アサヒビール
前身である大阪麦酒会社の設立は1889年。1987年に発売され、長期にわたって高いシェアを誇る「スーパードライ」をはじめとしたビール類を中心として、洋酒、焼酎、ワインなど総合酒類の製造と販売を手がける。
これまでのキャリアで、最も大きな決断を迫られたのはいつですか?
これまでにはいろいろと決断の時がありました。就職活動もそうでしたが、最も悩んだのは人事・総務の社内公募への応募を決めた時です。当時私は入社9年目で、当社で花形とされている業務用営業の部署で酒販店や飲食店への営業を担当していました。入社前から希望していた通りの仕事でやりがいもあり、この先も営業職としてキャリアを積み上げていくものだと思っていました。
一方で、ちょっとしたきっかけから人事・総務の仕事にも関心を抱いていました。そのころ私は労働組合の支部長をしていて、いろいろな部署を回って会社の制度について意見を聞く機会があったんです。その時に同じ制度を説明しても、組織によってポジティブな反応をする人が多いところと、ネガティブな反応する人が多いところがはっきりと分かれていたんですね。前向きな組織にはいい上司やリーダー、ムードメーカーがいて、組織全体にも大きく影響しているような気がして。組織の雰囲気というのは個人の資質や性格によるところもあるけれど、適材適所に人材を配置してそれぞれのいいところを発揮できるようにするなど、会社の取り組み方にも大きく左右される。そういう組織づくり、人材づくりに貢献できる人事・総務の役割は重要なんだなという思いが芽生えました。
ちょうどそんな時に、人事総務部門を志望する人材を社内で募集していて、応募してみたいと思ったのですが、大きな葛藤がありました。営業職として重要な得意先を担当させてもらうまでになったのに、簡単にキャリアチェンジしていいのかと。自分のような未経験者が人事総務部門に行って、果たして役に立つのか不安もありました。
背中を押してくれたのは、当時の支店長のひと言です。上司には私の葛藤や不安も隠さず、率直に相談をしました。すると、「一緒に戦ってきた仲間として残念な思いもあるけれど、三浦がその思いで営業部隊を含め会社全体をいい方向に持って行ってくれるのであれば、選んだ道を応援する」と言ってくれたんです。また、労働組合の仕事でいろいろな組織を見る中で考えた「前向きな組織の中でこそ人は活躍できる」という仮説を自分自身で実証してみたいという思いが強かったことが大きいですね。
公募に合格後、人事部での初めての仕事は営業統括部門の研修担当でした。営業部とは異なる環境での初めての業務に戸惑うこともありましたが、営業現場での思いを大切に営業職の育成プログラムを組み立てたり、営業のプロセスを整理しました。それまでの経験や思いを生かしつつ、人事面から会社に影響を与えていく仕事を経験でき、人事部でのキャリアの足がかりとなりました。その後、秘書を経て、現在は管理職として採用や人材育成、ダイバーシティ推進を担当しています。すべてが人事部の公募に応募していなければできなかった貴重な経験で、あの時に思い切って決断をしていなければ、今の自分はなかった、と思っています。
後悔のない就職活動をするためのアドバイスをいただけますか?
まず決めつけてみる、思い込んでみるというのも大事だと思います。私の場合、アサヒビールを志望したのは営業職への憧れからでした。一人の営業担当者の努力や日々の取り組みが市場全体に影響を与えるということに夢を感じて、営業の強い業界に入りたいと思っていました。勝手に自分は営業職に適性があると思い込み、営業の募集をしている企業ばかり五十数社受け、一番「面白そう」と感じた会社がアサヒビールでした。
今思えば、実際に働いてみたわけでもないのに「自分は営業に向いているんじゃないか」なんてよく判断できたなと自分自身にあきれてしまうのですが、それでいいと思うんです。いろいろな企業について調べて、慎重に考えることも大事ですが、情報が多過ぎると迷ってしまって動けないということもあると思います。それよりは、少しでも自分が得意なこと、好きなことに重なる仕事を「向いている」と思い込んで、いったん掘り下げてみる。それで企業説明会なり面接なりで「違うかな」と感じたら、また別の仕事を掘り下げる。そうやってまずは思い込んで行動してみるというのが、後悔のない就職活動をするためには大事なのではと思います。
三浦さんから学生の皆さんへ
就職というのは大きな決断ですから、迷うこともあると思います。「まずは行動してみることが大事」と言われても、慎重にもなりますよね。私の場合は、何かの機会が巡ってきたら、決断をする前に「誰かに相談してみる」「話を聞いてみる」など一つアクションを起こしてみることにしています。一つひとつのアクションは小さくても、その一歩を踏み出す勇気・決断の積み重ねで人生が大きく変わっていく。そんな感覚を大切にしていれば、思考停止に陥らず、常に前向きな決断ができると思います。
取材・文/泉彩子 撮影/刑部友康