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起業家インタビュー

Vol.4 グロービス経営大学院 学長 グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナー 堀義人さん

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1962年茨城県生まれ。京都大学工学部卒。86年住友商事株式会社入社後、社内留学制度でハーバード・ビジネス・スクール修士課程修了(MBA)。92年株式会社グロービス設立。2006年4月グロービス経営大学院を開学し、学長に就任した。著書に『新装版 人生の座標軸 「起業家」の成功方程式』(東洋経済新報社/税抜き1600円)ほか多数。

大学入学から起業までは、生き方を探し求めた

大学に入って、会社に就職し、30歳でグロービスを起業するまでは、自分の生き方を探し求めるプロセスでした。

 

僕の祖父も父も科学者で、その流れでなんとなく「学者になりたい」と思い工学部に入ったのですが、どうしてもその分野の勉強が面白くない。それでその道に進むことをやめました。今にして思えば当時の生き方はかなりブレていたのですが、そうしたたくさんの失敗を経験できるのも学生時代の醍醐味です。

 

道に迷う中で「社会を知る」ことに興味が湧きました。僕は学生時代、アルバイトで300万円ほど貯金し、最高で月70万円ほど稼いだこともあります。おそらくその業界では、当時日本でもトップクラスだったでしょう。そこまでやるかどうかは別にして、社会を知るためにもアルバイトとはいえ「プロフェッショナルになる」のは大事だと思います。

 

ただ僕の場合、アルバイトでの仕事を社会人になっても続けようとは思いませんでした。自分なりに深く突っ込んでみることで、「これは本当に自分がしたい仕事ではない」と感じたからです。学生時代はミーハーだったので、面白そうだと思ったことに手を出してみては、「これは違う。もっと違うことをしてみたい」と迷いつつ就職活動に突入していきました。

 

いろいろな企業を調べる中で、特に興味をひかれた住友商事に入りました。ここでは金額の大きな仕事を任せてもらえてそれなりに面白かったのですが、やはり「これも本当に自分がしたいことではない」と違和感を持ちはじめたのです。そんなとき、27歳で社内留学制度を利用したハーバード・ビジネス・スクールへの留学が決まりました。その経験を生かし、日本にはない経営学を学ぶビジネス・スクールをつくることを決め、30代を勝負の時期と位置づけ起業したのです。

 

会社の仕組みなどで疑問を持つことはたくさんあったので、自分が「これは嫌だ」と感じたものは起業して組織づくりする中ですべてやめました。そうすれば働きやすい会社になっていくと信じていましたから。そういう意味で一度会社に勤めれば、組織の長所・短所が学べるでしょう。「会社の言うことがすべて正しい」と肯定するのではなく、自分の頭で考える判断力を持つことが大切です。

 

学生時代に一度、リーダーとしての経験を培っておく

大学生に対しては「可能な限り大学内だけで勉強する時間を最小化する」ことを、僕のスタンスとして訴え続けています。単位を短期間で取ってしまえば、時間は膨大に余るでしょう。そこで「自分は何をしようか」とじっくり考えられるようにするのが、学生生活で最も大事なことです。

 

新しく社会人になる人は、リーダー職を担う場面も出てくるでしょう。そんなとき、リーダーとして必要になる資質は3つあると僕は思います。1つめは「経営の知識」。野球部のマネージャーがドラッカー理論を実践し部員とともに成長するという物語がありましたが、経営の知識は絶対にリーダーとして必要です。2つめは「正解のない世界で問題を解決していく力」。3つめは「多くの人を引っ張っていけるような人間関係を構築する能力」で、これにはコミュニケーション力やプレゼンテーション力が問われます。

 

ところが、この3つの能力は学校教育では十分に教えられません。中学や高校が本来はそうした場であるべきはずなのですが、どうしても回答を与えられるばかりの画一的な授業になってしまっています。それでは問題解決能力が身につきませんし、個性も生まれません。特に学校ほど受験が重くのしかかってきますから、ほとんど試験勉強、部活、文化祭などのイベントだけで高校生活が終わってしまいます。そういう意味で「大学で勉強する時間を最小化しよう」と訴えているわけです。

 

