ネット対応・電子版への取り組みが盛ん。新聞社同士が協力する動きも目立つ
社団法人日本新聞協会によれば、2014年の新聞発行部数は4536万部。対前年比で164万部、3.5パーセント減少した。下記データにあるように、この10年ほどは部数減少に歯止めがかからない状況だ。
また、13年度の新聞社総売上高は1兆8990億円で、対前年度比0.9パーセント減。03年度(2兆3576億円)に比べると、2割近く縮小している。深刻なのが、広告収入の落ち込みだ。販売収入は、03年度が1兆2640億円だったのに対し、13年度は1兆1302億円と1割ほどの減少にとどまった。一方、03年度に7544億円だった広告収入は、13年度には4417億円と4割以上減っている。
部数・売り上げ減の背景にあるのは、タブレット端末やスマートフォンといったデジタルデバイスの普及と、インターネットメディアの拡大だ。博報堂DYメディアパートナーズ・メディア環境研究所の「メディア定点調査(東京)・2014」によると、携帯電話・スマートフォンの利用時間は、12年は40.4分、13年は50.6分、14年は74.0分と拡大。一方の新聞は、12年は24.0分、13年は27.1分、14年は23.4分と横ばいとなっている。また、電通が公表している「2014年 日本の広告費」によると、09年に7069億円だったインターネット広告費は、14年には1兆519億円まで急増した。これに対し、09年に6739億円だった新聞広告費は、14年には6057億円と低迷。消費者にとってデジタルデバイス・インターネットメディアの存在感が高まっており、新聞の重要性は相対的に低下している。
そこで新聞各社は、成長しているデジタル・インターネット分野で主役の座を勝ち取るための取り組みを進行中だ。例えば、日本経済新聞社は14年11月、クラウドサービス大手のエバーノート(米)と資本・業務提携すると発表。電子版新聞の記事を手軽に保存し、後で読み直したり検索したりできる仕組みを整備している。また、興味を持った記事を家族などと共有できるようにするなど、「デジタル・ネットならではのサービス」を増やしていく動きも盛んだ。
有料会員制電子新聞の動向にも注目しておきたい。すでに、日本経済新聞、朝日新聞、読売新聞などは「電子版新聞」を有料化。紙媒体の新聞購読料に追加料金を支払うことで、パソコンやスマートフォンなどのデジタルデバイスでも記事を閲覧できる新聞もあるし、電子版単体で購読できるものもある。例えば、日本経済新聞の媒体資料によると、同紙電子版の有料会員数は15年1月時点で39万人に達した。ほかの媒体も、順調に会員数を伸ばしているとみられる。ただし、ネットでは無料で読めるニュース記事が氾濫しているため、「お金を払っても読みたい」と思わせる記事の提供が求められるだろう。
紙の新聞が持つ価値の再確認も、重要な課題だ。消費者が新聞に寄せる信頼感を生かした新ビジネスや、全国に展開する販売所を活用した事業の可能性などを模索する動きが、今後は進むかもしれない。また、地方紙などでは、地域の魅力を発掘・発信していく役割を担うという動きが活発化していく可能性もある。
新聞の発行部数は低落傾向が続く
2004年
新聞の総発行部数……5302万部
(1世帯当たり部数……1.06部)
2006年
新聞の総発行部数……5231万部
(1世帯当たり部数……1.02部)
2008年
新聞の総発行部数……5149万部
(1世帯当たり部数……0.98部)
2010年
新聞の総発行部数……4932万部
(1世帯当たり部数……0.92部)
2012年
新聞の総発行部数……4778万部
(1世帯当たり部数……0.88部)
2014年
新聞の総発行部数……4536万部
(1世帯当たり部数……0.83部)
※社団法人日本新聞協会公表のデータより。新聞の総発行部数は、2005年以降減少が続いている。また、1世帯当たりの部数も右肩下がりの傾向だ。
このニュースだけは要チェック <新聞社同士が協力する動きが活発>
・信濃毎日新聞社、新潟日報社、北日本新聞社、北國新聞社、福井新聞社が共同で、観光情報サイト「北陸新幹線で行こう!北陸・信越観光ナビ」を開設。北陸新幹線の金沢延伸を機に、各地の新聞社が連携して地域の魅力を発信し、観光に寄与しようとする試みとして注目されている。(2015年1月14日)
・朝日新聞社、日本経済新聞社、毎日新聞社、読売新聞グループ、産経新聞社・産経デジタルが協力し、ニュースの新たな読み方・楽しみ方を模索するエンジニア向けイベント「新聞5紙 NEWS HACK DAY」を開催。モバイルアプリ開発に関連した動きは、今後も活発化する可能性がある。(2014年10月18日)
この業界とも深いつながりが <広告業界との結びつきは強い>
広告
広告収入は販売収入と並ぶ収益の柱。今後はネットへの目配りが不可欠
ポータルサイト・SNS
SNSなどで記事が拡散される仕組みを整えれば、広告収入増にも結びつく
IT(情報システム系)
モバイルアプリを開発し、読者を増やそうとする試みが活発化するかも
この業界の指南役
日本総合研究所 主任研究員 吉田賢哉氏
東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。専門は、新規事業戦略やマーケティング戦略、企業のビジョンづくり・組織戦略など。製造・情報通信分野などの業界動向調査や商品需要予測も手がける。
取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか