中小企業の資金需要低迷で利益は伸び悩み。新たな資金需要を生み出す取り組みが不可欠だ
信用金庫と信用組合(信用協同組合)は銀行と同様に、預金を集め、個人や事業者に資金を貸し出す役割を果たしている。しかし、出資者(=信用金庫の場合は会員、信用組合の場合は組合員)が特定の地域・業種の零細企業や個人に限られ、相互扶助の理念のもと会員・組合員に金融サービスを提供するところは、株式会社として利益を追求する銀行と大きく異なる点だ。なお、信用金庫の数は2014年末時点で267、信用組合は154。信用金庫には信金中央金庫、信用組合には全国信用協同組合連合会という「系統中央機関」(同じ業態の金融機関が出資、加盟している中央金融機関のこと)があり、各信用金庫・信用組合に対し、金融機関同士の決済サービス提供や経営状況の監視などを行っている。
いわゆる「アベノミクス」が本格的に始まった13年以降、日本経済は回復基調とされ、一部の企業では資金需要が拡大中だ。しかし、信用金庫・信用組合の貸出先である中小・零細企業は大企業に比べて業績回復が遅れ気味であるため、貸出金の額も横ばいとなっている。一方、メガバンクや地方銀行などほかの金融機関との間で、低利金利競争が激化。そのため、信用金庫・信用組合にとっては利益が出しづらい状況が続いている。
例えば、関東財務局管内の信用金庫(72金庫)・信用組合(55組合)の合計で見ると、14年3月期の貸出金残高は27.8兆円で前年同期比+0.2兆円と微増。一方、資金利益(貸出金利と調達金利の差分)は7600億円で、前年同期に比べ151億円減少している。不良債権が減少して信用関連費用が減ったことや、市況改善によって保有株式の評価益が増加したことなどから、純利益は増加傾向。だが、これらはいずれも一時的な増益要因であるため、必ずしも本業の収益性が高いとはいえない。そのため各信用金庫・信用組合には、激化する競争下で生き残る体力をつけることと、地域の事業者・個人のニーズにきめ細い対応を行い、資金需要を作り出す取り組みが求められている。
そうした取り組みの代表例が、ビジネスを始める人々に貸し付けなどを行う「創業支援」。地域経済を担う新たな事業者を発掘・育成することで、最終的に融資の拡大につなげようというものだ。例えば京都信用金庫は、創業5年以内の起業家を集めた勉強会を頻繁に開催するなどして、創業支援関連の融資を伸ばしている。また、信用金庫・信用組合が日本政策金融公庫(小規模事業者向け融資や教育資金融資などを手がける、公的金融機関)と連携し、創業関連の協調融資(複数の金融機関で融資を行うことでリスクを分散する仕組み)を行うケースも増加傾向だ(下表参照)。
信用金庫・信用組合ともに、合併の話題は多い。14年12月に東京都を地盤とする大東京信用組合(港区)と北部信用組合(台東区)の合併が、15年1月には岐阜県の大垣信用金庫(大垣市)と西濃信用金庫(瑞穂市)の合併が相次いで発表された。資金規模を大きくし、経営の安定性を高めるとともに、提供できるサービスを増やして利用者を獲得することが狙いとみられる。
日本政策金融公庫と連携する事例が増えている
埼玉県信用金庫
日本政策金融公庫と連携し、起業を目指す経営者を支援する「創業サポートサービス」をスタート。(14年1月)
大牟田柳川信用金庫、大川信用金庫、筑後信用金庫
日本政策金融公庫と連携し、創業相談や創業計画立案への支援、協調融資などを提供すると発表。(14年8月)
銚子信用金庫、銚子商工信用組合
日本政策金融公庫、銚子商工会議所と連携し、創業スクール受講者向け専用ローンの創設などの支援策を打ち出す。(14年9月)
鳥取信用金庫、倉吉信用金庫
日本政策金融公庫と連携し、起業家からの事業相談に応じるなどの創業支援・経営支援関連サービスを開始。(14年9月)
このニュースだけは要チェック <系統中央機関が主導する動きは要注目>
・全国信用協同組合連合会は、信用組合単体では扱うのが難しい案件に対して資金供給などを行う「中小事業者等支援ファンド向け資金供給制度」を創設すると発表。系統中央機関が主導し、地方経済を盛り上げようとする試みとして注目されている。(2014年11月12日)
・城南信用金庫など、東京都品川区に店舗を構える5つの信用金庫が、「成年後見事業」に乗り出す。金融業務に長年携わった信用金庫の退職者を、「成年後見人」(認知症などで判断能力が低下した成人を、保護・支援する人)として育成し、地域貢献を目指す。(2015年1月23日)
この業界とも深いつながりが <地域企業との結びつきが強固>
地方自治体
信用金庫・信用組合は地域に根ざした組織。自治体と協力する機会も多い
地方銀行
地域の中小・零細企業に融資を行う点で、直接のライバル関係にある
生保・損保
保険会社の代理店として窓口販売を行う信用金庫・信用組合もある
この業界の指南役
日本総合研究所 副主任研究員 高津輝章氏
一橋大学大学院商学研究科経営学修士課程修了。事業戦略策定支援、事業性・市場性評価、グループ経営改革支援、財務機能強化支援などのコンサルティングを中心に活動。公認会計士。
取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか