日本型の新卒採用はポテンシャル採用。「若手にも戦力を求める」欧米型とは大きく異なる
「日本ならではの新卒一括採用」は、よく批判のやり玉に挙げられます。新卒の大量採用なんて高度経済成長期の名残りであり今の世の中には意味がないとか、若手を一からゆっくり育てているから、実力主義でスペシャリスト志向の欧米企業に競り負けるんだ、などなど。皆さんも、漠然と「なぜ日本には就活が存在するのだろう?」と疑問に思ったことがあるのでは?
実際、日本型の新卒一括採用は、世界から見ると非常に特殊なシステムです。日本以外はほぼ欧米型の雇用システムであり、日本に近いシステムはせいぜい韓国くらいでしょう。
では、日本型雇用と、欧米型雇用の違いを、明らかにしてみましょう。
欧米型の雇用は、組織や職務に応じて、ポストの数、そして職務が決まっていて、「ポストに空きが出た場合のみ、その職務が十分にこなせる人」が採用されます。これは皆さんが思い描く「専門職採用」とも違います。専門職といえば、「営業」「経理」「エンジニア」と職種で分かれていますが、欧米はそんな生易しいものではないのです。例えば、カーディーラーで東京支店の営業1課(大衆車担当)で採用された場合。関西や経理への配置転換がないだけでなく、銀座支店への異動もないし、同じ東京支店の隣の営業2課(高級車担当)への異動もないのです。あくまでも、「特定のポスト」で雇用契約が結ばれるだけ、というのが欧米型です。
ポストの空席にピッタリな人を雇うという仕組みだと、職務経験のない若手が登用される可能性は少ないでしょう。だから欧米は若年失業率が日本よりも格段に高いのです。
日本の場合は、ポストなどは曖昧で採用します。例えば経理なら、債権管理などの仕事が比較的簡単なため、最初はここから始めるケースが多いでしょう。ただ、ポストも職務も曖昧な日本は、債権管理とは名ばかりで、財務や管理会計から簡単な雑用を切り出し、どんどん振られます。日報の入力とか、伝票のファイルとかですね。そうこうするうちに、伝票から勘定科目を読めるようになり、日報から進捗(しんちょく)率がわかるようになる。そんな感じで、雑用を多々こなしながら、未経験者でも自然と習熟を積める。ポストが曖昧だから、このように、未経験者を受け入れられるのです。
面白いのは、日本型の正社員雇用契約。具体的にどのポストで何をやるかは書かれていません。契約は「会社に入る」ということのみ。対して、前述のように、欧米型では「具体的個別的なポスト」で契約を交わします。
日本ならば、万が一自分が所属している部署がなくなっても、ほかの部署に異動することで働き続けられます。会社に入るわけですから。一方、欧米型では異動の概念はなく、「ポストがなくなったらそれで終わり」です。また、給与をさらに上げてステップアップしたければ、今の場所で最大限の力をつけた上で、さらに上のポストに空席ができたとき、応募するしかありません。空席がなければ、どんなに習熟しても下位ポストに甘んじなければならないのです。
採用した社員全員を育て上げ、全体パフォーマンスを維持する日本型か、厳しい競争を勝ち上がってきた少数のエリートに全体を引っ張らせる欧米型か――どちらが正解だと言いたいわけではありません。「日本の就活なんてばからしい」「専門を磨ける欧米型の方がいい」なんて言う前に、これだけの根本的な違いがあることは理解してほしいですね。
日本は未経験者を登用し、成長に応じて職務バリエーションと難易度を変えていく。それに対し欧米は、職務スペックにぴったりな人材を社内外から探してくる。
取材・文/伊藤理子 撮影/鈴木慶子