ES(エントリーシート)を書くときや面接でもよく質問される「就活の軸」。それは仕事を通じて何を実現したいのか、どんな働き方をしたいのかなど、企業を選ぶ上でブレない自分の価値観のことです。
でも、「軸なんてわからない」「見つけ方を教えてほしい」「きれい事を並べるのは嫌だな…」という学生も少なくないのではないでしょうか。
ただ、それは先輩内定者たちも同じ。後ろ向きな気持ちや矛盾を抱えながらも自分と向き合い、落としどころを見つけてきたはずです。そこで300人の先輩内定者の体験を聞くとともに、採用のプロ、人材研究所の曽和利光さんに取材。「就活の軸」をつくることの意味と、自分のホンネにストンと落ちる「就活の軸」のつくり方をご紹介します。
目次
企業はなぜ就活の軸を聞く?就活の軸を持つ意味って何?
ひと言で「就活の軸」と言っても、例えば表向きは「海外で活躍したい」「顧客の顔が見える仕事に就きたい」、企業に言えないホンネに近いところでは「転勤がない」「給与が高いところに行きたい」など、実にさまざまです。そもそも企業は、どうして学生の就活の軸について質問するのでしょうか。また、就活の軸を明確にすることはどんな意味があるのでしょうか。
まず企業側には、学生が明確な基準を持って会社を選んでいるかを確認し、採用に際してミスマッチを防ぐ意図があります。もし学生の価値観と実際の仕事の間にズレがあれば、せっかく採用してもすぐに離職されてしまうかもしれません。そこで企業は、選考の段階で就活の軸について尋ね、学生の志向と自社の事業や社風が合っているのかを判断するのです。
また、マッチングについては学生側も同じです。自分の就活の軸を明確にして、それに合った企業を選べば、入社した後に感じるギャップを最小限にできるかもしれません。また、就活の軸を考えることで、自分の方向性を大まかに絞って、効率的に就職活動を進められるというメリットもあります。
内定者300人に聞く!就活のポジティブ&ネガティブな軸とは?
では、すでに内定を得た先輩たちはどんな軸を持って就活に臨んだのでしょうか。また就活の軸は役に立ったと考えているのでしょうか。300人にアンケートを取ってみました。
■就活に際して、自分なりの「就活の軸」を決めましたか。決めた方は、それを決めた時期も教えてください。(n=300、単一回答)
※「卒業前年度」とは4年制の学校の場合は3年生、6年制であれば5年生、2年制であれば1年生、「卒業学年」とは4年制の場合は4年生、6年制であれば6年生、2年制であれば2年生を指します。
まず自分の就活の軸をいつ決めたか聞いてみました。すると、全体の約3割が「卒業学年5月末までに決めた」と回答しました。一方で「決めなかった」という回答は約2割でした。
■就活の軸を決めた方にお尋ねします。就活の軸を定めたことは、就活を進める上で、役に立ちましたか。(n=237、単一回答)
就活の軸を決めた人に、それが実際に役に立ったかどうかを聞いてみたところ、84.8%の人が「役に立った」もしくは「まあ役に立った」と回答。「あまり役に立たなかった」の3.0%を大きく上回る結果となりました。
さらに、先輩たちが持っていた就活の軸と、その中でもポジティブな部分と、あまり表には出せないネガティブな部分についても聞いてみました。
「就活の軸を決めて良かった」と回答した先輩の、隠されたホンネはどんなものだったのでしょうか?
あなたの就活の軸について教えてください(フリーアンサー)
- 質問内容
-
- あなたの就活の軸はどういうもの?
- 就活の軸のポジティブな面は?
- 就活の軸のネガティブ面は?
- 「軸を決めて良かった」と思う理由は?
- ●Aさん
-
- 自分らしさを生かして働ける場所を見つける。
- 長く働くことができる。
- 働き始めるまで、本当のところが分からない。
- 会社選びに迷いすぎずに済んだから。
- ●Bさん
-
- 楽しく働けること、楽しく働ける人口を増やすこと。
- 自分だけでなく、その周囲の人々の働き方をより良いものにすることができる。
- 楽しいとは何かを常に突き詰める必要がある。
- 業界を迷った時に、助けになったから。
- ●Cさん
-
- 地元で、そこに住む住民や事業者を支える仕事に就く。
- 今までずっと地元で生活していることに加え、地元の大学でそこに根差した学びをしてきた。
- ずっと地元にいるので、他の地域のことがよくわからない。
- 面接において、軸だけでなく、その理由まで聞かれるので、その場で決めては一貫性に欠けてしまうと思ったから。
- ●Dさん
-
- 自身が成長できる環境。また、会社が拡大していくか、社会に良い影響力を持てるか。
- ベンチャー企業から良い評価を受けやすい。
- マッチしない企業もある。
- 軸に合うことを面接で確認できると、入社意欲がわく。
- ●Eさん
-
- 大学で学んだ内容を生かせる。
- 社会人になっても大学で学んだことを生かせる。
- 大学で学んだ内容とは関係のない業界・職種には挑戦しようとしない。
- ESを書くのに役立ったから。
- ●Fさん
-
- 安定した企業、転勤がない企業、残業が少ない企業。
- 定年まで働ける企業を選べる。
- 面接で伝えにくい。
- 企業選択が容易になるから。
- ●Gさん
-
- 自分の経験や好きなことを生かして社会に貢献できる。
- 好きなことを仕事にできるため、長く続けられる。
- 好きなこと以外の経験を積むことができない。
- 就活の軸を通して、企業側に自分のことをよく知ってもらえたから。
自覚していなかった価値観に気づける「2社比較」とは?
ここまで「就活の軸」を決める意義と目的、そして先輩たちの事例をお伝えしてきました。
「でも自分の軸はどうしたら見つかるのか、まだ全然わかりません」と途方に暮れている人に、曽和さんが勧めるのが、「2社比較」の繰り返しをしながら、自分の軸に近づいていく方法です。
やり方は簡単。気になる企業をランダムに2社選び、「こちらの方が好き」と感じる方を選ぶことを繰り返すのです。最後に、選んだ企業群の特徴を調べることで、自分の無意識の「ホンネの軸」に近づいていく方法です。従来のように、最初に自己分析してから軸をつくるのとはまったく逆のアプローチです。
「この方法を進めていくと、例えば『アグレッシブな企業が好きだったんだ』『案外、業界にはこだわっていないのかも』など、自覚していなかった価値観が見えてきます。さらに、好きな企業をグループ分けすることで、『若い人が多い』『おしゃれな雰囲気』『自然保護に力を入れている』など、自分の軸が複数にまたがっていることも発見できたりします。
これとは反対に、『自分はこういう人間だからこうあるべきだ』と理屈でつくった軸は、案外ニセモノで、後から『違う』と気づくことも多いんです。また『転勤がない』『休みが多い』などの条件軸は、実は“must”ではなく“want”に過ぎなかった、なんてこともあり得ます。いろいろなことに気づくきっかけになるはずです」(曽和さん)。
面接で聞かれる「就活の軸」に関する質問には注意が必要
一方で、面接などで、就活の軸について質問があったときには、要注意だ、と曽和さんは話します。「本来人間は矛盾の塊。そもそも就活の軸は1つとは限りませんし、ひとりの中に矛盾する軸が共存することや、揺れ動くこともよくあります。それなのに、なぜか就活では、企業が学生に対して揺るがない軸や一貫性を求める傾向がある。変ですよね」
理由として考えられるのは、人が矛盾する事実を突き付けられたときに感じる「認知的不協和」という不安感。学生の受け答えに矛盾が見つかると、面接担当者は不安を覚え、それを解消するために厳しく突っ込んだり、問い詰めたりしてしまうのではないかといわれています。
最近の面接担当者のトレーニングでは、一貫性のなさを低評価の理由にするのはNGとされています。「人間誰しも矛盾があるという前提に立てば、それは短絡的すぎるからです」(曽和さん)。
しかし残念ながら、面接担当者の不安はまだ低評価につながることも多いのが現実です。そこで、面接の場で「就活の軸」や「ほかにどんな会社を受けたか」という質問をされたときに矛盾のワナに陥って突っ込まれないようにするための、答え方のコツを曽和さんに教えてもらいました。
「ほかに受けている会社」は、そもそも全部話す必要はない
「ほかに受けている会社は?」と聞かれたときにウソをつくのは良くないと思いますが、正直に全部を言う必要もありません。自分が発信した軸(自分らしさ、志望動機)にマッチする企業だけを答えればOKです。「間違っても『自分は挑戦する人です』とアピールしながら、なぜか受けているのが安定企業ばかり、という回答はナシにしましょう」(曽和さん)。
自分の軸に矛盾や迷いがあることを、自分から正直に表明する
発信した軸とズレのある話をしなければいけないときは、「自分でも矛盾していると思いますが」とひと言添えます。自覚があることを示しておけば、面接担当者の印象がぐっと和らぎます。「あえて逆も見てみようと考えて」「軸として、●●の観点も視野に入れて見極めている最中で、〇〇社も受けています」といった表現もいいでしょう。
理由のないことに理屈をつけない、取り繕わない
誰しも就活では「たまたまノリで」「ミーハーで」「紹介されて」なんとなくエントリーする企業もあるはずです。
「そもそも人間のやることなんて、すべてに明確で論理的合理的な理由があるわけではありません」(曽和さん)。例えば「なぜ〇〇社を受けたの?」と突っ込まれて、論理的に説明できない際には、あまり理由がないことを正直に伝えてしまった方がいいと曽和さんはアドバイスします。
自分でも説明できない「カン」で動くこともある、という自覚を示せばいいのです。無理に取り繕うと面接担当者にどんどん突っ込まれて苦しくなり、その結果「論理的思考能力が足りない」という低評価を受けかねません。その点に気をつけながら臨みましょう。
【調査概要】
調査期間: 2022年9月13日~9月16日
調査サンプル:2023年3月に卒業予定の大学生、大学院生、短大生、専門学校生300人
調査協力:株式会社クロス・マーケティング
文/鈴木恵美子
撮影/刑部友康
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