起業家インタビュー

Vol.2 株式会社はてな 代表取締役社長 近藤淳也さん

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1975年三重県生まれ。京都大学理学部卒。2000年同大学院中退後、01年7月に「人力検索はてな」を開始し、京都で有限会社はてなを設立。03年「はてなダイアリー」サービス開始、04年2月に株式会社はてなに改組。現在、京都に本社、東京に本店がある。著書に『「へんな会社」のつくり方』(翔泳社)。

制服への違和感を通して、世の中に疑問を持つようになった

僕は小学生から高校生になるまでに、徐々に道をはずれていったような気がします。小学校はとても恵まれていました。田舎の小さな学校で、みんな本音で話していた。先生ともタメ口で話すようなフラットな環境です。今思うとすごいことですね。そこから中学校にあがると、状況が変わって驚きました。

 

詰め襟の制服が嫌だったので、校則を変えてなくせばいいと思い生徒会長になりました。納得できないことは、抵抗するよりは既存のルールの中で変えようとしたのです。でも、1年間頑張って結局、朝練に行くときは(制服ではなく)学校指定のジャージでよくなっただけ。すでにあるシステムの中で物事を変えることに限界を感じ、徒労感が残りました。

 

そのせいか高校生になるころには、生徒会とかにはまったく興味がなくなっていた覚えがあります。高校も詰め襟の制服でしたが、学校が山の上にあったので自転車通学で汗をかくことを理由に、勝手に私服で通いました。校門で制服チェックをする先生の横を、ものすごい勢いで走り抜けて(笑)。そのあたりから、既存のシステムやルールをあまり信じなくなり、人生を横道にそれていった気がします。

 

うまくいくかは考えず、どうしても作りたかったから起業

25歳のときに起業しました。直接の理由は、「人力検索」というネット上で不特定多数の人に情報提供を求められるサービスのアイデアを思いついたので、作ってみようと思ったことです。父がネットの検索で苦労しているのを見て、人に言葉で聞ける検索エンジンがあったら…と思ったのがきっかけでした。困っている人がいるなら、それを解決したいという、社会的使命感のようなものですね。

 

起業につながる体験はほかにもあります。学生のころから企画をして人を集めることが好きで、ツール・ド・信州という自転車のレースイベントを主催していました。いろんな方に参加してもらえて、すごく面白かった。その経験で起業前から、個別のスキルを磨いて専門家になるのではなく、企画を立てていろいろとやっていくのは社長業や経営と近いのかもしれないという漠然とした思いはありました。ただ、それを自分ができるとは考えていませんでしたね。実際、起業してからしばらくは、マネジメントはあまりうまくいっていなかった。自転車イベントは5日程度なので勢いでどうにかなったけれど、会社は最近やっと組織らしくなってきたかなと思っています。

 

人力検索を作るときは、もうかるか、うまくいくかは考えていませんでした。どうしても作りたかった。間もなくして、思い描いていたとおりのサービスをリリースすることができました。でも、世間の反応はまったく想定と違っていた。ユーザーが集まりませんでした。それでもあきらめませんでしたけど。つらいことなんて、起業前からありましたから。

 

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試行錯誤すること自体が仕事の喜び

はてなという会社は、人に例えると今25歳くらいだと思っています。モラトリアムを脱して、さて、そろそろビジネスをやりましょうかという感じ。先のことはあまりわかりません。25歳の人に「35歳のときには何をやっているつもりですか」と聞いてもわからないのと同じです。努力を続けて10年後どこまでいけるかという期待感はもちろんありますし、根本にある価値観や動機は変わりません。最初の志は、まだまだ果たせていないと思っています。

 

利益を出して業績を伸ばさないとだめだね、と最近は話しています。今さらの話だと思われるかもしれませんが、意図的に遅らせていたわけではなく、全力で走っていたものの走り方がよくわからなくて。

 

僕は就職経験がほとんどなく、きっちりとした上下関係のあるクラブにも入ったことがありません。マネジメントの効いた組織のイメージがわかりませんでした。それなのに、人がやっている方法をただまねするのは絶対に嫌なタイプ。試行錯誤すること自体が仕事の喜びなので、何も考えずにまねすることはしたくない。その過程をショートカットしたところで、何が楽しいのかわからない、と思ってしまいます。例えて言うならば、自転車旅行のようなものです。京都から宗谷岬(北海道にある日本最北端の地)に走って行きたいときに「電車で行くと早いよ」と言われても、意味がないですよね。

 

先人の知恵に救われることはもちろんあるので、知識を吸収すること自体は悪くありません。でも、今の方法でうまくできるなら、がむしゃらに新しい方法を探さなくてもいいと僕は思う。手段と目的を混同せず、壁にあたったときに必要な能力を吸収していけばいい。壁にあたる前にいろいろ考えるより、次の壁がくるように今やるべきことをやればいいと思っています。

 

社会人経験なしで起業をすると、苦労はします。会社という場所で、一度見ればわかることを誰も教えてくれませんから。でも、経験を積んでからにすべきかどうかというと、どちらでもいいと思います。ただ、誰かが足りないスキル等を補完すればうまくいったはずの志ある会社が、そこに気づかなくて終わってしまうことは避けてほしい。これも自転車旅行に例えて言うと、行きたかったらすぐに出発すればいい。けれども、無駄な死に方はしてほしくないということです。

 

Appleのスティーブ・ジョブズも、Facebookのマーク・ザッカーバーグも、経営者としては足りないものだらけです。それでも、会社を上場して社長を続けられた。足りないところはほかの人が補完して、良いところを伸ばそうという社会的コンセンサスができ始めているのではないでしょうか。日本はまだその厚みが十分にはありませんが、自分が苦労した分、僕は少しでもほかの人の役に立てればと思っています。

 

ビジネスは1位を競うレースじゃない

サービスを作ったら、世界中の人に使ってほしいと純粋に願います。競争心がないわけではありませんが、誰かを蹴落としたいとは思いません。ただ、使ってもらえないと悔しくて、どうしたら使ってもらえるのかと必死に考えます。

 

ビジネスをすることは、利益や時価総額の数字レースをすることではありません。もしそうだとしたら、1位以外はつらい。ほとんどの人は負けになってしまう。でも、仕事の喜びは世界を圧倒して数字で負かすことだけではないですよね。成長や数字や資本主義を否定する気はありませんが、健全な成長意欲と成長速度を持って自分が行きたいところに行くこと。そこに仕事の意義があると僕は思います。

 

ここ10年間くらい、起業家が集まるイベントによく参加していますが、長く見ていると浮き沈みがあります。盛り上がっていた会社の業績が落ちてしまうことも、逆に急に上がることもあれば、じわじわと上向いていくこともある。いろいろな会社がありますが、10年前から残り続ける経営者には共通点があります。社会的な使命感があるのです。個人で完結した動機で会社を運営している人は結局、理由はさまざまですがやめてしまいますから。

 

もし僕が会社に入るとしたら、社長の使命感の中に従業員が入る余地があるところがいいなと思います。そのためには社長の志が高く、裾野が広いことが大事です。裾野が広いと、いろいろな人がその中に入ることができます。

 

例えば、僕が自転車レースの選手としてツール・ド・フランスで1位になりたいのなら、多くの人は僕の夢に乗れない。でも、僕が日本でツール・ド・フランスを開催したいと言ったら、より多くの人が僕の夢に乗ることができますよね。はてなの話をすると、「お父さんが検索できる世の中を作りたい」という夢は、僕自身のことではなく人のことです。だからこそ、ほかの人が一緒に夢に乗ってくれる余地があるのだと思っています。

 

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これから社会にでる皆さんへ

僕は、就活をしないまま22歳で大学を卒業し、モラトリアムでふらふらしていた時期は、とてもしんどかったです。大学院に籍をおいたり、写真の仕事をしたりはしていましたが、自分が何をすれば世の中で役に立てるのかずいぶん悩みました。周りの人はどんどん就職して、活躍していく。それなのに僕は、何をするかも決められませんでした。

 

それでも、嘘(うそ)はつきたくなかった。やりたい仕事はわからなかったけれど、大学に入って4年間も思いきり遊んでいれば、自分はどういう人間か、何が好きか、わかってきます。だから、時期が来たからといって制服のようなリクルートスーツを着て面接を受けて回ることはできませんでした。自分を偽ることになると思ったのです。

 

そうしてモラトリアムを過ごしたので、夢中になれる仕事が見つかっただけですごく幸せです。起業してから今まで途中で投げ出さなかったのは、思いきり悩んだ時間のおかげかもしれません。

 

会社をやり始めると、日々いろいろな問題が起きます。それが自転車イベントをやっていたときの感覚に近かった。不確定な状況に入っていって、なんとか越えていくのが面白いと感じるタイプだと自分では思っています。毎日、進み続けて、ふと振り返って「意外と遠くまで来たな」と思える瞬間が好き。起業して熱中しているうちに、いつのまにかモラトリアムから抜け出せていました。

 

僕は言葉だけでどうこう言うのは、あまり好きじゃない。皆さんがいろんなことを考え、悩み、思うことがあるなら、まずはやってみればいい。自分なりに道を決めて、そして、行動を起こす人が増えるとうれしいです。

 

近藤淳也さんHISTORY

2000年
京都大学大学院理学研究科へ入学後、自転車レース活動でレーサーと測地学研究の二足のわらじを履くものの、ケガ等をきっかけに夢をあきらめ中退。自転車競技専門のプロカメラマンを経て、ITベンチャーでプログラミングを教わり、起業の準備を始める。
2001年7月
京都で有限会社はてな設立。
2004年
株式会社に組織変更し、東京都渋谷区に事務所(本社)を移転。
2006年
夏から米国シリコンバレーに活動拠点を移し、Hatena Inc.を設立。その後、2008年帰国。再び本社を京都へ移転し、京都を基点に全国展開。13年現在はサービス利用会員が365万人、サイト訪問者は2200万人規模へ拡大。
国際的カンファレンスイベント「TEDxKyoto」 co-founder。

 

充電したいときは?

気力や体力を充電したいときは、眠ります。僕は普段からよく寝るんです。夜の睡眠時間は長くはないですが、眠ければ昼間でも会議室などで15分くらい寝ることにしています。頭がスッキリしますし、いつでも15分は寝ていいと思うと「夜ちゃんと寝ておかないと」と心配しなくていいですから。僕自身がよく寝ているので、会社でほかの人が眠っていても「寝てるなあ」と思うだけで気にしません。

 

近藤さんの愛用品

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あまり物を持ち歩いていなくて、スマートフォンとMacBook Airくらいしか紹介するものがありません。スマートフォンは自社サービスをチェックするために2台持っています。ブログや原稿はiPhoneで書いてから、メールで自分宛てに送ります。パソコンより集中して書けますよ。

 

 

取材・文/サカタカツミ 撮影/刑部友康

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