香港にある日系企業の現地法人に勤務。中国に関連した書籍を読むことや、ゴルフが現地での楽しみ。
経営トップのネットワークがビジネスを動かす
はじめまして。TOSHIZOです。香港にある日系企業の現地法人に勤務し、香港だけでなく、広東省を中心とした華南地区の業務を担当しています。
オフィス内にいるのは、私を含めた日本人駐在員数名のほかは、すべて香港人スタッフ。頻繁に出張している中国の主要都市のオフィスでは、日本人駐在員や中国人のスタッフと共に業務を行っています。取引先は、日系企業とローカル企業が混在しています。
香港の公用語は英語と広東語ですが、広東語がビジネスに出てくる場面はまずありません。当社香港オフィス内では、日本語を話す社員は数名のみなので、基本的にすべて英語です。一方、中国大陸でのビジネスでは、基本的に中国語(普通語)を使います。広東語は中国語の方言とされていますが、使用する字は「繁体字」(普通語は「簡体字」)であり、発音もまったく違います。ちなみに、当社の香港人スタッフは、少なくとも英語・普通語・広東語の3つの言語を操ることのできるトリリンガルです。
香港で仕事をしていると、ここには英国統治下の影響がまだ残っており、依然として「階級社会」であることをひしひしと感じます。その1つが「クラブ文化」。エグゼクティブによる排他的な「クラブ」が存在し、その中で、相互に親睦・交流を深め、さまざまな貴重な情報交換がなされているのです。
アジアにおけるマネジメントスタイルは、欧米流と比較すると、経営者一族による、いわば「ワンマン経営」に近いのが特徴だと思われます。そのため、部下の意見を吸い上げるボトムアップ型アプローチよりも、経営者が即決する「トップダウン型」でビジネスが進んでいきます。したがって、ビジネスに有用な情報を入手するだけでなく、有力なビジネスパートナーを得ることができる「クラブ」の存在は、意思決定のスピードおよび効率性を考慮すると、非常に重要です。まさに、香港では必須のビジネスアイテムと言えるでしょう。
「クラブ」は、いわゆるエグゼクティブによる紳士のサークルだけではなく、ゴルフ、ヨット、クリケット・競馬などスポーツを媒体とする富裕層向けのものも多く存在します。特に、伝統あるクラブは、金さえ払えば、誰でも入会できるわけではありません。既存会員からの紹介を受けても、10年単位のウェイティングが必要なケースもあるそうです。
年度替わりの3月は仕事にならない
英国法をベースとし、法体系も非常に整備されている香港ですが、特に、資本家にとっては非常に有利な法体系と言えます。理由を問わず、1カ月前の通告で雇用契約を解除することができるのがその一例です。よって、必然的に従業員のマインドも日本とはまったく違います。彼らは、経営側が従業員一人ひとりに対して、期待する役割・仕事を細かく定義し、その成果に応じた評価・待遇で報いることを求めてきます。自分のキャリアアップを求めての転職率も相応に高いと感じます。香港人のたくましさは、こうした労働法制に起因するのかもしれません。
そのため、現地スタッフのマネジメントや評価においては、個々人のキャリアパス(業務経験に応じた昇進・昇格の方向性)を念頭においたうえで、具体的かつ論理的な理由と説明が求められます。売り上げなどの数字に基づいた人事査定は、本人の納得も得やすいのですが、それ以外の評価は相対評価となるので、おのずと評価の低いスタッフも出てきてしまいます。したがって、われわれマネジメント側にも、低評価のスタッフにはいつ辞められても仕方ないという心の準備が必要です。
現地スタッフ間の競争もあります。要職にある駐在員を味方につけようとしてご機嫌を取るだけでなく、仲の良くないスタッフの足を引っ張るための中傷をする現地スタッフもいるほどです。一方的な情報に惑わされて恣意(しい)的な対応とならないよう、常に事実関係を確認しながら行動することが求められます。トラブル時には、必ず双方の言い分を聞いた上で、フェアに判断するように心がけています。
現地スタッフは、実質年間10日前後の有給休暇が与えられますが、彼らはそれを残さず使い切ろうとします。そのため、年度の切替期限となる3月は、多くのスタッフが有給休暇を取得することになり、ほとんど仕事になりません。休暇を取るのは従業員側の権利なので、スタッフが業務の進捗に配慮して休暇を取ってくれることを期待するのはまず無理な話。よって、マネジメント側が、先を見越して対策を練るしかありません。2月には旧正月に伴う休暇もあるので、3月締めの決算であれば、12月までが勝負です。とは言っても、なかなか思い通りには事は運びません。個別プロジェクトを抱える場合はさらに深刻です。そのときは、結局、日本人駐在員がフル稼働して穴を埋めることになります。
女性が活躍しているのも、香港のビジネスの特徴です。そもそも、雇用関係における男女差別は法的に禁止されていますし、実務の上でも女性の役割が大きく、非常に存在感があります。ここ香港の住宅費と教育費の高さも、その背景と言えるでしょう。世界有数の人口過密地域である上に、中国本土からの投資マネーの流入で不動産が高騰していますし、子ども1人あたりの教育費は日本の数倍以上かかると言われています。平均的な家庭であれば、妻が専業主婦ではとてもこれだけの出費をまかなえないというのが実情なのでしょう。そのため、女性がフルタイムで働くのは極めて普通のこととなり、ビジネス社会に占める存在感もおのずと高まるのだと思います。
次回は、中国と香港の関係についてお話しします。
九龍半島からビクトリア湾を隔てて望む香港島。湾沿いのエリアには、超高層ビルが林立している。
香港のソウルフード「ワンタン麺」。香港のワンタンの中身は、エビが主流だそう。広東語では「ワンタンミン」という発音になる。
赴任当初、しばらく住んだ部屋の窓に広がっていた夜景。ビクトリア湾を行きかうスターフェリーを見下ろす絶好のロケーションだった。
構成/日笠由紀