タブレット端末の台頭で市場は頭打ちに。ニッチ市場の開拓と、業界再編に注目しよう
一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)によると、2013年度のパソコンの国内出荷台数は、対前年度比8.6パーセント増の1210.9万台。出荷金額は16.5パーセント増の9263億円となった。14年4月、パソコンの基本ソフト(OS)として広く使われてきたWindows XPのサポート期間が終了し、法人を中心に買い替えが増加。また、消費増税前の駆け込み需要も売り上げ増を後押しした。一方、14年度に入ってからは反動が生じている。4、5月は駆け込み需要の余波があったものの、その後は対前年度同期比で需要が落ち込んでおり、通年では前年度を割り込む見通しだ。
業界にとって深刻な課題の一つは、価格競争だ。パソコンはすでに普及が一巡しており、このところは画期的な新機能もあまり生み出せていない状況。そのため、競合との差別化が図りづらく、価格競争を強いられている。08年度のパソコン国内出荷台数は879.2万台、出荷額は9758億円。つまり、1台あたりの単価は約11.1万円だった。これに対し、13年度の単価は7.6万円程度にまで下落している。さらに近年では、台湾のエイサー(宏碁)、エイスース(華碩電脳)をはじめとする海外メーカーが、低価格を売りに日本市場での販売を強化。価格競争は、今後も激しくなりそうだ。
タブレット端末やスマートフォンの台頭も、大きな懸念材料だ。アップルの「iPad」、グーグルとエイスースが共同開発した「Nexus7」といったタブレット端末は、インターネット閲覧などが中心のパソコンユーザーを取り込みつつある。また、スマートフォンの大画面化が進んでパソコンの存在意義を危ういものにしていることや、パソコンの性能が十分に高まって買い替えの必要性が薄れている点も、市場の先行きに影を落としている。
そこで各社は、いくつかの方向性を模索しているところだ。まずは、成長市場であるタブレット端末市場の開拓。すでに、東芝や富士通といった国内主要メーカーは、タブレット端末の発売を開始している。また、ニッチ市場(特定の狭い市場のこと)での生き残りを目指すケースもある。例えばパナソニックは、ほこりや水滴などに強く、頑丈で、工事現場などの利用に向いた「タフパッド/タフブック」シリーズを販売中。また、富士通は女性向けのデザインや使い勝手向上にこだわった「Floral Kiss」シリーズを販売している。
高性能を売りにして、差別化を図る取り組みも進められている。テレビの録画や動画の編集などは、現在のタブレット端末ではなかなか対応できない機能。こうした「パソコンならでは」の機能を訴求し、プロやマニアにターゲットを絞ったパソコンは少なくない。
業界の再編も進んでいる。「メビウス」ブランドを展開していたシャープは、10年にパソコン事業から撤退。11年にはNECがPC事業を切り離し、レノボ(中国)との合弁でレノボNECホールディングスを設立した。そして14年5月、ソニーがパソコン事業の売却を発表した(下記ニュース参照)。今後も、他社との合併・提携など、業界再編にかかわる動きに注目が必要だ。
パソコンメーカー志望者が知っておきたいキーワード
Thin client。利用者が使うパソコンに最低限の機能しか持たせず、サーバーコンピュータでさまざまな処理を行うコンピュータの仕組み。あるいは、そのようなパソコンのこと。シンクライアントにはハードディスクが内蔵されていないため、紛失などをしても重要データが失われることがない。セキュリティ面で有利なため、企業を中心に導入が進んでいる。
横3840×縦2160画素の画面解像度を指す。Kとはキロ(1000)のことで、横方向の画素(水平画素)が約4000のため「4K」と呼ばれる。現在、デスクトップパソコンのディスプレーはフルHD(1920×1080ピクセル)が主流になりつつあるが、より高精細な画像表示が可能な4Kディスプレーも登場している。
液晶ディスプレーを表示させるためには、液晶の背面から光を当てる「バックライト」が必要。近年はこのバックライトをLED化することで、省電力化を図ることが一般的になってきている。
「ツーインワンピーシー」と読む。キーボード部分を着脱できるノートPCのこと。移動中などはキーボードを外してタブレット端末のように使い、大量の文字を入力するときはキーボードをつけ、PCとして利用できる。
このニュースだけは要チェック <業界再編に関する話題は見逃せない>
・ソニーが、「VAIO」ブランドで知られるパソコン事業を、国内投資ファンドの日本産業パートナーズに売却。新たに設立された「VAIO株式会社」は14年7月から事業を開始し、新製品の発売と、ソニー時代に販売された製品のアフターサービスを行っている。(2014年5月2日)
・マイクロソフトがWindows7のメインストリームサポートを終了。5年後の2020年1月には延長サポートも終了する予定だ。大きなシェアを持つOSがサポート終了を迎えると、パソコンの大きな買い替え需要が起こるため、業界にとっては好機となる。(2015年1月13日)
この業界とも深いつながりが <半導体メーカーとは切っても切れない関係>
半導体メーカー
CPUやメモリーといった部品の性能向上・小型化がパソコンの高性能化に直結
デジタル家電
テレビ視聴・録画機能付きのパソコンが発売され、テレビの市場を奪っている
携帯電話メーカー
タブレット端末、大画面のスマートフォンとの競争は激しくなる一方
この業界の指南役
日本総合研究所 主任研究員 吉田賢哉氏
東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。専門は、新規事業戦略やマーケティング戦略、企業のビジョンづくり・組織戦略など。製造・情報通信分野などの業界動向調査や商品需要予測も手がける。
取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか