証券編・2016年【業界トレンド】

各社はCD以外の収入源を開拓中。海外市場や周辺業界に進出する動きも盛んに

社団法人日本レコード協会によれば、2015年における音楽ソフト(CD、アナログディスク、カセットテープ、音楽ビデオなど)の売上額は2544億円。前年(2542億円)よりわずかに増え、3年ぶりのプラスとなった。ただし、長期的に見ると市場規模は右肩下がりの傾向だ。1998年時点で6075億円に達していた売上額は、2005年に4222億円、10年に2836億円と減少。12年にAKB48グループなどのCDがヒットして14年ぶりに対前年比増となったが、その後も落ち込みに歯止めがかからない状況だ。また、ミリオンセラーも減っている(キーワード参照)。

市場が縮小した原因としては、「音楽ファンの中心層であった若者世代が少子化で減っている」「スマートフォンが普及し、音楽に使うお金や時間を奪っている」「YouTubeやニコニコ動画などを使ってインターネット上で音楽を気軽に楽しむ環境が整い、お金を出してCDなどを買う必要性が薄れている」などが挙げられるだろう。なお、15年における売り上げの内訳を見ると、アルバムCDの売上額が1384億円、音楽ビデオが719億円、シングルCDが417億円となっている。05年(アルバムCD…3110億円、音楽ビデオ…550億円、シングルCD…484億円)に比べると、アルバムCDの売上額は半分以下になった。これに対し、音楽ビデオは約3割も伸びている。

以前は、テレビドラマやCMとのタイアップ、テレビの音楽番組出演などで楽曲やアーティストの知名度を高め、CDの販売増につなげるやり方が主流だった。しかし、CDの売れ行きが落ちたことで、こうした手法は見直しを迫られている。そこで各社は「収益の多チャンネル化」を進行中。音楽ビデオの販売、有料音楽配信、コンサートの入場料やコンサート会場でのグッズ販売、音楽フェスへの出演などを組み合わせ、CD販売以外の売り上げを伸ばそうとしているのだ。

そのきっかけづくりとして注目されているのが定額制音楽配信サービスである。ここで新たな楽曲・アーティストに興味を抱いた人を生歌・生演奏を楽しめるコンサートに呼び込んで魅了すれば、グッズを購入したり、コンサート映像が収録された音楽ビデオを購入したりする流れを生み出せるだろう。ただし、「2016年問題」(キーワード参照)は懸念材料だ。会場が不足すると、コンサートの入場料収入やグッズ販売収入が落ち込み、音楽企業やアーティストにとって痛手となる。そこで、業界全体で新たな会場を整備する取り組みが必要になりそうだ。

海外展開も重要な課題。特にアジアの新興国では音楽を楽しむ若者が多く、市場拡大の余地が大きいとみられる。例えばソニー・ミュージックエンタテインメントは、シンガポールの企業に出資して東南アジアでの事業を強化する方針(ニュース記事参照)。また、エイベックス・グループ・ホールディングスはシンガポールの子会社である「Avex International Holdings Singapore Pte. Ltd.」の名称を、「Avex Asia Pte. Ltd.」に変更し、アジア戦略の整理・構築を進めている。

音楽業界の周辺領域への進出も活発だ。例えば、エイベックス・グループ・ホールディングスの子会社であるエイベックス・ニコは、子ども向け音楽知育プログラムを開発し、保育園などに売り込んでいる(ニュース記事参照)。ミュージシャンやダンサーを従来と異なる場所で活躍させようとする動きは、今後活発化するかもしれない。また、アミューズの子会社はアパレル企業4社を子会社化。アーティスト関連グッズの開発業務を効率化するほか、アパレル部門の強化も目指している。

音楽業界志望者が知っておきたいキーワード

ミリオンセラーの減少
1998年には28枚のアルバムCD、20枚のシングルCDがミリオンセラー(100万枚以上の売り上げを記録した作品)に輝いたが、2015年にはアルバム3枚、シングル4枚にとどまった。特にシングルCDの分野では、08年以降、AKB48以外のミリオンセラーが1枚もない状況だ。

2016年問題
国立競技場や横浜アリーナ、さいたまスーパーアリーナなど首都圏の大型施設の改修・建て替えが重なり、コンサート会場が不足している問題のこと。東京オリンピックに向け、改修・建て替えとなる建物は今後も増える予定で、会場不足はさらに深刻化するという指摘もある。

定額制音楽配信サービス
決められた金額を毎月支払うことで、音楽が聴き放題になるサービスのこと。「AWA」「LINE Music」「Amazon Prime Music」、「Google Play Music」、「Apple Music」などが代表的。中には、無料で音楽配信を行うサービスも登場しており、こうした場を使ってファンを増やそうとする企業・アーティストもある。

フェス
複数のアーティストが集まり、演奏する音楽イベントのこと。「FUJI ROCK FESTIVAL」や「SUMMER SONIC」といった10万人規模の動員力を誇る巨大フェスは、アーティストにとって、単独コンサートの来場者とは異なる「新たなファン」を獲得するチャンスでもある。

ライブでの本人確認システム
人気アーティストのライブでは、チケットを買い占めオークションサイトなどで販売する転売業者の存在が問題視されている。転売行為を防ぐため、「ライブ会場で顔写真付きの身分証明書を提示させる」「顔認証システムを導入して本人確認を行う」などの試みが盛んになっている。

このニュースだけは要チェック <アジア進出への取り組みが盛んに>

・ソニー・ミュージックエンタテインメントが、東南アジアで最大級の日本発ポップカルチャーイベントとされる「Anime Festival Asia」を主催するSozo Pte. Ltd.との資本提携を発表。今後は、東南アジアでのコンサート開催などを強化していく方針だ。(2015年12月25日)

・エイベックスが、0歳~未就学児を対象にした音楽知育プログラム「bambeat!(バンビート)」の提供をスタート。プロとして技術を磨き、母親でもあるダンサーたちが、オリジナルの音楽でダンスを教えるサービス。幼稚園、保育園、スポーツジムなどへ導入を働きかけていく予定だ。(2015年10月30日)

この業界とも深いつながりが <アパレルや教育など他業界との協業が盛んに>

ポータルサイト・SNS
SNSを通じてファンと交流し、人気を高めようとする取り組みが活発

IT(情報システム系)
ライブ来場者の本人確認を行うため、ITを活用した仕組みを導入

アパレル
音楽系企業がアパレル会社を買収し、グッズ開発を加速する取り組みもある

この業界の指南役

日本総合研究所 シニアマネジャー 吉田賢哉氏

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東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。専門は、新規事業戦略やマーケティング戦略、企業のビジョンづくり・組織戦略など。製造・情報通信分野などの業界動向調査や商品需要予測も手がける。

取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか

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