトボール、空手、ローラースポーツ(スケートボード)、スポーツクライミング、サーフィンの5競技が選ばれた。正式決定は16年8月であるが、5競技が採用される可能性は高い。これをきっかけに、新たなブームの可能性も期待されている。
15年に行われた英国大会では、日本チームの躍進が話題をさらった。次回は、19年9月に日本での開催が予定されており、ラグビーブームが巻き起こると期待されている。ラグビー用品・関連アパレル品などの売り上げ増につながる商品開発は、各社の重要なテーマ。
13年にサービス開始された、スマートフォン向けの「陣取り」ゲーム。参加者は2陣営に分かれ、位置情報を活用しながら現実世界の地図と連動した「陣取り」を行う。ユーザー数は世界で800万人以上。「ゲームに夢中になり、一日中、街なかを歩き回っていた」という人も多く、フィットネスアプリにとって参考にできる部分は多い。
このニュースだけは要チェック <フィットネスアプリを巡る動きに注目>
・アディダスが、スマートフォン向けフィットネスアプリの開発会社であるランタスティック(オーストリア)を買収。この分野で先行しているナイキ、アンダーアーマー(アメリカ)などに対抗し、デジタル健康管理サービス分野でのシェア拡大を目指す。(2015年8月5日)
・アシックスが、インドのニューデリーで初の専門店「ASICS SELECT CITY WALK」をオープン。また、8日後にはインドネシアのジャカルタでも専門店を新設した。経済成長が続くアジアではランニング人口が増えており、出店によってブランドイメージの向上、売り上げ拡大を目指す。(2015年7月2日)
この業界とも深いつながりが<IT業界と協力するケースが増えそう>
IT(情報システム系)
IT・通信技術をスポーツ用品に取り込もうとする試みは、いっそう加速しそう
アパレル
スポーツアパレルメーカーと一般アパレル企業の境目は曖昧になりつつある
繊維
高機能なウエア・スポーツ用品の開発で、繊維素材メーカーと協力することも
この業界の指南役
日本総合研究所 未来デザイン・ラボ シニアマネージャー 田中靖記氏
大阪市立大学大学院文学研究科地理学専修修了。同大学院工学研究科客員研究員。専門は、未来洞察、中長期事業戦略策定、シナリオプランニング、海外市場進出戦略策定など。主に社会インフラ関連業界を担当。また、インド・ASEAN市場の開拓案件を数多く手がけている。
取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか