市場は順調に拡大。さまざまな手法で消費者に購買を促す「オムニチャネル」に注目しよう
eコマース(Electronic Commerce。電子商取引ともいう)とは、インターネットなどの通信技術を活用し、コンピュータシステムを介して商取引を行うこと。企業間の取引を指す「BtoB(Business-to-Businessの略。B2Bと表記することもある)型」、消費者が企業から商品を購入する「BtoC(Business-to-Consumer。B2Cと表記することも)型」、消費者同士で取引する「CtoC(Consumer-to-Consumer。C2Cと表記することも)型」に大別できる。また、インターネットを通じて商品を購入できるサイトを「ECサイト」と呼ぶ。
経済産業省の「平成26年度我が国情報経済社会における基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」によると、2014年におけるBtoC型サービスの市場規模は約12.8兆円。13年(約11.2兆円)に比べ14.6パーセント、10年(約7.8兆円)に比べると64.3パーセント増となった。また、BtoC型eコマース市場の規模を、全商取引の市場規模で割った「EC化率」は、14年時点で4.37パーセント。前年(3.85パーセント)より0.52ポイント増えており、インターネットを通じてモノを買う行為は、一般消費者の間で順調に広まっている。なお、内訳をみると、食品・家電・アパレルなどの物販系分野が約6.8兆円、旅行予約やチケット手配などのサービス分野が約4.5兆円、オンラインゲームや電子書籍などのデジタル分野が約1.5兆円となっている。
総合系ECサイトとしては、楽天市場、Amazon.co.jp、Yahoo!ショッピングが「3強」と呼ばれている。一方、アパレル販売に特化したZOZOTOWN、健康食品・医薬品などを手がけるケンコーコム、家電に強いヨドバシ.com、オフィス用品中心のアスクル、有機野菜の宅配を行うらでぃっしゅぼーやなど、特定分野の物販で大きな存在感を放つサイトもある。また、サービス分野ではじゃらん、楽天トラベルや一休.comといった旅行系サイトも、よく知られた存在だ。この業界で大切なのは、品揃えの良さ。魅力的な商品をたくさん用意すれば、多くの顧客を集めることができる。その結果、売り上げが伸びてさらに品揃えを強化できるという「正のスパイラル」が実現できるのだ。そこで各社は、商品ラインナップの拡充に向け努力を重ねている。
このところクローズアップされているのが、「オムニチャネル」というキーワードだ。「オムニ(omni)」とは、「すべての」「あらゆる」という意味を持つ言葉。商品を購入させるため、実店舗、ダイレクトメール、カタログ、チラシといった「リアル」な手段と、Webサイト、SNS、マスメディアなどの「バーチャル」な手段とを連携させ、さまざまなチャネルを通じて消費者に接触していく考え方を指す。例えばセブン&アイ・ホールディングスでは、グループのECサイトで購入した商品を、セブン-イレブンの店頭で受け取れる仕組みを提供。また、「無印良品」を運営する良品計画は、実店舗、ECサイト、SNSなどを連携させる取り組みを推進中。スマホアプリ「MUJI passport」を開発し、店舗とECサイトで共通して使えるポイント制度を整えたり、Webでのクチコミ投稿や店舗への立ち寄り(チェックイン)によってポイントが貯まる仕組みを作ったりして、店舗とECサイトの双方で集客力アップを目指している。
CtoC型市場の拡大も見逃せないポイント。Yahoo! JAPANのオークションサービス「ヤフオク!」など、消費者間の取引を支える仕組みは以前から存在していた。しかし近年、消費者同士がより気軽に取引できる「フリマアプリ」(下記キーワード参照)が登場し、注目を集めている。例えばメルカリが提供するフリマアプリ「メルカリ」は、スマートフォンの写真機能を使って簡単に出品できるなど、直感的でわかりやすい使い勝手で人気だ。また、ファブリックが提供する「フリル」なども利用者を増やしている。さらに、LINEが「LINE MALL」、楽天が「ラクマ」でフリマアプリ市場に参入するなど、大手企業の動きも活発だ。今後、さらに市場拡大の可能性があるため、関連ニュースをチェックしておきたい。
eコマース業界志望者が知っておきたいキーワード
インターネット上で、フリーマーケットのように個人間で商品取引できるアプリのこと。入札によって商品価格が変動するオークションに対し、フリマアプリでは出品者が自分で設定した価格で販売される。フリマアプリを提供する事業者は、取引の決済代行を行うことで手数料を得るのが一般的。
Online to Offlineの略。OtoO、あるいはOn2Offと表記することもある。ネット上の働きかけにより、リアル店舗の購買活動を活発化させること。インターネット経由で割引クーポンを発行して来店客増加につなげる、スマホアプリで店舗にチェックインするとポイントが提供されるなどの仕組みが代表格。
消費者が、居住している国以外から商品を購入するeコマースのこと。ここ数年、訪日外国人が増えていることを受け、外国人が日本旅行中に関心を持った商品を、帰国後に日本のECサイトで購入する動きが盛んになるのではないかと期待されている。
ECサイトは、楽天市場のように複数のショップを集めて出店者から手数料を得る「モール型」と、Amazon.co.jp、あるいは家電量販店や百貨店の直販サイトに代表される「直販型」とに分類することもできる。
このニュースだけは要チェック <リアルとバーチャルを組み合わせたサービスが拡大>
・セブン&アイ・ホールディングスが、西武、そごう、イトーヨカドー、ロフト 、赤ちゃん本舗などの商品をインターネットで購入し、近くのセブン-イレブンで受け取れるサービス「omni7」を開始。全国の約1万8000店舗で、24時間受け取り可能という利便性を訴求している。(2015年11月1日)
・2013年7月にリリースされたフリマアプリ「メルカリ」が、サービス開始から2年で1600万ダウンロードを突破したと発表。なお、このアプリはサービス開始後1年半で1000万ダウンロードを達成しており、利用者は着実なペースで増えている。(2015年7月2日)
この業界とも深いつながりが <「オムニチャネル」でコンビニとの協力が増えるか?>
ポータルサイト・SNS
SNSや比較サイトの口コミ情報が、eコマースのきっかけになることは多い
家電量販店
ヨドバシ.comなどが品揃えを拡充し、総合ECサイトの一角に食い込もうとしている
コンビニ
ECサイトで買った品物をコンビニで受け取れるなど、連携の動きが活発
この業界の指南役
日本総合研究所 シニアマネジャー 吉田賢哉氏
東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。専門は、新規事業戦略やマーケティング戦略、企業のビジョンづくり・組織戦略など。製造・情報通信分野などの業界動向調査や商品需要予測も手がける。
取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか