【カンボジア編】「愛国心」と「家族愛」を大切にする文化

Reported by 永遠の野球小僧
カンボジアの首都プノンペンにある日系企業の現地法人でマネジメントを担当。現地での趣味はゴルフ。また、近々野球のナショナルチームの審判の手伝いを始める予定。

宗教に対しては真摯な反応を見せる

こんにちは。永遠の野球小僧です。今回は、カンボジアの文化についてお話しします。

私の会社は、通常は午前8時に就業開始で、7時50分からラジオ体操をしています。その後、3分ほど国歌がスピーカーから流れます。そのあいだ、カンボジア人の従業員はみんなその場で頭を下げて国歌に静かに聴き入ります。

その姿を見ていると、日本の若者と比較して、カンボジアの若者の方が強い愛国心を持っていると感じます。基本的に家族とのきずなが強い文化ですから、その延長上に「自分の国が好き」という気持ちがあるのでしょう。

カンボジア人の従業員は、地方から出てきた20代の若者が多く、実家から離れて会社の敷地内にある寮で生活するのが基本になります。大半は農村出身者で、自宅近郊で家族の農作業の手伝いをしていた人ばかり。彼らの多くは、初めて親元を離れて会社で働いているのです。そのため、家族から離れてさびしくなると、オバケの幻が見えてしまうほど不安を抱いてしまうようです。実際に、私たちに「あの寮はオバケが出る」と言ってくる人もいます。

そんなとき、お寺のお坊さんにお祓(はら)いしてもらい、お守りにミサンガをつけると、その日から「オバケが出なくなった」と言います。カンボジアは仏教国で、基本的に信心深い人が多く、宗教に対しては真摯な反応を見せます。僧侶の言葉をありがたく受け入れるような謙虚な姿勢や考え方が、会社で上司の話に素直に耳を傾けてくれることにもつながっているのでしょう。

離職する理由は家族との関係が中心

カンボジアでは、地元の人にポル・ポト時代の話はタブーです。「クメール・ルージュ」に祖先が殺害された経験のある人が多くいますし、またそうした状況を想起させるような社会的問題が実際に起こっているからです。

実は2014年1月、賃上げの労働争議が起こり、治安部隊の発砲で死者が出る事件が起こりました。そのとき、当社の従業員の多くの家族が「プノンペンがポル・ポト時代の二の舞いになるから、早く帰ってきなさい」と、寮に居住する娘さんたちを呼び戻そうとしました。会社側から「現場から離れているし安全です」と伝えましたが、現地の従業員は会社よりも家族とのつながりを優先しますから、「家族が心配している」という理由で2割くらいの従業員が一時帰宅してしまう事態になりました。10日ほどで戻ってくれましたが、それだけポル・ポト時代の悲惨な事件のイメージが強く、現在の社会的問題と結び付けて家族の身の安全を心配する人たちがいるのだとわかりました。

これは一時的に会社を離れただけで済んだ事例ですが、家族との関係から完全に離職してしまう理由はほかにもいくつかあります。例えば、田植えや稲刈りの時期に実家の手伝いをするために戻り、そのまま離職するケース。また、正月やお盆の帰省時に「里心」が付いてしまい、そのまま実家に戻ってしまうといったケースなどもあります。

また、休暇の取り方についても、地元の人は日本人には思いつかないような、家族との関係に基づいた行動をするときがあります。カンボジアでは農繁期に結婚するのが難しいため、12月から1月の農閑期に結婚式が集中します。そのため「この時期は自分だけでなく親族にも結婚が多く、従業員は結婚式への出席を優先するため、あまり会社に出てこられません。無理やり出てこさせても、心ここにあらずという状態になるでしょう」と、現地の人からアドバイスを受けたことがあります。これはカレンダーを普通に眺めただけでは、絶対にわからないことです。

こうした事例からもわかるように、「仕事すること」を日本の基準だけで捉えていては、現地スタッフに気持ちよく働いてもらうために必要な条件を見誤ってしまいます。現地の慣習に基づいた基準も考えておくことが大事です。

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カンボジア第二の都市・バッタンバンの郊外にある「ワット・プノン・サンポー」の山頂にある寺院。日本の寺院とは違い、派手な塗装が施されている。カンボジアは国民の9割以上が仏教徒とされている。

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プノンペン郊外のキリロム・リゾート。山間部にあり、プノンペン市民の避暑地でバーベキューや川遊びが楽しめる。この写真は雨上がり後で水が濁っているが、本来はもっと透明。

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衣類が山のように重なり合っているが、これでも売り物。カンボジアは衣類製造に関して、他国を凌駕(りょうが)する生産増を続けている。

構成/大根田康介

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