高付加価値商品や介護食品の開発、海外進出などで新ニーズの掘り起こしに注力
経済産業省の「平成25年工業統計速報」によれば、2013年における「食料品製造業」の製造品出荷額は24.1兆円。前年(23.7兆円)より1.7パーセント増で、2年連続の成長となった。ただし、今後は人口減少・高齢化社会の到来で、国内市場が縮小するのは避けられない見通しだ。また、消費税増税による消費者心理の冷え込みや、スーパーやコンビニのPB商品(Private Brandの略。小売業者が企画し、メーカーに生産を依頼した独自ブランドのこと)が売り上げを伸ばしていることも懸念材料となっている。ただし、PB商品は受注したメーカーに安定した売り上げをもたらすなどのメリットもある。
コスト面でも厳しい状況が続く。12年末からの円安傾向により、小麦・大豆などの原材料価格が高騰。食品メーカーは、商品の値上げや、価格を変えずに内容量を減らすなどの対応を余儀なくされ、売り上げに悪影響をもたらした。しかし、競争の激しい分野では原材料価格の上昇分を小売価格に転嫁することが難しく、利益を出しづらい状況となっている。こうした中、各社は利益を確保するため、3つの方向性を模索している。
1つめのキーワードは「高付加価値化」。特に、健康によい影響をもたらす商品の開発が盛んだ。例えば特定保健用食品(特定の保健機能成分を含む食品のこと。通称「トクホ」)の分野では、DHA(ドコサヘキサエン酸)で中性脂肪を下げる「DHA入りリサーラソーセージ」(マルハニチロ)、食物繊維の豊富な「小麦ふすま(小麦の外皮部分)」をフレークにしておなかの調子を整える「オールブラン ブランフレーク プレーン」(日本ケロッグ)といった新商品が登場。また、乳酸菌などを活用した健康食品に力を入れたり、サプリメント事業に手を伸ばしたりする企業も増えている。
2つ目は「高齢者向け食品」。味付けをお年寄り向けに調整する、薄く小さくカットして食べやすくするなどの工夫を凝らした食べ物は、今後ニーズが高まりそうだ。また、固形物が食べられない人でも口にできるような「介護食品」も、市場の拡大が予想されている。
そして3つ目が「海外進出」だ。日本食には、おいしくて安全で健康的というプラスイメージがあり、競争力は高い。ただし、アジアを中心に市場の奪い合いも激化しており、単純な販売方法では売り上げを伸ばすのが難しい状況だ。そこで各社は、現地での訴求方法に知恵を絞っている。例えばハウス食品は、グループ会社の壱番屋とともに、各国で「カレーハウスCoco壱番屋」を展開。店舗を中心にイベントを開催して日本風のカレーに親しんでもらう機会を増やすことで、一般家庭への浸透を目指している。また、味の素は海外展開を進める上で、現地の言葉を使って現物を現金で直接販売する「三現主義」を掲げ、地道な地域浸透を進行中だ。さらに、現地企業の買収や現地子会社設立により、海外進出を加速しようとするケースも目立つ(ニュース記事参照)。
TPP(キーワード参照)の動向にも注目したい。海外食品の輸入量が今まで以上に増えることは、国内メーカーにとって脅威だろう。また、加工食品メーカーにとって、原材料の調達戦略にも影響を与えそうだ。一方、海外進出を図る上では強い追い風にもなるはずだ。
食品業界志望者が知っておきたいキーワード
環太平洋パートナーシップ協定のこと。関税の撤廃や、貿易ルールの統一化などを進め、経済や貿易の自由化を図る取り組みで、シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドが原加盟国。アメリカ、オーストラリア、そして日本なども参加を表明し、交渉が進められている。
Hazard Analysis and Critical Control Pointの略で、ハセップ、あるいはハサップと読む。安心・安全な食品を製造するために管理すべきポイント(重要管理点)を定め、モニタリングすることで、異常が発生した際にはすぐに対策を講じるという考え方。
商品が、生産、加工、流通等の各段階で、どのように移動したか履歴を確認することが可能な状態のこと。導入を進めることで、偽装表示などの問題が生じた時に、原因究明に役立てられる。
このニュースだけは要チェック <海外展開は今後も進みそう>
・味の素グループが、米国の冷凍食品メーカーであるウィンザー・クオリティ・ホールディングス社を約840億円で買収。北米における生産拠点、流通ネットワークを活用することで、日本食・アジア食の販売強化を目指している。(2014年9月10日)
・日清製粉グループが、トルコのパスタメーカーであるヌフン・アンカラ社と、合弁企業「トルコ日清製粉」を設立。2015年4月から新工場を稼働させる予定。供給体制を強化することで、ヨーロッパ・アジア・アフリカなど海外市場への販売増を狙う。(2014年1月29日)
この業界とも深いつながりが <コンビニ、スーパーのPBが強力なライバルに>
専門商社
国内市場における食品の流通は、「食品卸」と呼ばれる専門商社が担っている
コンビニ
販売チャネルとしての重要性が増す一方、コンビニのPB食品が強力なライバルに
スーパー
コンビニと同様、重要な販売チャネル。PB商品の分野では競合となっている
この業界の指南役
日本総合研究所 主任研究員 吉田賢哉氏
東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。専門は、新規事業戦略やマーケティング戦略、企業のビジョンづくり・組織戦略など。製造・情報通信分野などの業界動向調査や商品需要予測も手がける。
取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか