景気回復によって市場は堅調。「IoT」「クラウド」「ビッグデータ」などのキーワードに注目
システム開発は、顧客企業の要望をくみ取って必要な機能などを明確化する「要件定義」などの上流工程、システム設計などを手がける中流工程、プログラミングやテストなどを行う下流工程に大別できる。一般に、上流工程は中・下流工程に比べて収益性が高い。そのため、顧客企業と直接契約を結ぶ「元請け」企業は上流工程を中心に担当し、中・下流工程を「2次請け」企業に委託することが目立つ。そして2次請けは、自社で請け負いきれない業務を3次請け以下の企業に再委託する。このように、元請けから下請けまでがピラミッド型構造になっているのが、この業界の特徴だ。そこで、収益率アップのため、下請けではなく元請けを目指す企業は少なくない。一方、システムの運用・保守といった業務は安定した収益を確保しやすいため、開発よりこちらの業務を重視する企業もある。
国内企業は、コンピュータメーカーなどが源流の「メーカー系」、大手企業の情報システム部門が子会社化してできた「ユーザー系」、特定の親会社を持たない「独立系」に大別できる。メーカー系としては日立システムズ、富士通エフサス、NECソリューションイノベータなど、ユーザー系ではNTTデータ、野村総合研究所、日本総合研究所など、独立系ではITホールディングス、大塚商会、日本ユニシスなどが代表格。また、世界規模で見れば、IBM、ヒューレット・パッカード、アクセンチュアなどが大手として知られる。
経済産業省の特定サービス産業動態統計調査によると、2014年における「情報サービス業」の売上高は10兆6328億円で、前年より3.0パーセント増だった。市場規模は1990年代中ごろから大きく成長し、2000年前後には年20パーセント程度の急激な伸びを示した。その後、リーマン・ショック(08年)に端を発する景気後退や東日本大震災(11年)などの影響を受けてマイナス成長が続いたが、12年からは3年連続で市場は成長中(下記データ参照)。景気の回復によって企業のIT投資は活発になっており、今後しばらくは右肩上がりの傾向が続くと見られている。
しかし、明るい面ばかりではない。気をつけておきたいのが、社内で運用してきたコンピュータシステムを、インターネットの向こうにある社外システムに置き換える「クラウド化」の拡大だ。以前の日本企業では、巨額の開発費をかけ、自社に合ったシステムをゼロから作りたいと希望するところが多かった。しかし、開発費を抑制する動きが強まったことや技術が進化したことにより、近年では安価なクラウド型のシステムを採用する企業が増えているのだ。中小企業を中心にクラウド化への移行は今後も続くとみられており、システム会社各社は対応を迫られている。ただし、大手企業や、金融業界など高度なセキュリティを要求される業界では、今後もオーダーメード型の開発案件が発生するとみられており、過度に悲観的になる必要はない。
今、注目されているキーワードが「IoT」。これはInternet of Thingsの略で、「モノのインターネット」と訳される。さまざまなモノをインターネットに接続することで、より高度な制御や、データの蓄積・分析を通じた改善の実施などを可能にする取り組みだ。例えば、「自動車に取り付けたセンサーで各車の位置情報を把握し、渋滞回避に役立てる」「検針員がチェックしなくても、『スマートメーター』によって毎月の電力使用量を遠隔把握する」などの仕組みが模索されている。また、「インダストリー4.0」(「第4次産業革命」とも呼ばれる)という言葉も話題。工場などに数多くのセンサーを設置し、ネットワーク経由で異常を発見するといち早く自動修理するなど、「自ら考え、効率化を図る」工場づくりが進められている。こうした新たな仕組みにはシステム開発が不可欠で、各社にとって新たな収益の柱となりそうだ。また、「ビッグデータ」(大規模なデータという意味。SNS上の書き込みを分析してマーケティングに生かす、海流や気候などのデータを分析して航空機や船の安全運行に役立てるなど、幅広い分野で活用が進んでいる)にも、引き続き注目しておきたい。
市場規模は3年続けて拡大中
1990年……3兆1441億円
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1995年……3兆7730億円
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2000年……6兆409億円
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2005年……9兆7268億円
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2008年……11兆2038億円
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2010年……10兆1504億円
2011年……9兆8807億円
2012年……10兆1202億円
2013年……10兆3265億円
2014年……10兆6328億円
※特定サービス産業動態統計調査より「情報サービス業」の売上高を抜粋。リーマン・ショックなどの影響で、08年以降市場は縮小傾向だったが、12年以降は再びプラスに転じている。
このニュースだけは要チェック <IoTに関する動きが活発化しそうだ>
・日本IBMが日本電産と共同で、さまざまな生産設備の稼働率向上を目指す取り組みをスタート。日本IBMのビッグデータ解析技術を生かし、生産設備の小さな異常をいち早くチェックして故障が発生する前に対処する仕組みを構築するのが狙いだ。(2015年6月22日)
・ITやエレクトロニクスをテーマにした総合展示会「CEATEC JAPAN 2015」が開催され、13万人以上の来場者を集めた。こうしたイベントでは、IT系企業が最新の技術・サービスに関する展示を行っており、業界志望者にとっても十分に参考になるはずだ。(2015年10月7~10日)
この業界とも深いつながりが<IoT拡大で、幅広い業界と協力する可能性が>
生活家電
家電製品の分野でもIoTが進んでおり、システム開発へのニーズが増えそう
メガバンク
銀行をはじめとする金融業界では、ITを活用した新サービスの開発が進行中
陸運
物流会社の中にはIT化を進め、輸送や在庫管理の効率化を図るところが多い
この業界の指南役
日本総合研究所 シニアマネジャー 粟田 輝氏
慶應義塾大学大学院理工学研究科修士課程修了。専門は経営・事業戦略、各種戦略策定・実行支援や事業性評価。幅広い業界・規模の企業を対象としている。最近では、今後さらなる発展が期待されるブラジル市場に注目し活動中。
取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか