新たな競合の台頭と人口減少は脅威。高機能性飲料や海外展開で成長狙う
国内の飲料メーカーには、日本コカ・コーラ、サントリーホールディングス、アサヒグループホールディングス、伊藤園、キリンホールディングスなどがある。社団法人全国清涼飲料工業会によれば、2013年1~12月の国内清涼飲料生産量は、対前年比2.4パーセント増の2023万キロリットル。4年連続で、過去最高記録を更新した。初めて1000万キロリットルの大台を突破した1990年に比べると、生産量は約2倍となっている。また、生産者販売金額は3兆6678億円で、こちらも前年より0.9パーセント伸びた。炭酸飲料や緑茶飲料が好調で、市場は拡大中だ。
しかし、市場環境は厳しさを増しており、必ずしも楽観できる状況ではない。要因の一つが、販売チャネルでもある小売業界が、強力なライバルとして存在感を増していること。大手スーパーは、飲料メーカーの商品より低価格なPB(プライベートブランド。小売業者が企画し、メーカーに生産を依頼した商品のこと)の品ぞろえを拡大中。またコンビニは、セブン-イレブンの「セブンカフェ」のように、店頭で入れたてのコーヒーを提供する取り組みを強化している。こうした動きは、スーパー・コンビニでの売り上げ低下に直結しかねず、飲料メーカーにとっては脅威だ。また、人口減少による飲料需要の低下も大きな懸念材料となっている。
こうした中、各社が力を入れている成長分野が「エナジードリンク」(下表参照)だ。これは、ビタミン類やアミノ酸などの有効成分、カフェインなどを含んだ清涼飲料水のこと。現在の市場規模は数百億円以上と言われており、今後もしばらくは拡大傾向が続くと期待されている。ただし、各社がさまざまな新商品を投入しており、競争は激しくなるだろう。また、高級飲料分野にも注目が集まっている。キリンビバレッジは、高価格帯の新シリーズ「キリン 別格」ブランドを創設(ニュース記事参照)。他社からも同様の商品が投入される可能性がありそうだ。
特定の保健機能成分を含む「特定保健用食品(通称トクホ)」も、引き続き大きな収益を挙げている。花王の「ヘルシア」シリーズが先導役となって知名度を高め、今や一つの分野として定着を果たした。当初はウーロン茶や緑茶といった商品が目立っていたが、最近ではコーヒー、コーラなどでも指定を受ける商品が登場している。また、スポーツ飲料でありながらカロリーゼロを実現した「アクエリアス ゼロ」(日本コカ・コーラ)など、トクホ以外の分野でも商品の「高機能化」が進められている。
海外展開の動きも活発だ。フランスの清涼飲料会社オレンジーナ・シュウェップスを買収するなど海外でのM&Aに積極的だったサントリーホールディングスは、13年9月、イギリス大手製薬会社グラクソ・スミスクラインの飲料事業も買収。傘下のサントリー食品インターナショナルは、14年1月、ヨーロッパでの事業を統括する新会社「サントリー食品ヨーロッパ」を発足させた。また、アサヒグループホールディングスは13年11月、インドネシアの飲料ブランド「Club」などを買収している。国内市場の縮小が懸念される中、海外展開は各社にとって重要な課題だ。また、アサヒグループホールディングスのカルピス買収(12年5月)、サッポロ飲料とポッカコーポレーションの統合(13年1月)などのように、国内企業同士の合併・提携にも注目しておきたい。
主なエナジードリンクと、その販売元
レッドブル・ジャパン
アサヒ飲料
日本コカ・コーラ
ライジンジャパン
ハウスウェルネスフーズ
サントリー食品インターナショナル
※エナジードリンクは、「元気を出したい」「頭や体をリフレッシュしたい」というニーズに応えて売り上げが拡大。そのため、たくさんの企業が参入している。
このニュースだけは要チェック <高付加価値・高機能飲料の開発が活発>
・キリンビバレッジが、高品質な原料を使い、製法にこだわった新飲料ブランド「キリン 別格」の立ち上げを発表。緑茶、コーヒーなど4種類の飲料を発売する。希望小売価格は200円(税抜き)で、一般の飲料より高く設定。価格が高くても高品質な飲料を望む層にアピールする。(2014年9月10日)
・日本コカ・コーラが、脂肪の吸収を抑え、かつ糖の吸収を穏やかにするトクホ飲料「からだすこやか茶W」を新発売。1本で2つの働きを持つ「ダブルトクホ飲料」として注目されている。消費者の健康志向は引き続き強いため、トクホ分野に力を入れる企業は多い。(2014年4月7日)
この業界とも深いつながりが <小売業界が強力なライバルになりつつある>
コンビニ
重要な販売チャネルである一方、コンビニコーヒーなどで強力なライバルに
スーパー
PB飲料の売り上げが増えており、飲料メーカーの商品を圧迫しつつある
ビール・酒造
ビール・酒造業界の企業が飲料メーカーの親会社であるケースは多い
この業界の指南役
日本総合研究所 主任研究員 吉田賢哉氏
東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。専門は、新規事業戦略やマーケティング戦略、企業のビジョンづくり・組織戦略など。製造・情報通信分野などの業界動向調査や商品需要予測も手がける。
取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか