金融と技術を合体させた「フィンテック」が今後の焦点。他企業との提携が活発化するとみられる
メガバンクとは、預金・貸出金の残高がきわめて大きな銀行のこと。日本では、三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループが「3メガバンクグループ」と呼ばれている。
2008年に起きた「リーマン・ショック」により、世界の金融市場は大混乱に陥った。メガバンク各社も大きなダメージを受けたが、その後は順調に回復。14年3月期決算では、3グループすべてが過去最高益を更新した。ところが15年に入り、各社の業績にはかげりが見え始めている。背景にあるのは、国内外の景気の先行きに対する不透明感。中国経済の減速傾向が明らかになったのをきっかけに悲観的な見方が広がり、銀行にとって本業である融資業務の収益が伸び悩んでいるのだ。また、ここ数年着実に伸びていた海外市場も、15年に入ってからは頭打ちになりつつある。
加えて、16年1月に日本銀行が「マイナス金利」を導入した。これは、金融機関が日本銀行に預けているお金にマイナスの金利をつけるという政策。日本銀行にお金を預けると損になるため、金融機関が企業などへの貸し出しに積極的になり、景気浮揚にひと役買うと期待されている。一方、メガバンクなどの金融機関にとっては、企業や個人に貸し出す際の利回りが低下し、さらに収益を圧迫する危険性が指摘されている。
ただし、各社の現時点における業績は依然として高水準だ。そこで、余力のあるうちに次に向けた一手を打つ動きがみられる。中でも焦点となっているのが、「フィンテック(FinTech)」に関する取り組みだ。これは、Finance(金融)とTechnology(技術)による造語で、金融とITを組み合わせたサービスを指す。例えば、ビットコイン(仮想通貨)を使った決済サービス、人工知能による審査を活用した融資などが登場し、注目を浴びている。こうした新サービスはIT系ベンチャーから生まれるケースが多く、既存の金融機関にとっては大きな脅威。そこでメガバンクは、自らがフィンテックの担い手になろうと努力を重ねている。例えば、三井住友フィナンシャルグループと三井住友銀行は、15年10月に「ITイノベーション推進部」を設置。新たな金融サービスの企画立案から試作開発・実用検証までのサイクルをスピードアップしようとしている。また三菱UFJフィナンシャル・グループも、15年7月に「デジタルイノベーション推進部」を設置。グループ横断で情報・通信技術の活用戦略を策定するのが狙いだ。
ベンチャー企業と協業し、「オープンイノベーション」を起こそうと模索する動きも盛んだ。オープンイノベーションとは、ほかの企業や研究機関などと連携しながら変革を起こそうとする考え方のこと。従来の金融機関は自社だけでサービス開発などを進めていたが、今後は多方面から知恵を集めることでイノベーションの加速を目指す試みが盛んになりそうだ。例えば、三井住友銀行はトヨタ自動車や日本電気などと共同で、ベンチャー企業の育成を担う企業連合「インキュベーション&イノベーション・イニシアチブ」を発足。ビジネスプランコンテスト「未来2016」など、ベンチャー企業が持つアイデア・技術を事業化する仕組みを提供しながら、ベンチャー企業との協業促進を目指している。また三菱東京UFJ銀行は、ベンチャー企業との連携促進を目的に「Fintech Challenge」というコンテストを開催。みずほ銀行も、フィンテック関連ベンチャーであるマネーフォワードとの提携拡大を16年3月に発表するなど、ベンチャー企業との提携に積極的だ。
各メガバンクグループの純利益推移
三菱UFJフィナンシャル・グループ
2009年3月期純利益……マイナス2569億円
2011年3月期純利益……5830億円
2013年3月期純利益……8526億円
2014年3月期純利益……9848億円
2015年3月期純利益……1兆337億円
三井住友フィナンシャルグループ
2009年3月期純利益……マイナス3735億円
2011年3月期純利益……4759億円
2013年3月期純利益……7941億円
2014年3月期純利益……8354億円
2015年3月期純利益……7536億円
みずほフィナンシャルグループ
2009年3月期純利益……マイナス5888億円
2011年3月期純利益……4132億円
2013年3月期純利益……5605億円
2014年3月期純利益……6884億円
2015年3月期純利益……6119億円
※各グループの決算資料に基づいて作成。なお、2015年4~12月期決算では、3グループすべてが減益となった。収益の水準は今なお高いが、今後はさらに減益幅が拡大する危険性もある。
このニュースだけは要チェック <組織変革で経営力を高める動きもある>
・みずほフィナンシャルグループが「カンパニー制」(各事業領域を独立した会社のように扱う組織のこと)を導入すると正式発表。個人や中小企業、大企業、海外企業などの顧客別にカンパニーを設けることで、多様化するニーズに応えやすい組織作りを目指している。(2016年3月3日)
・三菱東京UFJ銀行が、フィリピンの大手銀行であるセキュリティバンクとの資本・業務提携で合意。同行は2013年7月にもタイのアユタヤ銀行を買収しており、東南アジア地域での業務拡大に積極的だ。今後も、M&Aなどを通じて海外進出を目指す動きに注目が必要だ。(2016年1月14日)
この業界とも深いつながりが <IT企業との結び付きがさらに強く>
IT(情報システム系)
人工知能やビッグデータなどを活用した金融サービスは非常にホットな話題
証券
銀行と証券会社の垣根が低くなる「銀証連携」は、今後、さらに加速しそう
地方銀行
地方銀行同士の提携・再編が進めば、メガバンクとの競合関係が激しくなる可能性も
この業界の指南役
日本総合研究所 シニアマネジャー 高津輝章氏
一橋大学大学院商学研究科経営学修士課程修了。事業戦略策定支援、事業性・市場性評価、グループ経営改革支援、財務機能強化支援などのコンサルティングを中心に活動。公認会計士。
取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか