AIとは、人工知能のこと。人間の脳が行う知的な作業を模倣したコンピュータプログラムなどを指します。人間が使う自然言語を理解し的確なコミュニケーションをとったり、データをもとに論理的な推測を行ったり、経験から学習することもできます。
昨今、このAIの進展により「多くの仕事がAIに置き換えられる」と取り沙汰されるようになりました。「今自分が希望している仕事もなくなるんじゃないか」「どのように就職活動すればいいかわからない」などと不安に感じている人もいるのではないでしょうか?
先ごろ発売された著書『「AIで仕事がなくなる」論のウソ』が話題の雇用ジャーナリスト・海老原嗣生さんに、本当のところをうかがいました。
目次
プロフィール
海老原 嗣生(えびはら つぐお)
雇用ジャーナリスト、経済産業研究所コア研究員、人材・経営誌『HRmics』編集長、ニッチモ代表取締役、リクルートキャリア社フェロー(特別研究員)。
大手メーカーを経て、リクルート人材センター(リクルートエージェント→リクルートキャリアに社名変更)入社。新規事業の企画・推進、人事制度設計などに携わる。その後、リクルートワークス研究所にて人材マネジメント雑誌『Works』編集長に。2008年、人事コンサルティング会社「ニッチモ」を立ち上げる。近著『「AIで仕事がなくなる」論のウソ』(イースト・プレス)のほか『面接の10分前、1日前、1週間前にやるべきこと』(小学館文庫)『女子のキャリア』(ちくまプリマー新書)など著書多数。
サービス業や製造業、建設業などは意外と「なくならない」
今から5年前、「AI(人工知能)の進展により多くの仕事がAIに置き換えられる」というレポートが相次いで発表されました。英オックスフォード大学は「近い将来、9割の仕事は機械に置き換えられる」、野村総合研究所は「これから15年で今ある仕事の49%が消滅する」としていますが、私は、向こう15年でなくなる雇用はせいぜい9%と考えています。
サービス業や製造業、建設業などが「なくなる」と言われていますが、大量に発生する業務はすでにオートメーション化されており、残りの部分で自動化できるものは実は少ないのです。
例えば、ケーキ屋さんの販売員を思い浮かべてみてください。彼らはレジ打ちと生産だけをしているわけではなく、ケーキの補充や陳列、サービング、箱詰め、包装、ショーケースの掃除、値札替えなどさまざまな作業を行っています。このような「こまごまとした多様な作業」を1台のAIに置き換えるのは難しいため、少なくとも向こう15年間はサービス業や製造業、建設業などの現場仕事は残るでしょう。
ただ、「コンピュータの中で完結する仕事」は、今後15年間のうちに徐々になくなっていきます。
代表的なものは、事務職。パソコン内で完結できる事務処理業務は、どれもAIに置き換えられます。ホスピタリティが必要とされる秘書や営業事務の一部、そしてクレーム対応や督促などの業務は残るでしょうが、経理や人事の事務業務、および各部門に紐づいた事務担当者は確実に減っていくでしょう。
また、プログラミングやWebデザイン業務も大部分がAIに置き換わります。デザインを考えるなどといったクリエイティブ要素は残るでしょうが、少なくともコーディング業務は完全になくなるでしょう。
「手に職」を目指して取得する資格も、多くは意味をなさなくなります。簿記やWeb関連、情報処理技術者など前述の「なくなる仕事」に関連するものや、TOEIC®テストなども同様。
コンピュータの翻訳機能は急速に進化していて、現在も旅行英語は80%クリアしていると言われていますが、2025年にはビジネス英語も85%はOKとなる見通しであり、英語力が高いだけでは到底生き残れない時代がやってきます。本気で英語を習得し、MBAを取って世界で仕事をしたいと努力できる人は残りますが、「日本で受験や就職活動に失敗したから海外に行く」ような人に対する需要はなくなるでしょう。
AIの進展により「仕事の逃げ込み口」がなくなる
前述の英語力がいい例ですが、AIの進展は「逃げ込む先がなくなる」ことを意味しています。
例えば、「営業は外回りがつらいし、対人折衝が苦手だから、内勤の事務を選ぶ」などという考え方は通用しなくなります。事務部門であっても、本気でスペシャリストを目指して一生懸命勉強し、上流工程で活躍できる人は残りますが、たとえ税理士や会計士の資格を持っていても「この資格さえ取っておけば食って行けるだろう」という考えでいる人はAIに駆逐されます。楽をしたい、安定のためにショートカットしたいなどという考えは持たないことです。