現在の日本では、ほとんどの大学で教育方法がレクチャー方式、つまり一方的に先生が学生に話をするかたちだと思います。これは将来的にMOOCs(ムークス。Massive Open Online Courses の略で「大規模公開オンライン授業」のこと)に変わっていくでしょう。わざわざ通学し教室で興味をひかれない授業を受けるくらいなら、Web上で面白い先生の授業を聞いた方がいいです。

 

大学の授業としてやるべきは、実際に起きた事例を題材としてあらゆる事態に適した最善策を討議し導き出す教育、いわゆるケースメソッドを中心に問題解決のため何をどうすべきか皆で議論することだと僕は思っています。先生とのやりとりの中で、自分の見解をはっきり伝える。議論を分析した結果から得られた選択肢で、どれがいちばんいいか意思決定し行動計画に移す。このような授業なら、時間をかけて受ける価値は十分あると思います。なぜなら正解がない中で、自分の考えをはっきり伝えて多くの人と意見をぶつけ合い、自分の考えを突き詰めながら知恵や知識を駆使した問題解決の方法論を構築できるからです。

 

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知恵や知識を持つ人に触れ、人間関係を構築する力をつける

人間関係を構築する能力を養うには、他人と意見をぶつけ合うしかありません。そのためにも、ぜひ自らの手でサークルなど1つの組織をつくってみてください。そうすれば、皆が命令するだけでは従わないと“実感”するでしょう。その中で「どうすれば人はモチベーションを保ちながら、僕についてきてくれるだろうか」と自分なりに考えるようになります。

 

リーダーは時として孤独です。ひとりさびしい思いをしながら、自分には何が足りないのか認識する。できるだけたくさん、こうした機会を得る方がいいです。最初はチームとして順調にすべり出したとしても、2年後には崩壊している可能性もあります。そんな体験を通じて、人間というものを理解し自分の能力を把握する。これは学生時代の大きな財産となるはずです。

 

実は、僕は学生時代に1年間休学し東京へ行きました。「すごい人脈をつくってやろう」という野心よりは、「こういう人たちがいるのか。面白そうだ」という好奇心の方が強かったです。いろいろな人との出会いがとにかく楽しかった。特に僕の周りはユニークなメンバーが多くて、彼らはベンチャー経営者や政治家などリーダーとして今も活躍しています。

 

人と議論し、人間関係を構築していくためには、知恵や知識が道具として必要です。昔は新聞や本を読んでおけばそれらが得られたかもしれませんが、今は社会の流れをネット上でつかめる時代になりました。その点では社会の動きや企業の考え方に触れる機会も増え、ソーシャルネットワークなどで知恵や知識を持った面白い人たちに直接アプローチできます。

 

世界を知り日本を知るために、読書を通じ見識を深める

僕たちが「日本人」として世界に打って出ようと思えば、まず「日本人とは何か」を知らなければなりません。そのためには世界を見てみることが大切です。海外に行けば世界の人たちに日本のことを聞かれますから、そこで初めて「自分は日本のことを何も知らなかった」と気づくでしょう。それでようやく「日本のことをもっと知りたい」という願望が生まれます。僕は何事に対しても強い願望を抱く必要があると考えていますが、学びのための学びに対してはそれほど強い願望を抱けないと思います。

 

世界の中でも最低限、アジアか欧米のどちらかは若いうちに行くべきです。世界は欧米が中心となってつくってきた側面があり、日本も近代化する中で“脱亜入欧(だつあにゅうおう)”を掲げ西洋文化を取り入れてきました。しかし一方で、2050年にはアジアが欧米の経済規模を上回ることになるでしょう。そのときは「アジアの時代」になります。

 

そうなると、日本のポジションが欧米に対してどうか、アジアの新興国に対してどうかを相対化して見ることが必要です。それを可能にするのが、アジアにあって西洋文化を取り入れてきた「日本」という地域の特性。旅行、留学、ホームステイなど世界を知るにはいろいろな方法があると思います。

 

見聞を広めるためにも読書をお勧めしますが、実は僕自身は、学生時代にはあまり読書をしませんでした。学生時代は遊ぶことに時間を費やす。そして就職活動の準備や社会人としての活動を通じて、自分に何が足りないかを自覚しながら読むべき本について考えていく。その方が吸収力も高まると思います。

