就職先を選ぶ際、ともすると企業の知名度や規模、安定性ばかりに気を取られがち。しかし、違う視点でリサーチしてみると、これまで知らなかった企業に出会える可能性も高まります。
今回は、事業戦略のエキスパートであるシンクタンク・日本総合研究所の吉田賢哉さんに、企業選びのポイントをインタビューしました。企業を選ぶ際に見ておくと良いポイントとは?
吉田賢哉(よしだ・けんや)
さまざまな業界の企業を対象に成長戦略や新規事業を中心とした業務に従事。そのほか、経営ビジョン・中長期計画の策定、組織開発、マーケティング、パートナー戦略、リサーチ・市場予測など幅広いテーマにも対応し、多角的・総合的な観点から企業の発展を支援している。
【ポイント1】「BtoB」企業に着目してみよう
企業を「誰を相手に商売をしているか」という取引の形で見ると、BtoB(Business to Business)企業とBtoC(Business to Consumer)企業に分けることができます。BtoB企業とは法人を相手に商品やサービスを手掛けている企業、一方のBtoC企業は一般消費者を相手に商品やサービスを手掛けている企業です。おそらく皆さんが「この会社で働きたい」とイメージするのは、自分自身が消費者としてかかわることのあるBtoC企業だと思います。しかし、普段皆さんが触れることの少ないBtoB企業には、隠れた魅力があるのです
市場規模が大きい
世の中のBtoBビジネスと、BtoCビジネスそれぞれについて市場規模を正確に把握することは難しいのですが、例えば、経済産業省のレポートによると、EC(電子商取引)において、2017年のBtoCに関するECの市場規模は約16.5兆円で、EC化率(全ての商取引額におけるECの市場規模の割合)は5.79%でした。これに対して、BtoBに関するECの市場規模は約317兆円で、EC化率は29.6%です。これを手がかりに考えると、BtoB市場は、BtoC市場の数倍の規模があることに。BtoB市場は規模が大きい分、そこで活動するBtoB企業には、より多くのビジネスチャンスがあると考えられます。
流行りに影響を受けない安定した商品・サービスの展開
BtoB企業の魅力の一つは、市場の流行廃りの影響を受けにくいこと。BtoC企業は一般消費者を相手にしているので、世の中の「ブーム」に影響を受けます。ブームは1カ月~数年程度で終わってしまうことが多いので、売り上げを高い水準で安定的に継続させるためには、次々にヒット商品を生み出す必要がありますが、これは至難の業です。
一方、BtoBは消費者ではなく企業を相手にしているため、BtoC企業に比べて需要が安定する傾向にあり、売り上げが大きく上下することは少なくなります。
BtoB企業の探し方は「縁の下の力持ち」をたどってみよう
先述したようにBtoB企業はテレビCMなどにはなかなか登場しません。どうすれば企業を知ることができるのでしょう。
例えば、AV家電や自動車などは、多数の電子部品が使われています。それらの製品を支えている電子部品を作っているのはBtoB企業。さらにその電子部品を製造・加工する装置を作っている企業、電子部品を作るための材料や原料を提供している企業、電子部品の販売を手伝っている企業なども、BtoB企業です。
このように私たちが普段接している商品の背景には、いろいろな企業が存在しているのです。まずは自分が好きな商品をスタート地点としてさかのぼっていく。そこまで目線を広げていくと、これまでなじみのなかった企業と出会うことができるはずです。
【ポイント2】「チャレンジ・失敗を恐れない企業」かどうかをチェック
もう一つ、大事なポイントがあります。BtoB、BtoC企業に限らず、チャレンジや失敗を恐れない企業かどうかということです。
今は不確実性の高い時代。今好調の事業であっても、この先の成功は約束されていないということです。先ほど、一般消費者にはブームがあると述べました。そのブームの根源となる消費者の興味・関心は昔よりも非常に早く変化するようになっています。また、趣味、興味、時間などの使い方の多様化が進み、大ヒットをつくり出すことは難しくなりました。その背景にあるのは、インターネットの普及やSNSの発展。情報収集やコミュニケーションが容易になったことで、多くの人が以前よりも短い時間で膨大な情報に触れることができるように。そうすると、ブームが広がっていく間にも、新たなブームが次々と起こってくるようになりました。
その結果、消費者のニーズをつかんでから商品を作っても、そのころには消費者の興味・関心は次へと移っており、作った商品が売れないという状況に…。加えて、消費者のニーズの移り変わりの早さから、昔に比べるとある商品の旬(よく売れる時期)は短くなる傾向にあるとも言えます。
日本企業も失敗を評価する文化に変わりつつある
そこでどの企業も、従来のように「これなら100%売れるだろう」というモノを作ろうとして、時間をかけて世に出していくという方法ではなく、ある程度売れそうだと思えるものをどんどん世に出すようになりました。売れればそのまま、売れなければ引っ込めたり改良したり、というトライアンドエラーを繰り返すスタンスが重要。売れそうだからとりあえずやってみる、つまり失敗を恐れずチャレンジすることが、企業が事業継続していくためには不可欠な時代となっています。
日本の企業の中には、失敗すると出世競争から外されてしまうという風潮が根強く残っているところもありますが、もはやそういう時代ではないのです。チャレンジして失敗をした人を褒めたたえる文化が大切。そういう文化を持つ企業は、新しい事業を作ることや既存の事業をより強化することができると思います。