女子学生のなかに「どうせ一生なんて働かないんだから、結婚まで事務職に就けばいい」と考えている人がいたら、僕はそれも危険だと思います。そのような姿勢では、どんどん活躍の場がなくなることになります。女性活躍推進の流れに乗り、働く女性の受け口は数年前に比べて格段に増えているのですから、考え方を根本から変えていかないと早晩取り残されてしまいます。
20年後は「AIを使う人・AIに使われる人」の二極化が進む
これからのAIの開発や進化について言われていることをまとめてみましょう。
向こう15年は「特化型AI」という、一つの機能に特化したAIがメイン。翻訳や事務処理などは得意ですが、前述のケーキ店のようにこまごまとした多様な業務を同時に進めることや、対人折衝などの業務はまだできません。
しかし、20年後(みなさんは40代くらいでしょうか)には、いよいよ「汎用性AI」が出現するといわれています。これは人間の脳のように柔軟で、汎用性のある人工知能のこと。いろいろなことを同時に考えることができ、多様な業務も同時に行えるようになります。
そうなると、営業の仕事もある程度、AIに置き換わっていくと予想されます。
例えば、客先の担当者のタイプにあわせて、詳細な商品説明をするのか、説明はそこそこに飲みに誘った方が受注の可能性が高まるのか、など最適なアプローチ方法や説明資料、台本までAIが考えてくれるようになり、人間はそのすき間を請け負う「すき間労働者」となる…つまり、人がAIに使われる時代がやってくるのです。
これから先を見据え、今、学生ができることは「逃げ道を探さないこと」
これまでの話を踏まえ、これから就職活動を行う学生に真剣にお伝えしたいのは「近道や逃げ道を探すのではなく、目の前のことに真剣に向き合う」ことの大切さです。
冒頭でご紹介したように、すぐにAIでなくなる業界はありません。
また、いずれ将来、AIの進展がすすめば、大半の人がAIに使われる側になるかもしれません。けれども、それ自体は悪いことではないと考えます。繰り返しますが、絶対に伸びる業界や仕事、なくならない業界や仕事なんてありません。どんな業界や仕事、会社であっても、目の前のことに一生懸命取り組み、そこで突き抜ける存在になれば、たとえ会社が傾いたり仕事がなくなったりしても、他の業界や会社でも通用する人材になれるはずなんです。
例えば、とことん営業の仕事に打ち込めば、経験を積むにつれ対人折衝能力やアカウンティング能力(企業の財務状況を理解し、分析して課題解決につなげる力)が磨かれ、たとえ汎用型AIが出現しても「営業現場になくてはならない存在」になっているはずです。そこまでになれば自社はもちろんですし、他社でも活躍できる存在になれるでしょう。
でも、「この仕事は向いていない、もっと楽な方に行きたい」「できるだけおいしい仕事に就きたい」などという発想で仕事を選ぶ人は、いつまでたってもビジネスパーソンとしてのスキルが身につかず、早々にAIにこき使われるだけの「使えない人間」になってしまう可能性が大です。
だから、僕が就活生のみなさんに伝えたいことは、就職活動においても逃げ腰で就活に臨んだり、楽な道ばかりを選んだりするのは止めた方がいいということ。そして、自分を飾ることなくさらけだすことです。
自分が向いている仕事は、自分ではなかなか気づけないもの。自分をさらけ出せば、企業側があなたの適性を見てジャッジしてくれます。向いていなければ落とされるし、うちに合うと思えば採用されます。
そして、入社後に与えられた仕事に、まずは一生懸命取り組むこと。「無理そうだ」「大変そうだ」と思っても、会社側はあなたを見て「この人ならばできる」と判断して任せています。高いと思われる目標にチャレンジし、壁を乗り越える過程でこそ人は成長するのです。
そもそも、人が「つらい」「大変そう」「面倒くさい」と思う業務は、コンピュータに置き換えられないものが多いのです。いずれやってくる汎用型AI時代に「AIを使う側の人材」あるいは「AIが進歩しても、現場になくてはならない人材」となるためにも、今のうちにマインドをシフトしておくことを、強くお勧めします。
『「AIで仕事がなくなる」論のウソ』海老原嗣生
発行/イースト・プレス 価格/1,404円
取材・文/伊藤理子
撮影/鈴木慶子
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