竹内海南江さん(タレント・ナレーター)の「仕事とは?」

たけうちかなえ・1964年群馬県生まれ。群馬県立高崎商業高校卒業。83年、モデルとしてデビュー。85年、トーク番組『YOU』(NHK教育テレビ)の司会としてテレビでの活動をスタート。87年11月より『日立 世界ふしぎ発見!』(TBS系)のミステリーハンター(取材レポーター)を務める。2016年1月現在272回同番組に出演し、100カ国以上の国をレポートしている。数多くのCMに出演するほか、講演会、執筆活動でも活躍。著書に『アフリカの女』(幻冬舎)、『グリオの唄』(ブルースインターアクションズ)、『おしりのしっぽ~旅する私のふしぎな生活』(集英社be文庫)など。

公式ホームページ:http://www.kanana.com

一度仕事を受けたからには、「できない」では済まされない

『世界ふしぎ発見!』のミステリーハンター(取材レポーター)として世界中を旅して約30年。訪れた国はどうも100カ国を超えているようです。もう、自分では数えていなくて(笑)。最近はよく「子どものころから観ていました」「竹内さんの仕事に憧れていました」と言われてうれしいのですが、なんだか不思議な感じもします。私自身はもともとレポーターを目指していたわけではないし、海外に行きたいという願望もなかった。そもそもこんなに長く仕事を続けるとは想像していなかったんですよ。

高校卒業後、「2年くらい遊んだら、群馬に帰って嫁に行こう」と上京し、モデルの仕事を始めました。ところが、所属していた事務所が「こいつはしゃべらせた方が面白い」と判断したんでしょうね。若者向けトーク番組の司会やラジオの仕事が来るようになり、「レポーターもやってみませんか」と声をかけられたのが、番組開始2年目だった『世界ふしぎ発見!』でした。

『世界ふしぎ発見!』での初仕事は、忘れもしません。「パリ万博」をテーマとした回と「小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)」をテーマとした回の2本の依頼が一度に来たんです。毎週日曜日に担当していたラジオの仕事の合間を縫って、八雲の暮らした島根県・出雲市と八雲のゆかりの地・ニューオリンズ(アメリカ)、パリを1カ月足らずで取材するというスケジュール。のちに聞いた話では、番組史上でも異例の強行軍だったそうです。今ならひるむかもしれませんが、当時は何も知りませんでしたから、そういうものだと思っていました。

初めてのことばかりで、冷や汗をかくことも多かったです。「パリ万博」と「小泉八雲」の回はそれぞれ担当ディレクターがいたのですが、ふたりは仕事のやり方が極端に違いました。ひとりは台本らしいものを用意せず、大まかなイメージだけを伝えて、現場で「こう言って」と指示するタイプ。もうひとりは丁寧な台本を書き、レポーターには一字一句間違いなくセリフを言うことを求めるタイプでした。最初の撮影で出会ったのが前者だったので、ろくに台本も見ず後者の現場に入ったら、さあ大変。その場で覚え、何とか撮影を乗り切りました。まさに「火事場の馬鹿力」でしたね。

以来、『世界ふしぎ発見!』には約270回出演してきましたが、いまだに「慣れる」ことはありません。さまざまな国に行きますし、毎回異なるテーマでスタッフと一緒に番組を作り上げていくので、同じ国に何度行っても新鮮な発見があります。一緒に旅をするチームはたいてい5人ほどですが、ディレクターもメンバーの顔ぶれも毎回変わります。

会社でも上司と部下には相性があると思いますが、ディレクターの指示によっては「合理的ではないな」「もっとこうしたらいいのに」と感じることもあります。でも、一度仕事を受けたからには、「できない」では済まされない。だから、私の場合、まずはやってみます。その上で、「やっぱり、これは変えた方がいい」ということを提案するようにしています。判断基準は、周りの人がより良く、気持ち良く仕事ができるかどうか。自分が楽しく仕事をするためには相手にも楽しんでもらうことが大切なので、我を通すようなことはしませんが、チームの環境をより良くするための主張はあの手この手を使ってやっちゃったりしますね。

「ミステリーハンター」の仕事で大切にしてきたのは、訪れた国の人たちへの敬意でしょうか。よその国にお邪魔して、そこの情報や文化、風景を取材させていただくことで番組を作ることができて、そのおかげで私自身も生活ができている。その感謝を忘れないようにという思いが根底にあります。

例えば、「僕はアメリカ人だから」と日本で畳の上をドカドカと靴で歩かれたら、イヤな気持ちになりますよね。そんな失礼なことはしたくないから、「郷に入れば、郷に従え」。その国の文化や習慣をありのままに受け入れちゃうんです。いろいろな国を旅すると、ホテルの蛇口から茶色い水が出たり、山中のロケ地に毒を持った虫がいたり、山賊がいたりもする。日本とは勝手の違うことばかりです。そこで怒ったり、怖がるだけでは、その土地について知ることはできないし、現地の人も困惑してしまいます。でも、「そうか。茶色い水が出るのね」と受け入れて、「どうすればいい?」と素直にホテルのスタッフに聞けば、対応策を教えてくれたり、事情の説明があってその国の生活を知ることができるかもしれません。

だから、先入観を持たないようにして、いつもありのままの自分で、どこへでも行く。そして、その土地に入るときには「お邪魔します」、去るときには「ありがとうございました」という気持ちを忘れない。そこだけは30年間、まったく変わっていないんじゃないかなと思います。

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考え方をちょっと変えるだけで、仕事への向き合い方がラクになる

海外でのロケは月に1度くらいのペースで、1回の滞在期間は2週間ほど。長い場合は、1カ月に及ぶこともあります。「オフはどちらに行かれるんですか?」とよく聞かれますが、どこにも行かず、何もしません。自宅でたっぷり眠って、起きたら、本を読んだり、テレビを見て怠惰に過ごします(笑)。休むというより、緩むという感覚ですね。仕事をしていると、朝起きて、電車に乗るだけで、知らず知らずのうちに身も心も張り詰めているもの。楽しく働き続けるには、オフの日に自分をしっかり緩ませ、心身の健康を保つことも大事だと思います。

労働意欲がないときは「この期間は仕事をしません」と休んでしまうこともあります。そうすると、何もしないことに飽きるんです。何かしたくなる。会社員だとなかなかそうはいきませんが、やる気が出ないときは無理にモチベーションを上げようとせず、「やりたい」という気持ちが自然に出てくるのを待つのもひとつの手段ですよ。

仕事仲間からよく「いつも元気で、楽しそうだね」と言われますが、その通りで、「つまらない」と思いながら何かをやることはないですね。もちろん、生きていると、日々大変なことや、やっかいなことはあります。でも、仕事って「対価」をもらうもの。「食べるために、作物を収穫する」というのが仕事の基本形で、目の前の仕事をすることでごはんを食べていけるわけでしょう。それだけでも「ありがたいじゃん」って思うんです。

だから、私は仕事のことを「換金作物」って呼ぶことにしているんです。農家の方たちはお米や野菜など食べるものを直接的に収穫するけれど、私たちは働くことでお金に換えた作物を手にするから、「換金作物」。そうすると、気が進まない仕事でも、「これはお米5キロ分かな」「牛肉200グラム分かな」と換算したりして、意外とすんなり乗り切れたりするんですよ。

イヤだと思って仕事をすると働く時間が長く感じられるけれど、「よし、やろう」と思って仕事をするとあっという間に終わったりする。やらなければいけない仕事そのものは同じでも、考え方をちょっと変えるだけで、仕事への向き合い方はラクになります。楽しく仕事をするためのストーリーを自分で練る。それも、社会人のたしなみのひとつかもしれません。社会に出たら、ぜひ楽しんで仕事をしてくださいね。

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INFORMATION

竹内さんがプロデュースしたバッグシリーズ「Kanana project(カナナプロジェクト)」。「女性の旅を心地よく」をコンセプトに、スーツケース、リュック、トートバッグなど、世界100カ国以上の旅の経験を生かした機能的で使い勝手の良いアイテムをそろえている。

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取材・文/泉彩子 撮影/鈴木慶子

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