仕事とは?

Vol.208 【後編】和田正人

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わだまさと・1979年、高知県生まれ。日本大学文理学部体育学科卒業。大学時代は陸上部に所属し、箱根駅伝第76回(2000年)、第78回(02年)に出場。02年、NEC(日本電気株式会社)に入社し、陸上部に所属。03年にNECを退職後、2005年俳優デビュー。13年、NHK連続テレビ小説『ごちそうさん』で泉源太役を熱演し、注目される。近年の出演作にNHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』、舞台『世界』、日本テレビ系『地味にスゴイ! 校閲ガール・河野悦子』、映画『14の夜』など。2017年4月8日(土)に放送開始されるテレビ東京系『マッサージ探偵ジョー』に加藤虎雄(タイガー)役にて出演が決まっているほか、2017年は映画『花戦さ』(6月3日公開)、映画『関ヶ原』(8月26日公開)も控える。

前編では実業団の陸上選手から俳優に転身した経緯をうかがいました。
後編ではキャリアの壁に対する考え方や演技に対する姿勢についてお話しいただきます。

常に目の前には壁がある。でも、壁を登り切れば、新たな景色が広がる

-これまでにキャリアの壁を感じた時期は?

今も感じていますよ。常に目の前には壁があって、「それが人生ってなもんだ」なんて思ったりもするんですけど…。仲間に先を越されて悔しい思いをしたり、うまく演技ができなくて葛藤したり、壁が立ちはだかった時期は何度もありましたし、これからもあると思います。でも、壁を登り切れば、新たな景色が広がる。その景色が見たくて繰り返し壁を登ってきて、「これまでになく美しい景色を眺められたな」と思ったのは、やはりNHK連続テレビ小説『ごちそうさん』でした。

 

-『ごちそうさん』では役作りのために数週間で4キロも減量するといった苦労もあったとか。

大変でしたが、苦労ではなかったです。『ごちそうさん』は最初に脚本を読んだ時に、登場人物それぞれに対する脚本家の森下佳子さんの愛情をすごく感じたんですね。それは僕が演じた源太についても同様でした。その愛情に応えたいというか、俳優として二次元のものを三次元にしていく上で何か僕なりの息吹を源太に吹き込みたくて。そのために自分ができることはやり切ろうと思っていました。

 

ネガティブなものも受け入れて、自分のものにしていきたい

-日本テレビ系『地味にスゴイ! 校閲ガール・河野悦子』、NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』と次々に話題作に出演され、映画、舞台でも活躍。赤堀雅秋さん演出の舞台『世界』(2017年1月)では、アルバイトで生計を立てる売れない俳優・諸星のやるせなさや孤独感を見事に表現されていて印象的でした。

僕はずっとスポーツをやってきて、俳優になるまでは「大会で優勝する」「箱根駅伝で区間賞を取る」というように明確な目標に向かって、前だけを見て走ってきたんですね。ところが、俳優というのは人間を表現する仕事なので、前向きな姿勢だけではやっていけない。情けなかったり、卑怯(ひきょう)だったり、傲慢(ごうまん)だったり、ネガティブな面をあえて見せることでエンタテインメントや芸術として成立するところがありますから。

 

「物事の明るい面を見たい」というタイプの僕にとって、自分や他者のネガティブな側面というのは「目をそらしたいもの」でした。でも、物事の明るい面だけを見るというのは、主観でしかものを捉えられていないということ。俳優のような仕事は、物事を常に客観視する力が必要だと思うんです。自分というものを商売道具にして、自分自身の人生で起こったことをいかに面白おかしく、悲しく、劇的に表現できるかが問われる。だから、ネガティブなものもしっかり受け入れて自分のものにしていくことが大事なんだなと諸星のような役をやらせていただいて気づかされました。この先、別のキャラクターを演じる時には、まったく正反対の話をしているかもしれませんが(笑)。他人の人生を体現して、自分自身の視野が広がり、内側の感情や性質も引き出される。俳優というのは面白い仕事だと思います。

 

学生へのメッセージ

舞台『世界』で、町工場の工場長が無断欠勤の言い訳をする従業員に「お前の事情は知らないから」と言い放つ場面があるんです。「お前の事情は知らないから」−−−−。僕にはこの言葉が社会に出るということの本質を象徴しているように思えます。人はさまざまな事情を抱えて生きていて、とても仕事が手につかないようなつらい日もあるかもしれない。それでも、仕事には責任が伴い、どんな事情があっても責任は果たさなければいけません。その覚悟を持って、任されたことに必死で応える。がむしゃらに。そうやって現実に向かい合った先に、夢や希望といった輝かしいものが現れるのが仕事をしていくということなんじゃないかなと思います。

 

和田さんにとって仕事とは?

−その1 生涯をかけてひとつの道を極めていく生き方がしたかった

−その2 身近な人たちが誇りに思ってくれるような仕事を目指してきた

−その3 任されたことに必死に応えていくことが大事

 

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INFORMATION

和田さんが出演する映画『花戦さ』は、2017年6月3日(土)公開予定。織田信長、豊臣秀吉といった戦国武将たちと同じ時代を生きた華道の家元・初代池坊専好の物語。専好が前田利家邸に豊臣秀吉のお成り(外出のこと)に合わせて幅7メートルを超える立花を生けた史実を題材に、権力者に対して花を使って「静かに戦う」様子を描いた。和田さんは野村萬斎さん扮する専好の弟弟子・専武を演じる。

 

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『花戦さ』公式サイト http://www.hanaikusa.jp

 

編集後記

和田さんは大学時代に2度箱根駅伝に出場し、4年生の時には主将として最長区間の9区を力走。素晴らしい実績ですが、優勝や区間賞を目指して走り続けていた和田さんにとっては満足のいくものではなかったそうです。「実業団でもけがに泣き、陸上選手としての僕は頂点を極めたわけではありません。それでも、当時のことを知った皆さんは『目標に向けて努力ができる人なんだな』と温かい目で僕を見てくれる。何かに打ち込んだ経験というのはこんなにも大きなものなんだと俳優になってから実感しました。部活やスポーツというのは必ずしもやらなければいけないものではないけれど、達成感や悔しさ、喜びや苦しみといった人生の縮図を体験できる。それは社会でやっていくための基礎力になりますから、学生時代はぜひ好きなものに打ち込んでほしいですね」と和田さん。優しいまなざしが印象的な方でした。(編集担当I)

 

取材・文/泉彩子 撮影/鈴木慶子

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