 

例えば僕の場合、リーダーシップに迷ったときは組織論について、また重大事件が起こったときはどういう心理で犯人が行動を起こしたのかという心理学について、あるいは子どもが生まれれば子育てについて、それぞれ関連する本を10冊以上「まとめ読み」します。それぞれ主張はバラバラですから、その中で現在の自分に必要な知識を取捨選択します。これが読書をする上ですごく重要で、自分なりの言葉でその分野に関しての知見を構築できます。「勉強しましょう」という外部からの動機づけだけでは渇望感や熱意などがどうしても不足し、探求心を持ちながら本を読めません。

 

これから社会に出る人は、リーダーシップ経験などを通じて「自分に何が足りないのか」「なぜこんなことができないのか」と葛藤していくでしょう。それを解決するいくつかのヒントが本の中にはあると思います。

 

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これから社会に出る皆さんへ

大学時代ほど時間が多くあることは、社会人になるとほとんどないと思います。会社に入ると仕事で忙しくなりますし、何かを習得するにも若いときよりたくさんの時間を費やします。大学生活の時間をどう使うかで、社会人としての過ごし方が決まってくると思ってください。

 

ぜひ大学外での活動を通じて、世界を広げ、人間関係を広げ、多くの人と出会う機会をつくりましょう。またアルバイトやインターンシップを経験することで、企業がどう動いているか見てみましょう。そして、自分の生き方をいったん自分が経験した範囲内で決めてみる。それが就職活動に入る前の段階で必要です。

 

あと、20代前半は大いに恋愛をしてほしい。世の中には男性と女性がいます。これからはもっと女性が社会で活躍する時代になるでしょう。そういう時代の女性について男性が知ることは重要ですし、反対に女性もそういう時代の男性を知ることは、社会に出たとき人間関係をつくる上で役立つと思います。人生におけるよきパートナーを見つけるためにも、男女ともにできるだけ多くの人とお付き合いすることを勧めます。

 

最後にもうひとつ、「世間の常識」を疑いましょう。時代の移り変わりが速いので、「昔は正しかったことが今は間違っている」なんてことはたくさんあります。人から与えられた情報だけで判断するのではなく、自分の体験から得た情報を基に自分の頭で判断することを常に心がけてください。学生時代は「自分の個性を爆発させる時期」なのですから。

 

これらの僕が伝えたいことは、2014年1月発刊の拙著『新装版 人生の座標軸 「起業家」の成功方程式』にくわしく記しております。ぜひ、そちらもご覧いただきたいと思います。

 

堀義人さんHISTORY

1991年
住友商事株式会社に在籍中、ハーバード・ビジネス・スクール修士課程修了(MBA)。
1992年
株式会社グロービスを設立。
2006年
グロービス経営大学院を開学し、学長に就任。
2008年
日本版ダボス会議である「G1サミット」創設。
2011年
東日本大震災後、復興支援プロジェクトKIBOWを立ち上げる。これまでの間に、若手起業家が集うYEO(現EO)日本初代会長、YEOアジア初代代表、世界経済フォーラム(WEF)が選んだNew Asian Leaders日本代表、ハーバード・ビジネス・スクールのアルムナイ・ボード(卒業生理事)などを歴任。現在、経済同友会幹事などを務める。

 

愛読書は?

内村鑑三著『代表的日本人』(岩波文庫/税抜き600円)がいちばんいいと思います。僕自身、仕事で海外に行く機会が増え、「日本人って何だろう」と疑問が生まれたとき初めて読みました。僕はノンフィクションしか読みません。なぜなら、事実のほうがフィクションより面白いからです。哲学書なども自分の生き方を考えるにはいいと思いますが、それよりも成功者がたどってきた挫折や苦悩の歴史を知ることが大事だと思いますよ。

 

堀さんの愛用品

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この机は、ハーバード・ビジネス・スクールに通っているときアメリカで購入したもので、日本に持ち帰ってからもずっと使っている愛着のあるものです。現在も、オフィスで執務机として使用しています。

 

取材・文/大根田康介 撮影/刑部友康

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