新しいチャレンジをしていれば、衰退産業でも生き残れる
例えば、かつて綿や麻などの天然素材から糸や織物を作る繊維産業は、日本において外貨獲得の中心を担う花形産業でした。しかし、高度成長期の時代に入り、繊維産業は衰退…。ところが、そのような衰退産業の中でも、化学繊維を事業の中心に据えた企業やカーボンナノチューブのような新素材を活用する事業にチャレンジした企業は、生き残って現在でも活躍しています。
このように産業には、流行廃りが必ずあります。今、盤石に見えている自動車産業も例外ではありません。現在、主流のガソリン車は100年以上も栄華を誇ってきました。しかし50年後はどうでしょう。おそらくガソリン車ではなく、街には電気自動車があふれていると思われます。つまり強い産業、強い商品もピークが過ぎて終わりが来るのは当たり前のことなのです。
今の事業を強化することは重要ですが、それだけでは長期的に企業として生き残っていくことは難しいでしょう。既存の事業とは異なる事業にもチャレンジしていくことが、企業が長く生き残っていくための秘訣(ひけつ)なのです。
新しいチャレンジをしている企業を知る方法
ニュースや企業のホームページなどを見ていれば、新しい事業の立ち上げなどの情報に触れることが可能です。自分が興味を持っている企業については、過去・現在にどんなチャレンジをしているか、調べてみると良いでしょう。
また、チャレンジする風土が備わっていることも重要です。会社説明会などで、チャレンジにかかわるどのような制度・仕組み、実績があるかを聞いてみると良いかもしれません。その際、希望する部署への異動を認めるといった個人を対象とした制度だけではなく、会社として新たなチャレンジをするためにどのようなルールを作っているのか、過去の新事業の立ち上げやヒット商品の開発は、どのようなプロセス・きっかけで始まったのかなど、具体的な内容についても知りたいところです。
そして、失敗した人がどう処遇されているのかを知ることも大切。これは先輩社員に聞いてみることなどで、ある程度雰囲気が把握できると思います。失敗したことがある人が活躍している企業、失敗しても何度もチャレンジする機会が与えられている企業であれば、チャレンジに積極的と考えられます。
ベンチャー企業を就職先の一つとして検討している場合の探し方
また、今後の成長分野として注目されている業界で、新しい挑戦を行おうとしているベンチャー企業を、自身の就職先として検討している人もいるのではないでしょうか。
例えば、今はAIがブームになっており、AIのベンチャー企業が伸びるのでは?と予想する人はたくさんいます。私もその一人ですが、10年後を考えたときには、すべてのAIベンチャーが生き残ることはできないと思いますし、AIに関連する業界全体が思ったほど成長していない可能性もあります。有望だと言われている注目業界のベンチャー企業だからといって安易に就職先として良いと判断するのではなく、有識者が出している将来予測などの情報を集め、自分自身がその業界に本当に可能性を感じられるのかを考えてみてください。
ベンチャー企業の中には、あえて衰退・斜陽産業でチャレンジしているところもあります。例えば、出版産業は市場規模の縮小傾向が続いていますが、「電子書籍」に挑戦するベンチャー企業が登場し、業績を伸ばしているところもあります。業界全体が縮小する中であっても、イノベーションを生み出すことができるベンチャー企業であれば、生き残っていくことができるはずです。
自分がやりたいことを重視し、後悔しないキャリアを歩もう
もし私が今就活をするなら、危機感を持ち、チャレンジする風土を醸成している企業を選ぶと思います。
例えば、業界で勝ち続けているある大企業の社長は、日ごろから従業員に次のようなことを語っていると言います。「私たちは業界のトップだと世間で言われているが、それにおごるな。私たちにはまだまだお客さまのためにできることがあるはずだ」と。従業員に妥協しないで、常にチャレンジし続けることを求めているのです。このように従業員に危機感を語ることで、現状に満足させない空気を醸成し、常にチャレンジし続ける。だから業界トップの地位に続けられるのです。
とはいえ、チャレンジしている企業に就職できたからといって、幸せかどうかはわかりません。そこでもう一つ、忘れてはならない大事な視点があります。それは、その企業に入って自分自身がやりたいこと、チャレンシしたいことに関われるかどうかということです。自分自身の幸せにも、チャレンジは重要だと考えます。
ただ、注意してほしいのは、就職先で、自分のやりたいこと、チャレンジしたいことだけにかかわるのは難しいということ。やりたいことには、必ずやりたくないこともセットで付いてくるでしょう。それゆえ、時に自分の気が進まないことへのチャレンジも必要なはずです。
一方で、今は、生涯一つの企業で働き続けるという時代ではなくなってきています。将来的に転職や独立するという道もあります。あなたのやりたいこと、チャレンジしたいことは何かを意識しながら、自分自身のキャリアをどのように作っていくか考えてほしいと思います。
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文/中村仁美
撮影/平山 諭
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